第160話 少年たちの相談
「で、後はそっちのガキどもか。」
「俺らっていうか、今回トロフィーを手に入れたのは俺だから、まずは俺の分かな。
おっさん、このグレイハウンドの骨で、武器どんだけ作れるんだ。」
「ソポルトに比べりゃ、小さいからな。物にもよるが今持ってる両手剣と同じ大きさなら、5ってところか。」
そう言われると、シグルドは少し悩むように腕を組む。
「じゃ、皆それぞれは難しいか。」
「質を落としてもいいなら、どうにかなるぞ。」
「いや、それじゃ意味がないからな。えーと、とりあえずこれと同じのを3つで。残りはホセのおっちゃんに任せるよ。」
「分かりました。ウーヴェさん割っていただいても。」
「ああ、任せろ。」
そういって、さっそく作業に移ろうとするウーヴェをシグルドが呼び止める。
「あ、待ってくれおっさん。ここって武器の修理とかもやってんのか。」
「ああ、手入れから修理まで、受け取るぞ。なんだ、駄目にしたのか。」
「俺らみんなだけどな、で、これなんだけど。」
そういってシグルドが、柄にひびが入った、そんな長剣を持ちウーヴェに渡す。
ウーヴェはそれを手に取ると、その時点で眉を顰め、鞘から少し刀身を見るとすぐにゆっくりと机に置き、首を横に振る。
「これは、もう駄目だな。鋳つぶして、うち直すしかない。安物を使い込みすぎだ。」
「そうか。初めて、一人で丸兎を斬ったんだよ。うち直して、同じのになりそうか。」
「すまんが、無理だ。鋳つぶせばどうしても嵩が減る。
どうする、繋いで、飾っておくか。」
ぶっきらぼうではあるが、武器に込められた思い、それは作る側だからこそ、よくわかるのだろう。
ここまで聞いたどんな声よりも、穏やかで優しさに満ちた声でシグルドに尋ねる。
「いや、武器だからな、使ってやらないなら、こいつが可哀そうだ。」
「そうか。そうだな。いい心掛けだ。どうする、こいつと混ぜるときに、使うか。」
「そんなことできんのか。」
「儂を誰だと思っておる。出来ぬことなど口にはせぬさ。」
「そうか、じゃあ、頼む。お前らは、どうする。」
そういってシグルドが他の面々を振り返ると、それぞれに考えるそぶりを見せるが、最初から同じ武器を使っているものは彼以外にいない。
それもあって首を横に振る。
「私は、今はこれだから。長剣はあんたにあげたじゃない。」
「俺もだな。」
「私も。」
「私はまだ持ってるけど、最近は弓が主体だし。」
「なんだ、お前らも修理したい武器があるのか、ならとりあえず並べてみろ。」
ウーヴェの言葉にオユキとトモエもそれに便乗して机に馬車に積んでいた予備の武器まで全てを並べる。
机には20近い武器が並び、ウーヴェはただ苦い表情を浮かべながら、それを一つづつ丁寧に確認していく。
「どれもこれも手入れが最低限過ぎるな。狩猟者だから仕方ないにしても、もう少しまともに手入れをするといい。後で、武器を渡すときに、道具もつけてやろう。」
「ありがとうございます。」
「それにしても、そっちの二人はともかく、そこのガキどももかなり使い込んどる。
どれ、手を見せてみろ。」
言われて、それぞれ手を広げて順番に見せていくと、ウーヴェは手の大きさなどを、メモしていく。
「こいつで、どんだけ持った。」
「今回は旅もあったからな、10日くらいか。」
「普段どんだけ使っとる。」
「毎日丸兎、いやそれはグレイハウンドもか、を5匹多い時は8匹斬って、後は素振りを二百。」
「安物に無理させすぎじゃ、阿呆が。」
「でもさ、おっさん。始まりの町じゃそれ以上なんてそうそうないし、買えないんだよ。」
「ああ、あそこか。鉄が取れる場所が遠いからな、なら仕方ないが、も少し腕が上がれば多少は持つかもしれんが、お前らはその分魔物を狩って余計消耗させそうだな。」
「その辺どうにかならないのか。」
シグルドもそれには困っていると、腕組みし、難しい顔でウーヴェに尋ねる。
しかしウーヴェの答えはそっけない。
「どうにもならん。熟練の狩猟者でも、手入れをさぼれば二月で駄目になる。
どれだけいいものでも、2年持てばいい。それこそ億もするようなそんな武器でもな。」
「ほんと、大変だなぁ、武器。」
「だから、持ち歩くものは選ぶことだな。訓練用と狩猟で分ける。それだけで、少しはもちも良くなる。」
「町にいるときは傭兵ギルドで借りられるけどさ。」
「お前、旅の間も素振りしたのか。」
「ああ。」
シグルドが当たり前と頷くのに合わせて少年たちも、同じ仕草で応える。
それに対してウーヴェはため息をつきながら、剣の持ち手を示しながら提案する。
「ふむ。持ち手のところを少し太くするか。その分持つようになるが。」
「いえ、今のままで。暫くは武器の癖を覚えず、よくある武器に合わせる形で見ますから。」
ただ、それにはシグルドではなくトモエが答える。
「お前が教えとるのか。まぁ、わかった。ガキどもは、出来合いの武器を買っていくか。」
「ああ、あんちゃんこの店で大丈夫そうか。」
シグルドが片側に集められた、両手剣の詰まった樽、それを見ながら、トモエに尋ねる。
「ウーヴェさん。こちら試しに触れるような場所は。」
「勿論ある、そこの横だ。
おい、餓鬼ども、こっちは修理でいいのか。」
「あー、俺のは全部新しく作る奴に混ぜられるならそれで。」
「よし、わかった。どれ、少し振って見せろ。作りの参考にするからな。」
そういって、ウーヴェに案内され、工房の横手、すこっし広い庭のような場所に出て、少年たちがそれぞれ店内にあった武器から一つ選んだものを持ち出して振り始める。
「ふむ。見た目よりしっかりしておるな。
おい、そこのクソガキ、損だけ触れて一本曲げたのがあったが。」
「ああ、あれか。こうグレイハウンドの首を落とした時に、勢い余って。」
暫く少年たちの素振りを黙ってみていたウーヴェがシグルドに声をかけると、シグルドも剣を振りながら、呼吸を乱さずに答える。
始めたばかりの頃は、直ぐに息が上がっていたというのに、加護があるにしても早い成長だろう。
他の子どもたちにしても、今となっては素振りも百を超えるまでは息も乱れないし、汗をかくこともない。
初めて会ったとき、丸兎一匹を五人で相手にし、30分追いかけ回し、囲んで、そして疲労困憊となっていたころに比べると、大分成長をしてきた。
「まだまだ甘いという事か。」
「まぁ、そうだな。怒られたし。」
「今振っているように、きちんと絞って止めていれば、あんなことにはなりませんでしたよ。」
「そうなんだよなぁ。こう、なんかうまいこと言ってさ。普段よりもだいぶ早く地面叩いたんだよな。」
「ええ、上手く振れていましたよ。他の方にも言われたでしょう、それがいつもとなるようにと。」
少し首をかしげながら、恐らくその時のことを思い出して振ろうとして、それがうまくいかないと、その違和感をどうにかものにしようと、シグルドが素振りを繰り返すのを見ながら、トモエが声をかける。
「新しい武器ができたら、そのあたりの理屈も教えていきましょうか。」
「あんちゃんとオユキの話って、なんか急に難しくなる時があるんだよなぁ。」
「あ、分かるかも。たまに学者様みたいなこと言い出すんだもの。」
アナにまでそのように言われて、トモエが照れくさそうに笑いながら、言葉を返す。
「その、分かり難い事が有れば行ってくださいね。
なるべく平易に説明するようには、努力していますが。」
「それが分かってるから、言いにくいというか。馬鹿で悪いと、謝らなきゃいけないのかなって。」
「そのようなことはありませんよ。私が教える側です。なら私はあなた達が分かるように、そうしなければいけないのですから。」
「んー。でも甘えすぎも良くないよな。」
「ま、そのあたり匙加減だろう。良し、こっちもだいたいわかった、で、餓鬼ども、武器はそれでいいのか、他も試すか。」
ウーヴェが割って入ってそう声をかけると、パウがすぐに口を開く。
「ピッケルだったか、あれば、見てもいいか。」
「ん、ああ、戦闘にも使えるからな、少し待っとれ。」
そうしてウーヴェが持ってきたピッケルにパウがほれ込んだ。
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