魔法武器《フラガラッハ》──①

 あの後、上質な鉄鉱石を麻袋15袋分。魔水晶を5袋分採掘し、予定通り3日目の夕方にはアレクスへと戻ってきた。


 フェンリルの背を見る。

 20袋分乗せてるけど、フェンリルの足取りは軽やかだ。



「フェン、重くない?」

『よゆー! 全然よゆー!』



 絶対1トンとか越えてると思うんだけど……幻獣種ファンタズマの力は計り知れないなぁ。



「これだけあれば、ギルドの鉄鉱石不足も解消するよね」

『はい。さらに魔水晶は、魔法武器の材料になりますからね。これだけあれば、かなりの額になるでしょう』

「魔法武器?」

『魔法の力を内包した武器です。《ファイアーボール》を内包した剣は、振れば魔力を使わずに《ファイアーボール》を撃てます』



 へぇ。そんな便利な武器もあるのか。

 今後のために、俺も1つは持っておこうかな。

 これだけ魔水晶もあることだし。


 っと、まずは依頼達成報告と、鉄鉱石の換金をしなきゃ。



「サリアさーん、戻りましたー」

「あっ、コハクさん! どこに行ってたんですか!」



 俺を見たサリアさんが、慌てて近付いてきた。

 な、なに? 何をそんなに慌ててるの?



「道中探しても見つからなくて……でも戻って来てくれてよかった……」

「どうしたんですか?」

「実は、レゾン鉱脈の奥で危険区域デンジャラスゾーンが見つかりまして。なんでも、強力な魔物が現れる可能性があるとか」



 ギクッ。



「そ、そうですか」

「ええ。今、バトルギルドのミスリルハンターが討伐に向かっているそうです」



 ミスリルハンター。アシュアさん達のことか。

 そう言えば、ここからレゾン鉱脈までは馬車で片道5日も掛かる。

 それなのに、彼らはもうレゾン鉱脈にいた。

 流石バトルギルド、ミスリルプレートのハンター。


 アシュアさん達のことを思い出していると、サリアさんはホッと息をついた。



「ですが、戻って来てくれてよかったです。出発して今日で3日目。道中で引き返してきたんですよね?」

「…………」

「……なんで目を逸らすんですか?」

「いやぁ、その……」

「む……むむむ? 怪しい……大変怪しいですよコハクさん」



 ち、ちかっ、近いですって……!

 うわっ、ちょ、いい匂いすぎ……!

 それにそのっ、前のめりになるから胸が強調されて……!



『ぐむむむ! ご主人様、鼻の下伸びすぎです!』

『あんたっ、こんな可愛い私がいるんだから、今更別の女に鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!』



 わかった、わかったから目の前で飛び回らないでくれっ。



「……あれ? コハクさん、服に鉄鉱石の欠片が付いてますよ」

「うそっ。ここに来るまでに全部取り払ったんだけど」

「嘘です」

「…………」

「嘘です」

「……あは♪」

「事情聴取」

「……はい」



   ◆



「はいぃ!? 危険区域デンジャラスゾーンに出たデス・スパイダーを倒したぁ!?」



 ギルド奥の応接室。

 俺はサリアさんに事情聴取を受けていた。



「ええ、まあ……。正確には俺じゃなくて、皆ですけど」



 俺の隣でドヤ顔をしている皆。

 それを指さすと、サリアさんはあぁ……と納得した。



幻獣種ファンタズマの皆さんですか。なるほど、そういうことですか。それならなら納得……なわけないじゃないですかあぁ!」

「うわっ!?」



 バンバンバンッ!

 テーブルを強く叩いて威圧してくるサリアさん。ドラミング威圧やめてください、怖いから。



『ちょっ! あんた何言って──』

「シャーーーラッッップ!!!!」

『ひぅっ……!』



 あ、圧がすごい。

 あのクレアもたじたじで涙目だ。



「って、まさか見えてます?」

「見えてません。ですが、話の邪魔をされそうだったので」



 勘がいいな、この人。

 確かにあのままじゃあ、クレア達が話に割って入って来て聞き取れなかっただろうし。



「はぁ……いいですかコハクさん。今回は何ともなくてよかったですが、ハンターというのは常に死と隣り合わせ。死と同衾してるような職業なんです」

「何ですかそのパワーワード」

「黙りなさい」

「ごめんなさい」



 だからそんな龍種ドラゴンみたいな目で睨みつけないで。



「死と隣り合わせだからこそ、危険予知や危機察知能力を高めないといけません。危険だと感じたら、逃げることも大切です。あなたの命はあなただけのもの。世界でたった1つなのです。わかりましたか?」

「……はい、サリアさん。ありがとうございます」

「……うん、よろしい。ごめんなさいね、こんな話してしまって。……もう、死に逝くハンターは見たくないんです」



 ぁ……そうか。彼女はギルドの職員。

 今まで何人も、ハンターが死んだという報告を受けてきたんだろう。

 こんな過剰な反応も、その悲しみの裏返しなんだろう。



 ……どうしよう。すごく……すごく嬉しい。



 トワさんからは、労いと期待と応援を。

 そしてサリアさんからは、心配を貰った。


 今まで俺の中になかったものが、ここ数日で満たされていく。充足していく。


 これが、幸せっていうんだろうな……。


 この気持ちを逃がさないよう、胸の辺りをキュッと押える。

 と、サリアさんは手を叩いて空気を変えた。



「さてっ! レゾン鉱脈帰りということは、鉄鉱石を採掘してきたんですよね! 早速納品しますか?」

「ああ、はい。お願いします。スフィア、頼む」

『かしこまりました』



 スフィアが、フェンリルの背に乗っている麻袋を部屋の隅に積む。



「……ん? ……え? ……えと……? …………」



 積み上がるに連れ、サリアさんの顔色が蒼白になる。

 それでもまた1つ、また1つと積まれ。

 部屋の隅に15袋の麻袋が現れた。



「これが、依頼の鉄鉱石になります」

「……すご……こ、これ全部……ですか?」

「はい。それと」

「まだあるんです!?」

「え? ああ、はい。むしろこっちが本命というか」



 鉄鉱石の麻袋の山。その隣に、別の山が築かれた。



「これは何ですか?」

「魔水晶です」

「……へっ?」

危険区域デンジャラスゾーンで倒したのは、魔水晶を取り込んだデス・スパイダーでして……討伐後に、採れるだけ採ってきました」



 麻袋の袋を開けて見せる。

 天色の光を放つ魔水晶。それが無数に入っていた。



「あ、魔法武器ってやつを作りたいので、少しだけ貰っていきますが……あとはギルドに納品しますね」

「…………」

「……サリアさん?」

「……きゅぅ〜……」



 ばたり。

 気絶した!?



「さ、サリアさん!」

『怒ったり、怖かったり、驚いたり、気絶したり……忙しい人間ね』

『クレア、漏らした? 漏らした?』

『も、漏らしてないわアホ犬!』

『でも若干染みてますよ』

『んな!?』

『嘘です。ぷぷ』

『ぐにににに……!』



 君達自由だな!?

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