第12話 チュートリアル 4

ロザリアの説明によれば、この世界で特に力を持つ神は5柱。


言うまでもなく、創造神、色は白。

オユキがゲーム時代に傾倒していた、クエストの流れで信仰対象として選択した、戦と武技の神、色は赤。

現実では行えない、存在しない魔法に心惹かれたものたちが大いに祀った、知識と魔の神、色は紫。

ゲームの中だからこそ、現実では難しいと、あらゆる芸の披露に心砕いたものたちが奉じた、美と芸術の神、色は青。

そして、この世界に安らぎを、ゲームだからと、現実へと向かうための一時の休息と、活力の回復、それを求めたものたちが祈りを捧げた、月と安息の神、色は黒。


そして、他にもその眷属としての多数の神々が存在する。


ロザリアは、功績の証は基本的に、その中央に色が出るのですよと、そういって彼女の功績、その証を指す。

聖印の中央には、美しい烏羽玉の石がはまっている。

それをみた、オユキとトモエがそれぞれの比翼連理の証を見れば、中央には乳白色の石がはまっている。


「神々に貴賤はもちろんありませんが、創造神より、さっそく功績を評されるとは。

 お二方とも、その絆はさぞ固いものなのでしょうね。」


二人で確認した後に、ロザリアに返礼とばかりに見せれば、そう笑いながら言われる。


「ええ、文字通り、死後も分かたれぬ程。」


トモエが、どこか嬉しそうにそう答える。

ロザリアはその言葉を聞き、静かに笑いながら、真面目な顔で言葉を告げる。


「それは素晴らしい事です。ですがどうか生ある間の努力を怠りませんように。」


その言葉は、実にらしい言葉、そう言ったら失礼だろうか。

オユキもトモエも、思わず苦笑いを浮かべながら、その言葉に頷く。

そう、此処からは新しい人生なのだ。

あたら粗末にせぬように、気をつけねばいけないだろう。

既に天寿を全うしたからと、今の人生を適当に過ごす理由はないのだから。


「さて、私が説明をさせていただけることはこのくらいでしょう。

 お二人が望むのであれば、そのまま狩猟ギルドに行かれるのが良いでしょう。

 町の外、我らの神々が安全を保障しない、結界の外、そこで糧を得るのがやはり早いでしょうから。

 ですが、どうか、案内役を願ってくださいね。

 結界の外は危険だからこそ、日々の糧を得られるのですから。」

「いえ、ご丁寧にありがとうございました。」

「また、折を見ては伺わせていただきます。」


オユキはともかく、トモエはもともとゲームのプレイヤーというわけでもない。

説明としては十分ではないだろうが、そこはオユキがフォローすればよい。そういった考えもあるのだろう。

話はここまでと言われ、オユキとトモエはお礼を口にして、教会を後にする。


礼拝堂の出口まで見送りに来た、ロザリアに深く頭を下げて、背を向けようとしたとき、ロザリアが聖印を切り道行きの幸福を祈る。

二人はそれを聞き、もう一度お礼を口にし、背を向けて歩き出す。



オユキは自身の記憶を頼りに街を歩こうとも思ったが、流石に始まりの町などと呼ばれていた場所に長くとどまったのは、半世紀は前。

加えて時間の経過が、町並みをまた違うものに変えている。

ともかく、教会から伸びる大通り沿いに歩けば、目的の狩猟者ギルドにたどり着けるだろうと、これまでのように歩けば、自分の視界に見慣れた背中が映り、苦笑いする。

これまでであれば、なんだかんだと自分が前を歩くか、隣に並ぶことが多かったが、この体格差ではそれも難しいようだ。


「トモエさん。この道をまずはまっすぐ行きましょう。

 大通りに出るか、誰かとすれ違うか、その時に改めて狩猟者ギルドの場所を聞きましょう。」


オユキが声を掛ければ、トモエが驚いたように振り返る。

トモエにしても、前にいないなら隣だろう。そう考えて歩いていたのだろうが、実際にはすでに数歩分、オユキが遅れている。


「これは。もう少し気を付けて歩かないといけませんね。

 オユキさんには、生前ご迷惑をおかけしましたか。」

「いいえ、こちらこそ、トモエさんに急がせてばかりいたのではないかと、そう反省していたところですよ。」


オユキがそう応えれば、トモエから手が出され、オユキもそれを握る。

両者とも互いに重ねた手の大きさを比べ、思わず苦笑いを浮かべる。


「その、もう少し大きくしておけばよかったですかね。」

「断らなかったのは私ですから。

 私のほうこそ、何も考えずに、私が使っていたままですが。」

「慣れるまで時間はかかりそうですが、生まれなおした、そう考えれば二本の足で歩けるようになるまで、1年以上かかって当たり前ですから。」


そういいあいながら、歩く最中、オユキは数度引っ張られるように足がもつれ、そのたびにトモエが謝りと。

そうして二人でゆっくりと教会から続く道を歩く。

二人でこうして出かけるのは、さて、どれくらいぶりだっただろうか、そんな思い出話も交えながら、目的地を聞けそうな相手と出会うまで、二人は実に楽し気に、ただ歩いていた。


そうして、道行く人に声をかけ、親切なその人物に案内され、二人は狩猟者ギルドへとたどり着く。

ゲームの頃と同じように、ギルドのマークが大きく書かれた看板、を掲げたその建物に、オユキは懐かしさを覚えながら、トモエは物珍し気に入っていく。

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