目覚め
(ここは…?)
目が覚めると、目の前には見覚えのない景色が広がっていた。
なぜ自分はこんな所にいるのだろう、ぼんやりとする頭で記憶を探るが思い出せない。
まずは最近の出来事から思い出していこうと、ゆっくりと最近の出来事を思い出す。
ずっと退屈で代わり映えのない生活を送っていた。しかし、ある日一つだけいつもと違う事が起きた。
食事を運んでくれるメイドが変わったのだ。前のメイドは産休に入ったらしい。
新しいメイドはとっても優しい人だった。
毎日が暇でここには人も居なくて寂しいと言うと、食事を運ぶ僅かな時間話し相手になってくれた。
それが本当に嬉しかった。メイドと話している時間は寂しさや孤独も忘れられたのだ。
そのメイドがある日、こっそりと街に出てみないかと誘ってきた。
そんな事が本当にできるのかと聞くと、お嬢様のお手伝いがあればと言う。
毎日毎日代わり映えのない生活が苦痛で、一人で過ごす日々には孤独を感じていた。
だから、いつもであれば断るような話にも、ついつい乗ってしまった。優しいメイドの誘いだからと油断していたのもある。
その後、メイドの指示通り体調を崩したと嘘をつき部屋に引き篭もった。
そして、食事を運んできたメイドのワゴンに乗り部屋から運び出して貰った。
暫くして声がかけられ外に出ると、そこは見たこともない部屋の中だった。メイドが配膳室だと教えてくれたが、生まれて初めて見るので興味深い。もっとじっくり見たかったが、時間がないと言われて渋々観察を諦めた。
その後、メイドの誘導に従い王宮内をコッソリと移動して、王宮の外れまで行った。
何だか隠れんぼみたいと楽しくなっていったが、楽しい時間は突然終わりを告げる。
たどり着いた王宮の外れの小屋に、怖い顔をした男性達が居たのだ。
腰に剣をぶら下げ、縄を手に持ちニヤニヤしていた。
騙された。
そう気づいて逃げようとしたが、逃げ切れる訳がなかった。抵抗したが、すぐに捕まった。
そしてハンカチを口に当てられ、そこから記憶が無い。
きっとあのハンカチは睡眠薬が染み込んでいたのだろう。
思い出した記憶を頼りに推測するに、眠らされ誘拐されたようだ。
エミリア・ランドルフ、人生初の誘拐である。
王女が誘拐されるなんて大問題だ。お父様もお母様も酷く心配しているだろうし、怒っているだろう。
無事に王宮に帰れても、きっと今回の事もあるからもう外には二度と外には出してくれなかもしれない。そう考えると憂鬱だ。
でもまずは無事に帰ることが先決なので、一旦その心配は頭の片隅に無理やり追いやることにした。
上半身を起こして、まずは現状を把握しようと周りを見渡す。
誘拐されたにしては待遇が良さそうだ。手足は拘束されていないし、フカフカのベッドに寝かせて貰っている。もしかして王女様待遇だろうか。
そんな事を考えていると、突然扉が開いた。
驚いて扉の方を見ると、そこに端整な顔をした青年が立ってた。
銀髪の髪は窓から差し込む光に輝きキラキラしている。鋭く切れ長のエメラルドグリーンの瞳はどこか影を含んでいるが美しい。
突然現れた美しい青年に目を奪われていると、青年が静かに口を開いた。
「怪我、してないか」
声も美しい。この青年は神に愛されているのだろうか。全てが完璧だ。
男性に免疫の無いエミリアは、若い男性と話すだけでドキドキしてしまう。
「ど、どこも痛みはないので、怪我はしてないみたい」
その言葉に青年はほっとしたような表情をしたような気がする。
ポーカーフェイスなのか、あまり表情が大きく変わらないので、あくまで気がするだけだ。
しかし、エミリアを心配しているような雰囲気は感じる。きっとこの青年は良い人なのだろう。
(それにしても、この青年は何者なのかしら。ここはどこ?)
エミリアの疑問が伝わったのか、青年がゆっくりと状況の説明を始める。
「ここはルマイ王国とピベル王国の国境にある、迷いの森と言われるの森だ。お前は男達に縛られて捕まっていた」
(やっぱり、私はあのメイドに騙されたのね…)
あのメイドはエミリアのことを騙してはいなかったのではないか、と少し期待していたのだが、やっぱり騙されていたようだ。
自分の浅はかさに呆れてしまう。
「俺はたまたま縛られて捕まっているのを見かけて、人攫いにあったのだろうと思い助けた。以上だ」
なるほど、どうやらこの人はエミリアを助けてくれたらい。
見た目が美しいだけではなく、心まで美しいようだ。そして助けてくれたということは、強いのだろう。
エミリア的に結婚したい条件であるイケメン・優しい・強いを全て満たしている。
(なんて完璧な人なのだろう)
自分に呆れて落ち込んでいたことも忘れ、目の前の青年に夢中になる。もっと彼の事を知りたい。
「助けてくださりありがとうございます。良ければお名前を教えてください!」
青年は一瞬戸惑ったような顔をした。何故だろう、名前は秘密なのだろうか。
「…アルフだ」
「アルフ!おいくつですか!?」
何故そんな事を聞くのか?と言わんばかりの顔をしている。
「…二十二だ」
「丁度よいですわ!お住いはこの森ですか!?」
エミリアは戸惑う青年を気に留めることもなく、グイグイ質問をする。
ずっと王国の奥で人との交流を断絶されて育ったせいで、男性と出会う機会が無かった。だから恋愛の仕方が良くわからないが、本から得た知識によるとまずは相手の事を知ることが大切らしい。
「何が丁度よいんだ…」
青年は若干引き気味だ。でもエミリアはそんな事ではめげない。
イケメンで優しくて強い、そんな素敵な人中々出会えないであろうから、掴んだチャンスは手放さないようにしなければ。
「私、アルフの事が好きになりました!」
「…」
青年は何だこいつという顔をしている。
「私と結婚しましょう!!」
「………」
どうやら、エミリアがあまりにも突拍子もない事を言うので、頭を打ったのではないかと疑っているようだ。頭を触られている。
頭に怪我が無いと分かると、今度はジッとエミリアを見つめてきた。もしかしてふざけていると思ったのだろうか。
エミリアとしては本気で言っている。
二十二歳なのであれば、結婚するにも良い年齢であろう。王女として、次の世継ぎのことを考えるとより良い遺伝子がいいと常々考えていた。しかもこの青年はエミリアが考えていた結婚したい人の条件にピッタリなのだ。
もしかして、年下は嫌いなのかもしれない。
この際年齢を誤魔化してでも、この青年を射止めなければいけない。それよりも先に色仕掛けだろうか。エミリアは気合を入れ直し、もう一度言う。
「私、胸は大きいので!満足させられると思います!結婚しましょう!」
「…………………」
青年はなぜが頭を抱えていた。
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