第182話 納品と割合

「その、言葉は悪いかもしれませんが、やはり楽ですね。」


トモエが町中、狩猟者ギルドへと向かう中、そう呟く。

人が乗る馬車と荷物を載せる馬車、それが別れたため、今は大型の馬車の中、ゆったりと一団がそれぞれに過ごしている。


「ま、元々その人員を探していたわけだからな。ガキどもも不満はないだろ。」

「はい。その、いい場所で休ませてもらって、食事ももらって、戦う方法まで教えてもらって。

 それで不満を言う人は、それこそ、あの。」

「だよなぁ。あんちゃんたち、俺らにも拾い集めろって、そういってくれりゃそうするぜ。」

「あなた達は、それよりも魔物と戦って経験を積む段階ですから。

 皆さんも、魔物と戦う、その時間はちゃんと作るようにしますね、今日は少しはしゃぎすぎましたが。」

「いえ、私達が、本当にすごい人に教えてもらってるって、そう分かりましたから。」


そういって子供の一人が、後からついて来ているだろう荷馬車に視線を向ける。

そちらには満載とまではいわないが、それなりの量が積み込まれている。


「そうね。私もこの家業を始めて少し経つけど、ああしてトロフィーが無造作に積まれる荷台を見たのは初めてよ。」

「だよな。正直集める指示を出してるうちに、普通のっ収集品じゃないかと思ったからな。」

「その、そうかもしれませんよ。」

「馬鹿言え、珍しく残す普通の毛皮だってあったんだ、見間違えるわけあるか。」


そういってルイスがため息をつく。


「悪いが、中に入る時、少し門のところで騎士と話すぞ。

 ちょっと俺ら二人だと、釣り合わん。」

「護衛の方の判断ですから、お任せしますよ。お手数かけます。酒屋があれば、そちらに寄っていただければ。」

「有難いことだ。にしても、こうなると普段トロフィーが手に入らないってことは、格下それもかなりの、そんなのばっかり狙ってるってことなのかね。」

「そればかりは、それこそ私たちの分かる事では。今の状況が影響している、そうとも言えますし。」

「ああ。まぁ、そうだな。」


濁して、オユキが伝えればルイスには正しく伝わったようで、考え込む様に腕を組んで黙る。

そんな彼をそっとしておき、オユキは後方ついて来ているだろう場所を改めて見て、呟く。


「どう分配した物でしょうか。」


ただ、その呟きにルイス、アイリス、シグルドの声が重なる。


「分け前は無しでいいだろ。」

「いえ、私とトモエさんの都合で待たせましたし。」

「そもそも、護衛が無きゃ町の外に出られないんだぞ。」

「あんちゃんたちが倒した獲物だし。」

「しかし、荷物を運ぶ、これをお願いしたのはこちらですから。」

「あの、それにしても宿に食事、武器と訓練、それで過剰だと思うんですけど。」


実際に荷物を運んだ子供たちにまで言われて、オユキとしてもどうしたものかと考える。

仕事を頼んだ、それは事実なのだし、パーティを組んだ以上は頭割り、どうしてもそんな考えが頭にある。

ルイスとアイリスにしても、護衛とそれ以上によくしてくれている以上、こういった予定外の収入なら、全員で割ってしまえばいいと、そんなことを考える。

いくらになるかはわからないが、それにしたって、オユキとトモエだけで独占するようなものでもないのだから。


「えっと。ギルドで相談しましょうか。正直今後の事もあります。私達も、目的はありますが、それに向かうまでは、皆さんが嫌でなければ、面倒は見ますからね。」


そう、オユキが改めて言えば、少年たちはどこか恥ずかし気に喜び、子供たちは不思議な物を見るようにオユキとトモエを見る。

そして、トモエが言葉を続ける。


「それと、昨夜オユキさんと話したのですが、休日を設けようかと。」

「えっと、狩りに出ない日って事か。」

「いえ、訓練もお休みにする日です。何も予定を入れず、各々やりたいことをやる、そんな日ですね。

 週に一度か、月に数度。その、恥ずかしながらこちらに来て、毎日のように何かしらしていましたので。

 ゆっくり街を歩いて買い物をしたり、領都の名所を見に行ったりと、そういう日が欲しいなと。」

「ああ、確かにあんちゃんたち、毎日魔物と戦って武器振って、それでおしまいだもんな。」

「そうだよね。そればっかりも、良くないよね。」


ルイスとアイリスの呆れたような視線が突き刺さるが、それを無視して子供たちと話す。

前にも町を見て回ろう、そんなことを言ったりもしたが、やはり彼らも今の教会の手伝い、その時間で魔物の狩りと訓練を行って、それからと、そういう頭であったらしく、一日全部、それであれば、どうしようか、そんな話をする。

それぞれに別れても良し、みんなで纏めてでもい。

それこそ今の宿に頼めば、まさに観光、それに適した場所を案内してくれるに違いない、そんな話をして狩猟者ギルドにたどり着けば、そこで、ここまでの道を御者席に座り護衛をして手伝ってくれた騎士が馬車とギルドの入り口、そこの警戒を行う、そして子供たちがまたせっせと拾い集めた収集物をギルドへと運ぶ。

そんな彼らの側に、味のある顔で近づいてきた職員に、納品と、此処にいる面々で頭割りに、そんな話をすると二階に連れ込まれる。


「そっちの子供たちが言うとおりだ。宿代も出して、食費も出して、さらに戦闘の面倒も見て、それで等分にされたら、もらう側も困るだろう。」

「その、トロフィーとはいっても、丸ごとというわけでもなく、通常よりも少々大きいその程度の物ですから。」

「通常品の10倍近い大きさは、さすがに少々と呼ぶわけにはいかんだろう。」

「な、あんちゃん。これが普通の対応だって。流石に貰いすぎると、俺らも困るし。」

「そうですか。それならこの場合は、どの程度の手当てが妥当でしょう。」

「現状で十分と思うがね。どうしてもと、そう言うのであればそれこそ日当程度が最高額だろうな。

 そいつらなら、一人100ペセくらいか。」

「え、そんなに。」

「ま、雑用ができて、一日手伝えば、どこもそんなもんだな。雑用もできなきゃそっからどんどん下がる。」

「雑用以外だと。」

「そら、立派な職業だ、自分で店を出す、大店に努める、ギルドに努める、城に上がる、ま、色々だな。」

「ああ、そうですね、そうなりますか。」


トモエが以前のアルバイト、そんな労働形態を基に話を振れば、まったく違う答えが返ってくる。

そもそもアルバイトなどというものを雇う余裕がない世界だ。

労働者はそこに住み込みで働く。小さな店舗であれば、家族での操業だ。

そもそもが日雇いという物自体、住み込みで働かせようと、そう思えない相手、事業の継承が見込めない、そんな相手に任せる物になるのだろう。

人手が必要なのは建設くらいだが、ここにきて、今だその現場を見たことが無い。

魔術があり魔道具もある。人の手をほとんど使わず、それがなせるといわれても、まぁ、納得するしかない。


「それでも、宿も食事もない、そんな奴に払う額だからな。」

「分かりました、余所は余所、うちはうちとしましょう。」


トモエもオユキもあれこれと考えていたのだろうが、オユキは考えるのが面倒だと、それを打ち切る。

合わせるべきところは合わせるにしても、そうでなければ思うようにあればいいのだ。

それで迷い、正しさがわからなければ、それこそ神の意志を仰げばいい。


「良いですか。ひとまず、荷運びとして言われた100ペセ、これを一先ずお渡しします。

 これから先、皆さんがどうするかは今は聞きませんが、それに加えて皆さんが最後まできちんとに運びをこなしてくれれば、武器を二つ、呼びも含めてですね、買ってお渡しします。」


そう言えば、子供たちが喝采を上げる。

子供たちの面倒は見るつもりではあるが、オユキ達がこの町を離れるとき、ここに残りたいと、そういうのであれば、それでも構わないのだから。

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