セアという魔族──③

 朝食兼昼食を食べ終えた俺たちは、セアを連れてアレクスの外に出た。

 今日から本格的に、セアの行動を監視する。

 新月草のような特殊な素材はもうないみたいで、あとは単純に入手難易度が困難なものばかりだそうだ。



「因みに、あとは何を集めるの?」

「そ、それは言えません」



 ふむ。それを教えるのも、獄門のレトへの裏切りになるってことか。

 なかなか、面倒な制約を課せられてるな。

 前を歩くセアの後ろからついて行く。

 セアは落ち着かないみたいで、何度も後ろを振り返っている。

 そんなセアが怪しいのか、クレアとライガが臨戦態勢でセアを睨む。



『コハク、怪しいわ』

『うむ。もしかしたら、わざと危ない場所に連れていこうとしてるのかもしれませぬ。コハク様、ご用心を』

「心配しすぎだよ」



 昨日今日とセアのことを見たけど、多分これは素の性格だと思う。

 もしこれで裏があるなら、演技派すぎる。今すぐに女優になった方がいい。

 森の中を練って歩くこと1時間。急にセアが、茂みの中に頭を突っ込んで隠れた。

 と、俺の気配探知にも何かが引っかかった。

 この気配は……。



『コゥ、むこーに人の気配がするよー』

「だね」



 スフィアに手で合図を出し、セアの姿を隠す。

 しばらくみんなで気配の方を注視してると、森の向こうから4人組がこっちに向かってきた。

 見た目からしてハンターだ。しかもあのプレートは……バトルギルドのシルバープレートか。



「あん? 誰だ?」

「一人……か?」

「だな。けどあのプレート見ろよ。噂のアイツだろ」

「あぁっ、テイマーギルドとバトルギルドを掛け持ちしてミスリルプレートになってる奴か……!」



 少し遠くで、小声で話している。

 それが聞こえるのも、フェンリルの聴覚が俺に影響を及ぼしてるおかげだ。

 4人はにやけヅラを浮かべ、へこへこと俺の前を通り過ぎる。



「けっ、インチキ野郎が……」

「2つのギルドを掛け持ちして、ミスリルだと? 嘘くせぇ」

「ぎゃははっ。しかも弱そーだしな」

「マスターも騙されてんだよ。助言してやろーぜ」



 俺に聞こえてないとでも思ってるのか、4人は好き勝手に言って去っていった。

 まあ、そう思われても仕方ないよね。俺だって逆の立場なら信じられないし。



「アイツらも好き勝手言うねー。ちょっと呪っとこうか」

「うん。……うん?」



 え、今俺、誰に返事した?

 声がした方を振り返る。

 と、頭上の枝に見覚えのある少女が座っていた。



「あ、サーシャさん」

「やっほー、コハクくん」



 サーシャさんは枝の上で足を組んでいて、こっちに花のような笑みを見せた。

 まったく気配を感じられなかった……相変わらず、気配を隠す技能が高すぎる。

 スフィアたちも目を見開いて、サーシャさんを見てるし。



「カース、お願いね」

『はい、ご主人☆』



 サーシャさんの手から、黒いモヤのようなものが放たれた。

 それに包まれた4人だが、何事もないように森の奥へと去っていく。



「これでよし。カース、ありがとう」

『ご主人のためならこれくらいどうってことないです☆』



 おぉ……あのカースを手なずけてる。サーシャさん、すごい。

 サーシャさんは俺の隣に降り立つと、ナチュラルに俺の腕に抱きついてきた。

 あんまり膨らみはないとはいえ、肘の奥に感じる膨らみ……やべーっす。

 あとクレア、スフィア。そんな顔でサーシャさんを睨まないの。



「サーシャさん。どんな呪いを掛けたんですか?」

「全員、明日までに禿げる呪いと、10年間EDになる呪い」

「ヒェッ」



 地味に嫌だ。というか致命傷すぎる。



「……ところでサーシャさん。どうしてここに?」

「あ、そうだ。コハクくんに用事が会ってきたんだった」



 用事? 俺に?

 なんだろう、また特訓かな。

 けどそんなことのために、ここまで来るとは思えないし。

 首を傾げてると、サーシャさんはにこりと微笑んだ。






「魔族の女の子、殺すから引き渡して♪」

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