第221話 少し今後の話

「さて、荷物と他の者を入れる前に。」


そうしてメイが席に着く。

さて、何の話だろうかと、トモエとオユキも同席すれば、彼女の従者が勝手知ったるとばかりに、机の用意を行う。

二人で少し寛ごうかと、用意してあったものは下げられ、彼が外から改めて運び込んだ道具を用いて、お茶を入れなおし菓子を並べる。

それにメイが口を付けてから、トモエとオユキが手を伸ばせば、話が始まる。


「らしさを押し付けるのは、好みませんもの。ですから結論だけ。配置換えがあります。」

「配置換え、ですか。」


メイが突然切り出した言葉に、二人そろって首をかしげる。

南から余った人員が、今更と、それ以上に、それをわざわざ伝える理由も分からない。


「あら、想像している者よりも、大きな括りですよ。私が始まりの町の代官に。

 実際の統治は、リース伯爵、父の手によるものになりますが。何分、今は動けませんもの。」

「それは、また。」


言われた言葉に、トモエとオユキは揃って愛想笑いを返す事しかできない。


「気持ちは分かりますわ。何故と。私もあまり多く理由を聞かされておりませんが、そうですね。」


そういって彼女が少し考えるようなそぶりを見せた後に、従者に視線を送れば、彼はドアの側に位置を変えて、そこに立つ。


「あなた方も発案者と、そう聞いていますが、新人の育成、その一環と。」

「耳が早いと、いえ、向こうの動きが早い、そういう事ですね。」

「相変わらず、話が早くて結構ですね。」


この席であれば、オユキが話してもとは思うが、基本的にはトモエが主導権を握る。

トモエにしても、それなりに、やはり実際の経験としてオユキの方が上手ではあるが、腹芸もできる。

ギルドでも匂わされただけの事、遠くと早く情報を交換する術、その存在は口に出すな、そういう事はトモエにもわかる。


「さて、何のことでしょうか。それにしても、そこまで、ですか。」

「あの少年、それと少女、二人の在り様にひどく胸を打たれたと、そう聞いています。」

「まっすぐな、いい子たちですから。」

「そうてらいなく褒められる、それ程の子供たちなのでしょうね。ともかく、改めて狩猟者、いえ、それ以外のあり方を見直すと、そう決まりました。ついては皆さまが戻るときに、私も同道させて頂きます。」

「また、急な話ではありますが。」

「元々、話はあったのです。ただ、王都からと。」


つまり、それを許さないほど急ぐべきだと、そう考えを変えるのに十分な出来事があったのだろう。


「お話は分かりました。ですが。」

「あら、何でしょう。」

「私達も私達で、目的が。」


それこそ昨夜確かめたばかり、こちらで生きていくために、当面の目標としたそんなもの、それがトモエにもオユキにも。


「お気になさらず。手を貸して頂けるのであれば、有難く、そうお答えしますが、これは当家の仕事ですから。

 頼りになるものもいますもの。彼をはじめとして。」

「ええ、勿論手を貸せるときには、いつでも。」

「でも、お二人の目的、それも気になりますね。」


そうして、少し茶目っ気を乗せて語り始める、つまり今話せるところはそこまでと、そういう事なのだろう。

そう判断して、トモエも改めてお茶に口を付けて、軽く話始める。


「ええ、オユキさんと10の神殿を巡ろうと。」

「あら、素敵なお話ですね。ただ。」


そういって、メイが少し考えるそぶりを見せる。

その反応は意外だと、トモエが首をかしげる。


「やはり他国への移動もありますから、お二人でと、それが叶わないのは、残念ですね。」

「成程。道中に関しては、流石に納得していますよ。」

「昔話にはありますし、私も憧れはしたのですけど。」


そういって、メイがオユキを見て苦笑いをよこして見せる。

どうにも、見た目から、オユキが言いだしたとそう考えているのだろう。


「いえ、言い出したのは私からですよ。」

「あら、これは失礼。」

「これからしばらくは、旅の道行き、それも難しくなると承知はしていますから。」

「となると、最初は我が国の。」

「申し訳なく思っておりますが、月と安息の神殿は後にして、まずは水と癒しの神殿へと。」

「それはさぞ、大司教様もお喜びになる事でしょう。御言葉の小箱を届けた、その本人が望まれるのですから。」

「入るのには、難事があるとか。」


そうトモエが言えば、メイはおかしそうに吹き出し、直ぐに口元を隠す。


「神の御使いを務めた方を、どうして神殿が門を開かずにいられるというのですか。」

「王国の神域と伺っていますが。」

「神々は普く人を好みますもの、遠ざければ悲しまれるだけです。

 一応警備の者はいますが、手続きを行えば、問題ありません。

 それこそ、この領都にある教会で願えば、直ぐにでも一筆いただけますよ。」


そういってメイが軽く肩を震わせる。


「どうにも、そういった場所では入るまでに長い手続きが、そう考えてしまいまして。」

「そのあたり、異邦の方らしいと、そう言うべきなのでしょうか。

 宜しければ、私から公爵様にもお伝えしますが。それこそ先の短剣の事もありますから。」

「直ぐにと、そう考えているわけではありませんから。一度戻って、少しした後にと。」

「そう、ですね。王都まででしたら、ここから3週間ほどですものね。まだ先の話になりますか。

 分かりました、私の方で話だけは。」

「ありがとうございます。」


そうして二人が頭を下げると、メイはただ、と続ける。


「向かうなら、少し急ぐほうが良いでしょうね。」

「そう、なのですか。」

「トモエさん。王太子妃様の事が。」

「ああ、失念していましたね。ご忠告有難く。」

「ええ、待望の第一子、予定の日はまだ先ですが、それが近づけばどうしても人の行き来が増えますし、神殿も忙しくなりますから。」

「正直、お祭りの観客として興味はありますが。」

「盛大な祝いとなるでしょうから、まさに国事ですもの。ただ、神殿もと、それは難しいでしょうね。」


そうして、メイが苦笑いをする。

ここまで直接的な言葉を重ねたという事は、恐らくではなく、無理だとそういう事なのだろう。

トモエとしては、どちらも楽しみではあるのだが。


「日程に余裕はありますから、往復しますか。正直、宿の手配ができるか、そこから怪しくはありますが。」

「ああ、それもありますか。」

「それこそ、公爵様の別邸をお貸し頂けると思いますよ。」

「流石に、王城にてお務めと、そうなりますか。」

「ええ、本来であれば私もついていくところではありましたが。」

「それは、もしかして楽しみを奪ってしまいましたか。」


トモエが少し申し訳なさそうに尋ねれば、メイはただ微笑んで応える。


「より楽しみなことを運んできていただいた、そういう事です。

 どちらにせよ裏方、どちらも大切ではありますが、私として行えることの規模が違いますから。」

「なら、おめでとうございますと。」

「ええ、ありがとうございます。さて、こうしてお茶を楽しむのも良いのですが、話す時間はまだこれからいくらでもありますからね。」


そういって、彼女が手を挙げると、従者が扉を開けて、そこから人を招き入れる。

装飾の施された箱をいくつも抱えて人が入ってくるが、つまりそれに頼んでいた衣装が入っているのだろう。


「今日は、新しい服で街歩き、そう伺っていますから。

 ちゃんと、必要な者も連れて来ていますよ。」

「そういえば、衣装だけしか考えていませんでしたね。髪くらいはと思っていましたが。」

「化粧道具なども持ってきていますから。」


随分と気合の入った様子のメイの言葉に、オユキは苦笑いをするが、トモエは興味がわいたようだ。

そもそもこちらに来てからというもの、そういった物を見かけたこともないのだから。

ただ、高位の相手と会えば、手が入っていることは簡単にうかがい知れるというものだ。

つまり、そういった相手にしか出回らない、そういった商品、元の世界でも常用していたもの。

気にするなというのが、難しいだろう。

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