第34話 電波、受信しました

 領主の館に戻った私たちは、町長から連絡が来るまでの数日間も、あちこちを視察して回っていた。

 その結果分かったことは、どこも同じように土地枯れが起こり始めているということだった。「このままでは、今年は何とか大丈夫だが、来年以降は不作が続くことになるだろう」ということだ。

 食糧難に陥れば他国が戦争を仕掛けてくるかも知れない。そうなれば、この国は荒れに荒れるだろう。


 これは非常に良くないな。この世界の崩壊を防いだとしても、その後に戦争が起こって土地が荒れ果ててしまっては、元も子もないだろう。どげんかせんといかん。


 そんな感じでソワソワしていると、待ちに待った報告が入ってきた。


「ふむ、この報告によると、大地の精霊に祈りをささげる場所はこの辺りにあるようだね」


 ルークが地図を指し示した場所は、何の変哲もない場所だった。一体ここに何があるのだろうか?


「その場所は小さな丘になっておりますな。確か、いつの時代からあるのかも分からない、謎の文字で書かれた石碑がある場所だったはずです。まさかあそこが祈りの地とは……」


 セバスティアンには心当たりがあるらしい。しきりにあごに手を当てて、何かを思い出しているようだった。


「それではその祈りの地へ行ってみるとしよう」


 フィル王子の提案によって、全員でその場所に行ってみることになった。一体その地には何があるのだろうか。ひょっとしたら、その石碑に何かしらのヒントが書かれているかも知れない。


 この世界の文字を生まれた時から読むことができる私ならば、きっとその石碑の文字も読むことができるはず。そうなれば、大地の精霊の力を取り戻すことができるはずだわ。



 目指す目的地である丘は、領都からそれほど遠くない場所にあった。広い平原にポツンと丘がある。その丘には木々がまばらに生えているだけで、何の変哲もない場所だった。


「ありましたよ、イザベラ様! あれが話にあった石碑ですね」


 レオナールが指差して教えてくれた。

 私とレオナールはこの課外活動の間に、随分と仲良しさんになってしまっていた。レオナールのことを「レオ」と呼ぶほどの関係に。


「レオ、そんなに焦らなくても大丈夫よ。まずは周囲の安全確保が大事よ」

「大丈夫ですよ、イザベラ様。私が何があっても守りますから」

「ユリウス、君の手を煩わせるまでもない。師匠の一番弟子である、俺一人で十分だ」


 ビシッと背筋を伸ばすと、ローレンツは自分の親指でトントンと自分の胸をたたいた。私の周りはレオナールだけでなく、ユリウスとローレンツも護衛についている。

 え? フィル王子の護衛はいいのかって? フィル王子には専用の護衛が五人ほどついているから大丈夫よ。あれならユリウスもローレンツも要らないわね。


「うーん、これがうわさの石碑か。何て書いてあるか分かるかい?」


 フィル王子がルークに尋ねている声が聞こえた。話の内容が気になった私は二人のそばへと近づいた。一体何て書いてあるのか、私、気になります!


「それが、さすがに分かりませんね。いつの時代の文字なのかもサッパリ分かりません」


 何と、ルークがお手上げだと!? これはビックリだ。自慢ではないが、私の兄のルークは天才と言っても過言ではない。王立学園も首席で卒業しているし、その若さで王立学園の先生をしているのは、優秀なあかしそのものである。


 そんなルークでも分からないのか。何て書いてあるのか気になるなー。

 好奇心を抑えられなくなった私は石碑の文字が見える場所まで近づいた。


 うん、これ、日本語で書かれてるわよね。漢字と平仮名が混じっていたら、そりゃ解読するのが困難だわよね。特に漢字は難しすぎて解読不能だと思う。

 えっと、なになに「盆踊りを踊って祈りをささげよ」だって? だれだ盆踊りを精霊に祈りをささげるための儀式にしたやつ! 責任者、出てこいや!


 そんな私の思いが通じたのか、通じなかったのかは分からないが、ボンヤリと石碑が光った。


「な、何!?」

「ボン……オドリ……」


 それだけを言うと、ボンヤリしたものは消えた。

 なぜそこまで盆踊りにこだわるのか、それが私には分からない。


「イザベラ、今、大地の精霊様は何て言ってたの?」


 石碑が私に何かを語りかけたことを感じたのだろう。ルークが私の肩をつかんで、前後にガクガクと揺さぶった。

 やめて、今言うから。やめて、気分が悪くなるから。


「ぼ、盆踊りを……」

「盆踊り? 一体それは何だい?」


 さわぎに気がついたのだろう。フィル王子も他の生徒たちも何事かと集まってきた。

 ワーオ、もしかして、私が説明しなければならない感じなのかしら? うーん、ここは大地の精霊から何かしらのテレパシーを受け取ったことにしておこう。


 電波少女になってしまうが、私が転生者だと話すことよりかは信憑性があるだろう。


「今、大地の精霊様から、天啓を得ました。盆踊りをみんなで踊ってもらいたいそうです」

「イザベラ様、盆踊りってどうやるのですか?」


 何も知らないレオナールがキラキラした目で聞いてきた。何だろう、このワンコをほうふつとさせる様子は。

 似ている。私の元に転がり込んできた当時の、ローレンツの表情に、似ている。


「それについては、これからお教えしますわ」


 こうして私はみんなの前で盆踊りを披露することになった。前世の病院内で、いつか踊るチャンスが来るかも、と練習をしておいて良かった。前世ではかなうことがなかった夢を別の世界でかなえることができたよ。ありがとう神様。


 でもきっと、こういうことではないと思う。貴族が盆踊りって、どうなのよ。この絵面、大丈夫か?

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