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俺には歳の離れた兄貴が居る。自分は家を出て部屋を借りて生活しているし、兄貴は兄貴で別の場所で過ごしている。歳が離れているからか、良く構っては貰えた。俺は典型的な『弟』だったんだと思う。
リアンには3歳離れた弟が居る。今でこそ和解はしているものの、それなりの家柄の長男と言う立場。話を聞いた限り、損をしがちな典型的な『兄』だったんだと思う。
そんな2人が邂逅したのは16歳になる年の4月。軍事学校でだった。
この頃には背丈も175cmあった俺は、今に至るまで数cmしか伸びなかった。残念ながら成長期は終わっていたらしい。
一方リアンは170cmあるかないかくらいだったし、伽羅色の髪にオレンジ色の瞳と言う外見に加え、どうにも鍛えられていない身体つきに『こいつ、本当に軍人目指しているのか?』と不安になったものだ。多分だが、リアンが小柄だったのはきっと実家でのストレスだったのかもしれない。軍事学校に来て実家から離れたからか、リアンは随分と変わった。
気になって見ていると、座学は出来るし、運動もそつなくこなすし、各種専門実技も上手く吸収して付いて来る。脱落者が出て行く中、常に俺と首席を争うのはリアンだった。だがこいつは甘い。最初は仲良くなんかなれないと思っていた。ただ、やたらと根性はある。
「よぅ。お前、根性あるな」
食堂で1人で食事をしているのを見掛けて、興味本意で近付いて声を掛けた。当時のリアンは感情が乏しく、あまり笑う事もなかった。
「…君は?」
「あぁ、失礼。俺はアイゼン。アイゼン・アレス」
「僕はリアン・コーネリア」
「…コーネリア、名前は聞いた事がある。中央管轄区の」
「…あのさ、僕は実家が好きじゃないんだ」
「そうか。それは悪かった」
定食が乗せられたトレーをテーブルに置き、リアンの向かいに着く。俺を気にする事もなくパスタを食べるその仕草はさすが良家のお坊っちゃんと言うべき、綺麗な食べ方だった。
それからは何となく一緒に居る事が増えた。
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「アイゼンは何するにも要領が良いよね」
「ん?あー。俺さ、兄ちゃんが居るんだよ。だからかもね。『典型的な弟』なんだと思うよ」
「そうかも。…僕は兄ちゃんの立場なんだ。やっぱり僕の弟も要領が良くて、僕はいつも損をしていた。『典型的な兄』ってやつ」
冬頃には同期生の2トップになっていたし、随分と打ち解けていた。くだらない事で笑い、苦手な部分はお互いで上手く補えたし、学校側も模範として実践ではバディを組ます。良い意味で逆ベクトルな2人だからこそ、上手く噛み合わせられるし、行動も考えも読める。
校内実習が終わり、何も言わずとも自販機コーナーへと歩き出す。
「でもリアンはさ、何でも1人で抱え込み過ぎ。もっと俺に投げれば良いのに」
「いや、何か申し訳なくて…」
『典型的な兄』であるリアンは何でも自分が、と溜め込む癖があり、それがどうにもこうにも気になる。その行動を見ていると何となく『弟』の立場の俺には新鮮で、つい兄貴面してみたくなる。
そう言えば、実際に自分とリアンはどちらが兄貴なのだろうか?家庭環境とか抜きにして、単純な生まれの話。
ガコン…と自販機が俺の分のコーンポタージュの缶を排出した。
「リアンって何月生まれ?歳は一緒だろ?俺、11月」
見た目ほわほわしているこいつは、2月とか3月辺りの春が似合いそうだがどうだ?
「僕は7月」
予想を反して夏だった。いや、それよりも…。
──結局ここでも弟側なのか…。
「アイゼン、弟って楽しいものか?」
「うーん…楽しいって言うか、構っては貰えるし下だからって甘やかされるけど、反面服でも何でもお下がりだし、『兄ちゃんが出来るんだからお前も出来るんだろ?』的なプレッシャーは酷いもんだよ?逆に兄ってどうなんだ?」
「兄は兄で大変だよ。『お兄ちゃんなんだから』は常套句だし、弟が何でも自分の後ろを付いてきて真似て行くのは結構きつい」
「へー。俺が弟だから兄ちゃんの立場に憧れていたけれど、兄ちゃんって大変なんだな」
「弟にもプレッシャーがあるなんて、初めて知ったよ。でも結局は『ないものねだり』だね!」
そうだ。俺が『兄』と言う立場に憧れるのも、リアンが『弟』と言う立場を羨むのも、結局全ては『ないものねだり』。真理だった。
ガコン…と、次はリアンのミルクティーの缶を排出。
「でもさ、もっと俺に頼れよ。お前、人が良過ぎて見ていて心配になるんだよ。俺、リアンとはこれからもバディ組んでいたいし、気持ち的にはリアンの兄貴分でいたいんだよ」
「ははっ!僕がアイゼンの弟?じゃあ僕はアイゼンの撃ち溢しをカバーするよ。お互いに苦手部分をカバー出来れば最強だね、兄ちゃん」
カン…っとお互いのドリンク缶をぶつけ合う。こうやって自分達の関係性は築かれて行った。
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