第37話 不思議な出会いと仕返し
なんとかコメツキチョウを捕獲することに成功した俺は、あまりの異臭でもげそうになる鼻をなんとか塞いで帰り道を歩いていた。
今度は以前と違ってなんとか迷わずに帰れそうだ。というか、これで帰れなかったらいよいよ方向音痴確定だからな。大人の威厳を保つ為にもしっかりと帰った。
しかし、その道中でとある出会いがあった。
それは、鼻を塞いでいることによって嗅覚が失われた事で、他の感覚器官が鋭敏化したのだろうか。俺は帰り道にあるものを見つけてしまったのだ。草むらの中にひっそりと、だけどもどこか凛とし様子で佇んでいた……赤い球体だった。
「ん?」
俺は何故かその赤い玉から目を離せなかった。本来ならば見つかっていないはず赤い玉、往路では見つけられなかったから、いつもの状態であれば絶対に気づかなかったであろうその玉に俺は何故か惹かれてしまったのだ。
鼻を塞ぐことも忘れて俺はその玉に近づき拾い上げてみると、それは手のひら大の大きさで、所々土がついているものの、中からうっすらと光っておりとても綺麗だった。
これを俺の住んでいた世界に持って帰ると、かなり大きいビー玉、いや水晶だと思われるだろう。だが、ここは異世界、水晶くらいならあるかもしれないが、こんなに丸く整形するのはこの技術でできるか怪しいし、ましてやガラスがあるとは到底思えない。
そもそも中から薄らと自然発光するって俺がいた日本でも無理じゃないか?
ならば、これはなんだ?
最初はただ見つけて、なんとなく拾って見ただけだったのだが、まじまじと観察している内に段々と不可解になってきた。何故、こんなものがこんな場所にあるのか、と。
こんこんと叩いてみると、それがかなりの強度であることも窺える。砲丸投げに使われてたはずもないだろうし……
よし、とりあえず持って帰るか! これが価値のあるものでもないものだとしても、俺からしたらとても綺麗な代物だから持って帰って宿に置いておいてもいいだろう。
子供が海に言って綺麗な貝殻を拾ってくる、みたいな感じだな。いい歳こいてそんなことしてるのかって言われたら少し恥ずかしいが、それでも実物を見たら誰だって持って帰るだろう!
この異世界じゃ、よう子供たちが持って帰っているのかな? あ、そうだ。依頼の報告ついでに受付さんに聞いてみよう。もし持って帰った経験があったら答えてくれるかもしれないしな。
そんな偶然の出会いもありながら、俺は冒険者ギルドへと戻ってくることができた。ふう、これで俺は方向音痴ではないな。
さて、今日ばっかりは色々と受付さんに言わないといけないことがあるな。そもそもなんだあのコメツキチョウとかいう虫は! あんなに臭いって聞いてないぞ?
なんか思い出すと、赤い玉がどうでもよくなるくらいにはイラついてきたな。一言言ってくれてもいいだろうが。あれは完全に知ってて騙したんだろうな。臭くて誰も依頼をこなさないから消化されなかったのを俺に押し付けたということか。
これならば今度は積極的に薬草の依頼は受けよう。あれだけでも当分の間は生活できるのだから。
「依頼の確認をお願いします」
俺はいつもの受付のところに来て、あえて不機嫌そうな顔と声をしてそう言った。あ、そうだ、もっといいことを思いついた。この場であの蝶を出してやろう、そうすれば俺と同じ苦しみを味わえるはずだ。
「これとこれです」
そこである違和感に気がついた。
「え、臭くない!?」
そう、あの悪臭が綺麗さっぱり消えてしまってたのだ。なぜだ、これでは仕返しができないではないか!
「あ、ヤマダさんもしかして私に騙されたと思って、仕返しを企んでいましたか? 残念ながらコメツキチョウは発生時の臭いが凄いのですが、少し時間が立つだけで消えてしまうんです。もしかして、結構怒ってます?」
それを聞いて俺は怒る気力すら失っていた。全てのこの受付の手のひらの上だったということか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます