第10話 セクシー×修行


 さぁ本日から、伝説の竜を倒して、数々の冒険譚がはじまるのだな! と思っていたが、そう甘くはなかった。


「さぁ! 屋敷に戻って、セクシーの訓練だよ」


「は、はい...」


 そう! 私はまだ八歳なので、魔法使い見習いの様なものであった...




 屋敷の庭に戻って来た私は、不満を言う。


「冒険者になりたいです」


 すると、キラは笑いながら、答えてくれた。


「貴族なのに、冒険者やりたいって、変わってるな! まぁとりあえず、セクシー値を上げないと、魔法の威力は上がらないから、今は修行を積みな!」


 確かに、ごもっともな意見である。

私はキラから渡された、セクシーを上げる修行内容に、目を通す。


 ①走り込みと筋トレ! 特にシックスパックを、必ずつけるようにする事。


 ②指をくねらせて、指を長く細くする事。


 ③肌だけでなく、身体の隅々まで、清潔感を整える事。


 ④鏡に向かって、ポーズの練習と自分は綺麗だと、何度も唱える事。


 ⑤薔薇を食べる事。



 いやいやいや! 待って欲しい。③までは理解できるが、④はただのナルシストで、痛い人ではないのか? ⑤に至っては意味がわからない。


「先生! 鏡に向かって、ポーズを取りながら、自分は綺麗だと唱えると、本当に、セクシー値が上がるんですか? そして、薔薇を食べると、何が変わるんですか?」


 「自己暗示と体臭だよ! 自己暗示は大事だよ。毎日繰り返すと、本当にそうなってくる。そして、薔薇を食べると、体臭が、薔薇の香りになってくるんだ! 後は極力、肉よりフルーツや野菜を食べなさい! やはり、体臭がよくなるから」


 セクシー道は、奥が深いらしい。

私は次の日から、セクシー修行を、開始する事になった。





 私はまず、朝起きると、顔を洗い、歯磨きをする。そして、鏡に向かってポーズをとりながら唱えた。


「私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ...」


 側から見たら、ただの異常者でしかない。


 次は練習着に着替えて、まずは、ニャン五郎と共に、ストレッチから始める...そして筋トレである。

...九十八、九十九、百! クランチである。

...九十八、九十九、百! プッシュアップだ。

...九十八、九十九、百! ヒップリフトだ。


「はぁはぁはぁ!」


 そのままニャン五郎と共に、屋敷の周りを、十周走る。


 それが終われば、身体を洗い、フルーツ中心の、朝ご飯を食べる。


 午前の授業を、終わらせて、昼ご飯は、薔薇入りスープを食す!! 


 午後はまた、授業を受けて、夕食をとる。

もちろん、フルーツや大豆中心の、食事である。


 夜は、新たに設けられた、訓練場にニャン五郎と共に、足を運び、魔力残量がなくなるまで、魔法を使う。


「ファイアジャケン! ウォータージャケン! エアロジャケン! サンドジャケン! ダークジャケン! ライトジャケン!」

 広島弁が段々、上手くなってきた。

どうやら、中級魔法なら基本魔法を三周くらい、唱える事が出来るくらいの魔力が、今はあるらしい。


 年齢と共に、上がる人も居れば、稀に、使えば使う程、上がる人も居るらしい。だから目一杯使う。


 転移魔法で、屋敷に戻ると、授業の宿題にとりかかる。


 それが終われば、一日の疲れを、癒すかのように、薔薇風呂に入る。何とも美しい匂いが、満ちている。私はレモンやカボスの方が、落ち着くが、贅沢は言っていられない。


 なぜなら、セクシー値を上げる為で、あるからだ。


 今日もセクシー力が上がった気になって、

ふと鏡を見る。


「私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ。私は綺麗だ...」


 最早、呪いの呪文でしかない。

私はセクシーなポーズで唱え終わると、ニャン五郎と共に、スヤスヤと、眠りについたのであった。

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