第8話 二人目

 亜希と付き合って、数日が経った。


 彼女と共に過ごして、分かったことがある。




 それは、俺の彼女は最高に可愛い、ということだ。


 ……あ、こっちじゃなかった。




 公人と付き合えず、バッドエンドが確定したはずのヒロインでも、死亡フラグを折ることができるいう事。


 肝心の死亡フラグを折る方法についてだが……確証はないが、一つの仮説がある。




 バッドエンドが確定したヒロインは、亜希にとっての俺がそうであるように。


 恋人を作ることで死亡イベントを避けることが出来るのではないか?


 これまでの世界では無かったことだから詳細な検証は出来ないが、試してみる価値はある。




 それを踏まえてここから先、ヒロイン全員生存エンドを目指す道は、三つある。




 まず一つ目。


 公人に、俺の恋人になった亜希を除いたハーレムエンドを目指してもらう。


 これは、一番最初に考えていた方法だ。


 しかし、当初の予想とは異なり、現在は公人が脇谷に対してメロメロであり、そこから複数のヒロインを攻略してもらうように誘導するのは難しいように思う。




 次に二つ目。


 俺以外のモブキャラに、ヒロインを攻略させていくこと。


 ……しかし、これにも問題がある。


 ヒロイン全員、一筋縄ではいかない相手であり、本来モブに落とせるような存在ではないのだ。


 また、ヒロイン達を確実に幸せにできるようなモブキャラが、そうそういるようにも思えない。


 そのため、この案は一旦保留だ。




 最後に三つ目。


 これは亜希の前では絶対に言えないのだが――。


 俺自身が、ハーレムエンドを目指すこと。


 各ヒロインたちは、先ほども言ったように、本来は俺のようなモブキャラに落とせる存在ではない。


 しかし俺には、前ループまでの記憶がある。


 記憶を引き継いでいない他のモブや、恋人に骨抜きとなっている今の公人に比べて、上手に立ち回ることが出来るはずだ。




 亜希だけじゃない、俺はヒロイン全員を絶対に幸せにしてみせる……!


 それは、この世界でループ間の記憶を引き継ぐ俺にしかできないことだ。




 俺はそう覚悟を決めるのだが、本計画の実行に当たり重大な問題に直面していた。


 それは――。







 休日、とある喫茶店にて。


 俺と亜希は一緒に昼食を食べていた。




 亜希は海鮮を使ったクリームパスタを、俺はミートスパゲを、それぞれ食べている。


 彼女はクリームパスタに舌鼓を打ってから、俺の前の皿を見て、




「……友馬のも美味しそうね。一口食べても良い?」




 といった。




「良いよ、ほい」




 そう言って、俺は亜希が食べやすいように皿を動かすと、何故か彼女は不満そうに俺を見た。


 どうしたんだろうと思うと、




「んっ」




 と言ってから、彼女は目を閉じ、口を開いた。


 これは、そう言う事か……!? 




「……あーん」




 俺はフォークにパスタを絡ませ、亜希の口元に運んだ。


 亜希は、パクっとフォークを咥えて、パスタを咀嚼し始めた。




「美味しー♡」




 亜希は頬を押さえながらそう言った。




 ――可愛すぎるっ!




 そう思いつつ、俺もミートスパを口に運ぶ。


 亜希の笑顔を見ながら食べる昼飯は美味い!


 そう思っていると、




「間接キスね、嬉しい?」




 ニヤニヤしながら、亜希が俺に問いかけてきた。




「そりゃ勿論、めちゃくちゃ嬉しいねっ! このままフォークを小一時間くらい舐り続けたいくらいだっ!」




 と、俺は勢いよく答えた。


 ……っは、しまった! 


 する必要もないのに、お馬鹿でスケベな友人キャラロールプレイをしてしまった!


 これが俺の習性だからちくしょう!




 亜希に引かれてしまったのではないか、そう思って彼女を見ると、




「……あたし以外にはそう言う事言っちゃダメだからねっ!」




 恥ずかしそうな様子の亜希が、上目遣いにそう言ったが、どうやら嫌がってはいないみたいだった。


 亜希も大概だな……と内心呆れる俺に、




「はい、友馬も。あーん♡」




 といって、亜希も同じように、フォークにパスタを絡めて差し出してきた。


 俺は遠慮なくそれを食べる。




 うーん。亜希に食べさせてもらう昼飯は美味い!


 俺がそんな風にキモイことを考えていると、亜希もパスタを自分の口に運んだ。




「間接キスね、あたしも嬉しいわ」




 と、蠱惑的な表情で彼女は言った。


 彼女の表情を見て、俺はうーんと考えこみ、


 可愛いっ! と喜んだ。




 難しいことを考えるのは後にしよう。そう思って、俺はニコニコ笑顔を浮かべてランチを食べ進めた。







 ランチを食べ終え、二人でお茶を飲んでいるときに、




「そう言えば、明日あの子が久しぶりに登校するんだってね」




 亜希は俺にそう言って話題を振った。




「あの子って?」




 俺が言うと、「知ってるくせに」と前置きをしてから、




「愛堂あいどうさんのこと。アイドル活動が忙しくってまだ学校に来たことは無かったけど、一緒のクラスだって、知ってるでしょ?」




 もちろん、彼女のことはよく知っている。


 現在大人気の三人組アイドルユニット『3ニン娘。』不動のセンター、愛堂瑠羽あいどうるう。


 何を隠そう、彼女も攻略対象ヒロインだ。


 そして……俺が次に攻略を開始するべきヒロインでもある。




「瑠羽ちゃんのことは知ってる」




 俺が言うと、亜希は「それなら」と言ってから、




「あたしと愛堂さん、どっちの方が可愛い?」




 挑発的に、亜希は問いかけてくる。


 俺は、うーん……と悩んでから、




「甲乙つけがたしっ!」




 俺が回答を告げると、即座に脛に痛みが走った。


 見ると、亜希が俺の脛をつま先で蹴っている。




「亜希さん、痛いんだけど?」




 俺が不満気に言うと、今度は俺の頬をつまんできた。


 痛いというかくすぐったい。




「……アイドルと同じくらい可愛いって言われて悪い気はしないけど。今度からこういう時は、『亜希が世界一可愛いよ』って、気の利いたことを言えるようにしなさいよねっ!」




「はひ、分かひまひた」




 俺が答えると、「それならよし」と満足そうに俺の頬から手を離した。




「あ、それと。あたしがどうして愛堂さんの話をしたか、分かってる?」




「……どうしてだ?」




「愛堂さんが可愛いからって、ちょっかいを出さないようにしなさいよ?」




 俺の額を可愛らしい力で、デコピンした。




「俺が相手にされるわけないだろ?」




 俺は大げさに痛がってから、額を押さえて答える。


 亜希はその様子をクスクスと笑ながら、優しい眼差しを俺に向けてきた。




「それもそうね。友馬は馬鹿でスケベだから」




「ひどい言われようだ……!」




 俺が頬を引き攣らせて言うと、




「馬鹿ね、友馬の良いところを知っているのは、あたし一人だけで十分ってことよ」




 彼女は恥ずかしがるように頬を染め、上目遣いに俺を見た。


 彼女は本当に可愛らしくて――だから余計に心苦しい。




 俺は瑠羽を死亡エンドから助けるために、彼女の攻略を始めないといけない。


 しかし、その攻略を始めるにあたり、俺は重大な問題に直面していた。


 それは、つまり――。




 俺の彼女が可愛すぎて、二人目の攻略に支障が出そうだと言う事だ……っ!


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