第2話 ボア
・ボア
ごく一般的なイノシシ。猪突猛進を体現したような行動をとり、まっすぐ突進することしか頭にない。前方しか見えておらず、側面からの攻撃に弱い。
お、おう。すぐさま鑑定を発動した俺を褒めてやりたいがそれどころではないな。コイツが強いのか弱いのかさっぱり分からないが、絶望する状況でも無さそうだ。ここまできたらやるしかねぇな。
「ブフォ、ブフォ!」
俺と目が合って、ボアのボルテージが一気に上がったようだ。俺のことを獲物と認識したらしい。認めたくはないが、確かに今のところ捕食者は相手だろうな。だが、俺にはスキルがあるんだ!
「頼むっ、【ランダム武器生成】!」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
は?
……もう一回使おう。
「【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「……【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「…………【ランダム武器生成】」
『ランダム武器:バケツを生成しました』
「うぉい!! っざっけんなよ!!」
は? バケツって武器なの? は? ふざけんなよ。もうやめよう、これはおかしいだろマジで、もうやらね、だってもうどうせ死んでるんだろ、もう嫌だ。
俺の手元には四つの青いバケツ、あの小学校の頃に使ったアレだ。そして、目の前には今にも突進してきそうなイノシシ。
……いや、無理だろ。
何回、いや何十回考えても無理だ。勝てるビジョンが見えない。折角の第二の人生ここで終わりなのかよ、まあ、元から無かったものと考えれば別に惜しくもないさ。そうだ、そうだ、こんな無理ゲーハナから攻略させれる気も無いんだよ。
とうとう臨界点のイノシシが俺に向かって走り出した。完全に俺を捉えて頭に血が上っており、軽く目が血走っている。鼻息も荒く、今にも食べられそうだ。
……え? そんなに? そんなに俺食いたいの? 俺は絶対食われたくないんだけど、そんなに破茶滅茶興奮された状態では流石に食われたくないし、そんな奴に殺されたくもない。
何かないか? 何か、この状況を一変できるような何かが。
考えろ、ひたすら考えろ俺がこいつに殺されない為の一手を、食いちぎられない為の一手を……!
バケツ、バケツ、バケツ、バケツ!
バケツは水を掬って溜めるもの、主に掃除とかに使うよな。んー、こんなもんじゃダメだ、俺死ぬ。
バケツをどうにか従来とは違う使い方をして、この状況を打破しなければ。
ん? 従来とは異なる方法? バケツをバケツとして使わない?
「はっ!」
これでいけるかは知らないが、取り敢えずやるしかねぇ。もうイノシシが目と鼻の先だ!
「【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】【ランダム武器生成】………………【ランダム武器生成】!!」
一体いくつ出しただろうか。俺は少し後退しながらひたすら出し続けた。俺が念じる度に生み出される為、異常なスピードで生まれてくる。目の前には青いバケツの海が広がっている。イノシシの姿は見えない。
いや、まだ心配だな。いけるかはわからないが。
「【ランダム武器生成】×百!」
俺がこういう風に念じると目の前に突然大量のバケツが現れた。恐らく百個だろう。よし、これならいける!
もう、俺のやりたいことは分かっただろう。そう、バケツを防御に使いたかったのだ。攻撃手段ではなく、防御、それもただの壁だ。ただ、壁としてはまだまだ不安だ。
「【ランダム武器生成】×千!」
これだけあれば充分だろう。そして俺はあらる仕掛けをして、イノシシの様子を見に行った。
「結構出したなー俺」
長々と続く森の中の海(バケツ)に沿って俺はイノシシの方へと向かっていった。ここで逃げてもどうせ遅かれ早かれいつかはイノシシにあうのだ。逃げても変わらない。
いや、逃げた方が戦闘終了とみなされて、次戦う時はまた別の武器くれるんじゃね?
……ないな。二つの理由でない。一つ目は戦闘終了判定になるのかどうかだ。相手を倒さない限り戦闘は継続されてる可能性もある。もう一つの理由はバケツよりも良い武器が出るのか、ということだ。初っ端でバケツだぞ? それよりも良い武器がでることが期待できないのだ。
普通最初って気合入れるだろ? 初任給は高いし、新しいノートを買えば気分は上がって字も綺麗になる。新車や新築だってテンションブチ上げだ。
なのにこのスキルときちゃ、バケツからの入りだぞ? 頭おかしいし、気合入れてこれなんだから、その次なんてもっと期待できない。
ここでやるしかねぇんだ。
なんか、このスキルについて考えてたら、レアな武器が出るまでは絶対に死にたくなくなってきた。異世界転生ってもっと、チートなスキルもらえるだろ、俺のスキルもチートって思えるまで絶対に生きてやる。
よし、イノシシの所へ向かおう、決着の時だ。俺はいくつかの用意をして、バケツに沿ってイノシシの方へと戻っていった。思ったよりも距離があったからしんどかったが、ようやく到着した。
そして、そこには必死にバケツをかき分けているイノシシの姿があった。
まだ、こちらには気づいていない様子だ。よし、今ならいけるはずだ。俺は大量に石を入れたバケツを両手で持って、イノシシの背後に迫った。イノシシは猪突猛進だ、だから前に進ことしか頭にないはずだ。
だからこそ、俺にも勝機はある!
ッダーンッ!
イノシシのケツにでかい一撃をお見舞いしてやった。イノシシはかなりびっくりしたのか、飛び上がって驚き、こちらに向き直そうとした。
だが、そうはさせない。反時計回りで方向転換をするイノシシに合わせて俺も同じ方向に回っていく。そしてその間に自家製の鈍器で殴っていく。
五発くらい殴りつけた頃だろうか。イノシシがぶっ倒れた。
これがチャンスとばかりに俺は全身全霊の一撃をイノシシの脳天に上から振り下ろす形で叩きつけた。
死んでいるか心配な俺は、何度も、何度もその脳天に叩きつけた。
そしてイノシシの頭がみるも無残な姿になった時、バケツが消えた。
どうやら俺はこの世界でなんとか初勝利を掴むことができたようだ。
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