第113話 宴の席で
「そういえば、お二人は今後の予定は決まりましたか。」
一通りの料理に手を付け、ちらほらと交代の人員が訪れる中、変わらない顔ぶれの座る席で、ミリアムがオユキとトモエにそう尋ねる。
「そうですね、領都に向かうことは決めていますが。」
オユキがトモエに視線を送ってそう答えれば、トモエがそれに頷いて、続ける。
「そのあとは、折を見て月と安息の神の神殿に。」
どうやら、トモエの中でゴーストなどに対する決断は降りたようだ。
迷いのない声で、そう告げる。
「ああ、そうなんですね。となると。」
そこでミリアムが区切って、ブルーノに視線を送れば、ブルーノがそれに頷いて話始める。
「二週間後、商隊が領都まで向かう。その方らが良ければ、それに同行するといい。
まぁ、条件として、残ったトロフィーの部位を求められようが。」
「そちらは、ギルドに納めずとも。」
「いや、ギルドには納めてもらう。優先販売権であるな。
須らく魔物の部位を狩猟者から直接買い取るのは、ギルドの役目故。
ただ、どこが余るか決まれば、領都のほうで手続きを行って貰うこととなるが。」
「事務手続きを簡略にするため、こちらから書簡などは作ってお渡ししますので。」
「では、お任せしますね。領都周辺で気を付けるべき魔物などは。」
「護衛がいるので、問題ないとは思いますが、そうですね、また狩猟者ギルドにいらした時に、お尋ねください。
そこでお見せしますね。
それと、領都で滞在されますか、それとも注文が済めば、戻られますか。」
言われた言葉に、オユキとトモエが顔を見合わせると、イマノルがその様子に注釈をくれる。
「他の注文の状況にもよりますが、早くても1週間ほどかかりますよ。
商人は、運んだものを売って、新しい商品を積んだらすぐ出ますから、二日ほどの滞在でしょうか。」
「ああ、成程。運搬などの手配は。」
「そのあたりは、商人に頼めば、問題ありませんよ。
信頼できる相手は、ギルドで紹介して頂けるでしょう。」
「そのあたりは、抜かりなく。」
イマノルがそうですよねと言うように、ブルーノに視線を送れば、それに頷いて返す。
「どうしましょうか。見どころもある都市だったように思いますが。」
「そうですね。やはりこの町よりもかなり大きいですし、異邦の方には珍しいものも多いと思いますよ。」
オユキがトモエにそう尋ねると、ミリアムがそう付け足す。
オユキの記憶からは、また多少なりとも変わっているだろうが、領主のすまう館も美しいものであったはずだし、行政施設はまさに城と呼ぶにふさわしい佇まいだ。
こちらに来てから、なんだかんだで相応の金銭は得ているため、それこそこの町で手に入らない物を求めてみてもいい。
トモエ自身も、以前鉱山に興味を持っていたことでもあるし。
何より、完成とされた武器を軽く試して、問題があれば直しを頼みたいと、そんなことも考える。
「そうですね。武器ができるまでは、滞在するかと思います。」
「分かりました、それでは、そのように。」
「ただ、そうなると、あの子たちの鍛錬に間が空きますね。」
トモエが難しい顔でそう言うと、アベルが何でもないように告げる。
「気になるなら、連れ回してもいいんじゃないか。
あの様子じゃ、丸兎程度じゃ相手にならんだろうし、かといって森に入れるにはな。」
「あの子たちというのは。」
「ああ、トモエが教会のガキに手ほどきをしていてな。」
「ほう、それはそれは。町のものとして礼を言おう。しかし森に入れない程度では、難しいのではないかね。」
ブルーノがアベルに話せば、それにアベルは首を振る。
「いや、グレイハウンドくらいなら、問題ないだろうな。
それこそ大規模な群れにでも襲われなきゃ、今のあいつらなら切り抜けるだろう。
一対一なら、こいつらやれるんだ、それくらいはできる。」
「ほう、カングレホを。ならば森など何程のこともないだろうよ。」
「いや、経験が足りん。」
アベルがそう切って捨てれば、ブルーノはアベルを見る。
それに対して、アベルは彼の意見を述べる。
「お前んところじゃ、訓練できないからだろうが、普通の狩猟者ならカングレホをやるには、数年がかりだろうが、ちゃんと教え込めば、半月もあれば十分なんだよ。
条件として、足場が良く、常に一対一、そんな状況のおぜん立てをしてやれりゃな。
あのガキたちも、確かに戦力は伸びてるが、それ以外がとにかく足りてない。
なんせ、河沿いの町まで行っただけで、へばるからな。」
そのアベルの言葉に、ブルーノが難しい顔をする。
暫く黙り、考え込んだ彼が口にしたのは、彼の立場から見た理屈なのだろう。
「それは、歪ではないかね。己の力が足りぬ場所でも狩りができるとなれば、それこそ油断が生まれるだろう。
我々が新人への訓練をできないのは事実であるし、人手が足りぬと、昔から変わらぬ言い訳をしているのは事実であるが、それでも、その在りようは個人の力量を超えた場所で、戦うと、そういっているように聞こえるが。」
オユキとトモエにしても、彼の意見には理があると、そう受け取れる。
オユキ達にしても、道中の魔物は問題ないと、それに高をくくって、遠出をすれば、それこそ至極あっさりと野垂れ死ぬだろう。
狩猟者を管理する彼が、それを懸念点とするのも、頷けるものではある。
「かといって、ここらじゃもう、たいして伸びんぞ。それに個人の能力で魔物と戦えるのは、事実だからな。
それこそ、森の中の警戒なんざ、誰かに言われなきゃ、危なっかしくて仕方ない。
狩猟者同士で、そのあたりどうにかならんのか。死人を許容しすぎだ。」
「以前、そういった制度を考えたことがあるのだ。そして過去に何度も実施したとも。」
アベルの言葉に、ブルーノが重い言葉で応える。
先に続く言葉はともかく、その前置きで結果は簡単にわかる。
「尽く失敗に終わった。狩猟者の気質に、とにかく合わないのだろうな。
だから、傭兵ギルドをうちからは、斡旋するのだ。」
「ほとんど来ねーぞ。」
「痛い目を見れば、行くのだろうさ。そうでもしなければ、行かない物が多い。
中級に上がれる、そういった評価がある者も、そのほとんどは研修があるといえば、やめる故な。
管理する、される、それを嫌う人間が、とにかく多い。
自分の望む場所へ、望むときに、そこで魔物を狩り糧を得る。
何処でもできるからこそ、何処かに居つくことを嫌うものが、とにかく多い。」
ブルーノはそういうと、頭が痛いとばかりに大きくため息をつく。
「いや、責めてるわけじゃない。ただ、な。」
「言いたいことはわかるとも。事実ギルド内でも堂々巡りだ。
なんにせよ、良く導いてくれておる二人には感謝しかないな。」
そういって、軽く頭を下げるブルーノに、トモエが簡単に応える。
「いえ、出来ることだけですから。
それにしても、過去には狩猟者の研修のようなこともされていたのですね。
ロザリア様から、学校では戦いかとも教えると、そのように聞いてはいましたが。」
「うむ。学校では、そうだな、騎士としての戦い方が主体となる。
それに馴染み、腕を伸ばそうと思えば、もちろんそれを目指す。
そうではなく、狩猟者になろうというものは、なんといえばよいのやら。」
そういって、ブルーノが言葉を探すように考える姿に、オユキが代わりに言葉を続ける。
「個人主義、そういった人柄の方が多いのでしょう。」
「言いえて妙であるな。その通りだ。
人の面倒を見るのも、見られるのも、好まぬものが多すぎる。
そこで犯罪者に堕ちる者がいないのは、救いではあるのだが。」
「ああ、そういや、お前らも領都では気をつけろよ。」
その話で、思い出したようにアベルがオユキとトモエに声をかける。
「あっちは広いからな、ここと違って、そういう人間も潜んでる。
人の出入りが違うから、ここと違って、紛れ込んでるからな。
まぁ、顔に罪人の証が刻まれてるし、一目見りゃわかる。ただ、顔を隠してる人間は信用するなよ。」
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