第72話 表

「葵、おはよ……いたっ。」


「ああ、おはよう。動き過ぎて筋肉痛になってるけど大丈夫か?」


「全然大丈夫じゃないよぉ、脚がすごく痛い。」


「俺も同じだ、歩くのも痛いが我慢して生活しなきゃな。」


 朝、脚の痛みに耐えながら玲奈と登校する。お互い運動なんてあまりしないから2人で筋肉痛だ。全く嬉しくないお揃いだ。


「またいつも通りの日々に戻っていくね。」


「そして非日常の期末テストが待っているぞ。」


「うげっ、そうだった。いつからだっけ?」


「2週間後からだったはずだ。それまでみっちり詰め込もうな。」


 玲奈に残酷な現実を突きつける。さすがに夏休みの補習は嫌だと思うのでみっちり詰め込んで赤点を取らせないようにしなければ。


「授業も起きてたし、さすがに大体の内容は分かるよな?」


「た、多分?英語ならばっちり覚えてるけど。」


「まぁ勉強する時に分かるから今はまだ気にしなくてもいいか。」


「そうだよ。楽しい話して学校に行こっ。」


 別に今日から勉強をすると言う訳ではないのでこの話はいったん頭の片隅置いとくことにする。テスト1週間前にやればいいだろ。


「そういえば、石晶なんだが右腕が骨折だってさ。」


「それならギブスしなきゃだよね。生活が大変そうだけど大丈夫かな?」


「どうだろうな。今日にでも本人に聞いてみるか。」


 体育祭に病院に言った石晶は骨折でしばらくは動かさないようにとのことだった。利き手が使えなくなったんだしノートも取りづらいだろうな。


 少し暗い話はこれくらいにして俺と玲奈は別の話をしながら学校に向かっていった。

























「それで、午前中過ごしてみてどうだったんだ。」


「いやぁやっぱり聞き手が使えないのは辛いね。今までできてたことができないのは歯がゆいね。」


「まぁそうだろうな。それにしても朝のあれは何だったんだ?」


「朝のあれって?……もしかして翠と一緒にいたことかい?」


「それだ。」


 昼休み、玲奈に作ってもらった弁当を食べながら石晶と話す。石晶は慣れない左手で箸を使っているせいで時々ご飯を落としている。


 俺が言っているのは朝、石晶が納泉さんにあれこれ世話を焼かれていたことだ。両手を使うようなことは全部納泉さんが代わりにやっていたな。


「なんかねぇ翠が何度言ってもやめなくてね。しばらくはお世話されそうだよ。」


「罪悪感がいまだにあるんだろうな。でも、実際に助かるからお世話されておけばいいんじゃないか?」


「そうだね。右腕が必要な時には翠に助けてもらうよ。」


 そう言いながらまたご飯をぽろっと弁当に落とした。これならご飯を食べるときも納泉さんがいたほうが速いんじゃないか?


「あははっ、休み時間くらいは翠に自由にしてもらいたいからね。」


「納泉さんにも友好関係があるからな。」


「そうそう、僕ばっかり構っていると友情に亀裂が入りそうでしょ。だから、これだけは譲らなかったんだ。」


 現に俺たちの近くに納泉さんはいない。今頃玲奈に色々聞かれてるんじゃないだろうか。納泉さん、大丈夫だろうか。


「ふぅ、やっと食べ終わった。」


「そのうち慣れていくだろ。飲み物でも買うか?」


「そうだね、疲れた体に染み渡る炭酸飲料が飲みたいんだ。」


「染み渡るってそんな大げさな。」


 確かにあのシュワシュワ感は飲んでいると気持ちいいから病みつきになるのは分かる。ハマってしまって止められないんだよな。


 昼ご飯も食べ終わった俺たちは午後を乗り切る飲み物を買うために、校舎の外に設置されている自販機に向かった。





















「葵、帰ろー。」


「ほら、あんたも帰るわよ。」


「迎えが来たな。」


「速いねぇ。SHR終わったばっかりなのに……ちゃんと荷物整理したのかな?」


「当たり前でしょ。ほら、行くわよ。」


 SHRが終わって席が隣の石晶とゆっくり荷物を整理しているとすぐに玲奈と納泉さんがやってきた。


 帰るのは良いんだが、それにしても来るのが速くないか?玲奈は教科書類とかは大体学校だが納泉さんもそうなのだろうか。


「じゃ、僕たち先に行くね。また明日。」


「おう、お疲れ様。」


「私たちも帰ろっ。」


「そうだな。」


 先に帰る2人を見送った後、荷物を積めるのが終わったので俺たちも帰ることにした。他愛もない話をしながら学校から出る。


「そういえば、さ。昨日、母さんにこれ、ばれたんだが。」


「そ、そうなの?私も葵が帰ったらお母さんにバレちゃって。」


「なんだそうだったのか。おばさんにも知られるかと思ってひやひやしてたんだがもう知ってたのか。」


「うん、すぐに分かったって。」


 ということは俺にはあえて知らないふりをしていたんだな。それを知らずに必死に隠していた俺って……気にしないでおこう。


「昼にあったことも全部話しそうになったけど母さんの友達から連絡が来たお陰で最後まで話さなくても良かったんだ。」


「……私も、そんな感じだよ?」


「母さんとおばさんってなんで分かるんだろうな?」


「なんでだろうね?」


これが母の力ってやつなのだろうか?玲奈がそうなるって考えると違和感がある。


俺たちは母さんたちのことで首を傾げたりしながら帰っていった。

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