第60話 教会
リリスとアリアがシャトルポッドのライセンス講習を今日から受けるので、講習会場に送ってきた。
「それじゃあリリス、頑張って」
「はい、頑張ります」
今日は、午前中が講義で、午後からシミュレータ。明日は午前中に実機の訓練で、午後から筆記試験の予定だ。
「夕方また迎えに来るよ」
「ありがとうございます。では行ってきますね」
リリスとアリアは教室に入っていった。
「さて、俺たちはどうする?」
明日にはギルドに顔を出そうかと考えていたが、今日の予定は何も考えていなかった。
俺は、聖女とチハルに尋ねる。
「あの、ここには教会はないのでしょうか?」
聖女が尋ねてきた。
「わかってると思うけど、十二神教の教会はないぞ」
十二神教はセレストでできた宗教だ。当然セレスト以外では知られていない。
「それは承知しております。どこの宗教でも構わないので、十二神教以外の教会を見てみたいのです」
セレストで、宗教と呼べる物は十二神教だけだからな。そこで育った聖女にとっては、他の宗教を知るのは良い機会かもしれない。
とはいえ、俺は教会があるかも知らないからな。チハルなら知っているだろう。
「チハル、知ってるか?」
「五箇所ある」
「できれば全て回ってみたいのですが」
「構わないぞ、チハル、案内を頼めるか」
「わかった」
俺たちは一日かけて教会を見て回った。
いろいろな教会があったが、スピカ神聖教の教会が一番大きく、立派だった。
スピカ神聖教は、この宇宙で一番大きな宗教団体で、スピカ神聖国を築いていた。
主神は女神で、今の乙女巫は女神が顕現された方だとされている。
何故か聖女が張り合って「セイヤ様も神が顕現されたお方です」と言って、スピカ神聖教の牧師とやり合っていた。
いや、俺はただの人間だから。変なことに巻き込むなよ!
聖女が揉めたのはそこだけで、他の四箇所は大人しく話を聞いていた。
何か得るものがあったのだろうか? 講習会場にリリスを迎えに行く道すがら、聖女はとても機嫌が良さそうだ。
「随分と機嫌がいいな?」
「はい、今日は一日セイヤ様を独り占めできましたから」
チハルも一緒だったがな。
「明日も一緒だぞ」
「そうですね。お姉さまには申し訳ありませんが、こんな機会二度とないでしょうからね。存分に楽しまないと」
「明日はギルドに顔を出そうと思っているけどな」
「別にセイヤ様と一緒なら、どこでもいいですよ」
その後講習会場でリリスたちと合流し、夕食はチハルの希望でステーキ。好きだね肉が。
肉の塊にナイフを入れながら、リリスと聖女が会話を楽しんでいる。
「ララサは、今日は何をしていたのかしら?」
「セイヤ様とデートですね」
「デートですって!」
リリスが肉にフォークを突き刺して、こちらを見る。
ちょっと怖いから、ナイフとフォークを持ったまま睨むのは、やめてくれ。
「聖女の希望で教会巡りをしていただけだよ」
「教会巡りですか?」
「お姉さま、こちらではさまざまな宗教団体があって、教会もたくさんあるんですよ」
「そうなのですか? セレストに宗教団体といえるのは十二神教しかありませんが、ここでは違うのですね」
「お姉さま、神様もいろいろいましてね。必ずしも人と同じ姿とは限らないんです」
「まあ、そんな神様もいらっしゃるの」
「それで、自分が信じる神は、自分が選んで構わないのですよ」
「へー。セレストに住んでいると信じられませんね」
「そうでしょう。しかも、自分で宗教団体である教団を創っても構わないんです」
「教団を創れるのですか?」
「そうですよ。自分が信じるものを神と讃えて、信仰しても構わないんです」
「そうなのですか」
「それでですね。私、新しい教団を創ろうと思うのです!」
「ララサが創るのですか? あなた、十二神教の聖女でしょ」
「教義の解釈の違いから、教団が分裂することはよくあることらしいです」
「だからって、どうしてララサが……」
「私はね、セイヤ様を神として信仰していくと決めたの」
「セイヤ様は神様ではないわよ」
「そもそも、セイヤ様は、十二神教の主神の末裔であらせられるわけだけど」
「それは確かにそうね」
「それ以上に、セイヤ様の持つ力は神の力だと思うの」
「確かに普通では考えられないかもしれないけれど、でも、それは主神様の末裔だからでしょ」
「いいえ、お姉さま。ステファさんに聞いたのですが、セイヤ様の力は主神以上かもしれないんです。ただ、末裔だからで済むことではないんですよ」
「そう言われても、セイヤ様はセイヤ様です。神様などではありません」
「お姉さまならそう言うと思いました。ですが、私は、セイヤ様を神と信じて崇拝していきます!」
「いろいろと悩んでいたようだけど、それが、ララサの結論なのね。私はいいけど、セイヤ様に迷惑をかけないようにしてね」
「勿論、セイヤ様に迷惑はかけないわ」
いや、神様として崇拝されるのは迷惑なんですが。
聖女に言ってやりたかったが、聖女が久しぶりに晴れやかな、落ち着いた雰囲気をしていたので、言い出せなかった。
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