剣の里──②
『失礼致しました……』
「いや、俺は気にしてないよ」
みんなも俺と契約した当時は同じような感じだったし。
っと、そんなことより。
「ライガにお願いがあるんだ。俺、テイマーとして今より強くなりたい。だからこの大陸で、しばらく訓練させて欲しい」
『なるほど。だからあの時、
その言葉に軽く頷く。
「俺はテイマーとして、みんなの力を最大限まで引き出せていない。テイマーとして強くなって、みんなと一緒に戦いたいんだ」
『……わかりました。満足のいくまで、是非ここを拠点にしてください。私もコハク様のお力になれるよう、尽力致します』
「ありがとう、ライガ」
それにライガの話が本当なら、ここには魔物達は来ないはずだ。
休むときも外敵を気にせず休める。
この1週間ずっと気を張りつめてたかは、これは嬉し……い……あれ……?
「ぅっ……」
『コゥ、どうしたの? 大丈夫?』
「あ……うん……大、丈夫……」
あれ……なんだろ。いきなり眠気が……。
前後不覚。頭も回らないし、視界が歪む。
体もダル重くて……。
『ご主人様、恐らく疲れが一気に来たのかと。今はごゆっくりおやすみください』
あぁ、そうか。今まで魔物達の敵意に晒されてて……安心したから、一気に眠く……。
「ありがと……そうさせてもら、う……」
遠くからみんなの声が聞こえる。
もう無理……寝る……スヤァ。
◆
『……寝たわね。相変わらず可愛い寝顔』
フェンリルに体を預け、目を閉じるコハク。
フェンリルも丸くなり、尻尾でコハクを包んで一緒に眠り。
コハクの肩に乗っていたクレアは、起こさないようにコハクから離れた。
今までの話を聞いていたライガは、顎に手を当て『ふむ……』と唸る。
『スフィアよ。何故コハク様はいきなり力に固執するようになった? 魔王の話をしたときは、かなり消極的だったと思うが』
『はい。実は先日、魔族が現れまして──』
スフィアは話した。
魔族が現れたこと。
その魔族が、コハクの想像を超えた強さだったこと。
自分達
そのとき、他のテイマーが未知の戦い方をしていたこと。
掻い摘んで、簡潔に説明する。
ライガも納得いったのか、腕を組んで頷いた。
『なるほどな……その魔族は七魔極クラスか?』
『いえ。中の下……よくて中の中です』
『……状況はよくわかった。確かに、中の中レベルの魔族ならコハク様1人で倒せねば、この先厳しい戦いになるだろうからな』
七魔極。それに魔王。
この2つを滅ぼさないと、世界に平和は訪れない。
雑魚魔族程度に後れを取っている場合じゃないのだ。
そんな中、クレアが滞空しながら口を開いた。
『だけどさ、魔人化も魔融合も魔変身も、問題はコハクの素質についてじゃない?』
『その通りだ。どれも素質がないとできないものだぞ』
『わかっています。しかし、何をするにしてもまずはご主人様の素の身体能力を上げることが先です』
この数日、コハクの戦闘を見て思ったことがある。
いくらなんでも甘やかしすぎた、と。
確かにテイマーは、テイムした魔物を使役して戦う。
だがどのテイマーも、テイムした魔物が殺されたりはぐれた場合、自衛の手段を1つは持っている。
今のコハクにはそれがない。
コハク自身の実力は、精々一般人に毛が生えた程度のものだ。
自分達がいる限りコハクを1人にさせることはないとは言え、万が一……いや、億が一の可能性はある。
魔人化、魔融合、魔変身はその先の話だ。
『なので、この魔境にてまずは半年。基礎体力と基礎戦闘力を養います』
『あいわかった』
『それはいいけど、コハクに身に付けてもらう技はどうするの? 魔人化も魔融合も魔変身も、才能がないとできないわよ』
『それも問題ないでしょう。……恐らく、ですが』
スフィアの含みのある言い方に、クレアとライガは首をかしげた。
『ふふ、今は信じましょう。我らが主の力を』
『……そうね。コハクなら何かやってくれそうだし』
『然り。コハク様ならば、必ずや我らを使いこなすであろう。──【聖なる魂】を持っているのだからな』
3人はコハクを見つめ、そっと柔らかな笑みを見せる。
つかの間の休息。
そんな平和な時間は……翌日には、完膚なきまでに破壊されるのであった。
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