第32話 課外活動
うーん、何だか色々とゲームからは違う方向に進んでいるような気がしてならない。
ヒロインのソフィアは一体どう言うつもりなんだろうか。もしかして、自分がお世話をされる方向に進むつもりなのだろうか?
それだと、フィル王子かルークを攻略するルートを選択しているのだろう。ユリウスもローレンツも貴族だが、貴族としての身分は低いからね。お世話されるよりも、お世話する可能性の方が高いだろう。
でも、もしルークを狙っているのなら、Aクラスの教室がある建物ではなく、職員室に行くはずだろう。
職員室はだれでもウェルカム、自由に入っていいことになっている。ルークに会いたいならそちらに行くはずだ。
と言うことは、ソフィアの狙いはフィル王子か。ソフィアが将来王族に嫁ぐつもりであるならば、この課外活動にも参加しないのはうなずける。貴族の下で働くつもりなどないだろうからね。
これはある意味でラッキーなのかも知れない。
なぜならば、私が悪役令嬢イザベラとして振る舞う必要があるのはフィル王子の前だけ。他の攻略対象であるルーク、ユリウス、ローレンツ、レオナールの前では、そんなことを気にせずに振る舞って良いのだから。
よし、随分と気が楽になってきたぞ。みんなともだいぶ、いや、かなり仲良くなってきていたので、悪役らしく振る舞うのを申し訳なく思っていたのよね。これで遠慮なく振る舞えるわ。
「レオナールは他の人にも挨拶があるのかしら? いや、それよりも、どこで私のことを知ったの?」
「いえ、他への挨拶はありません。私はこの部屋専属の使用人見習いとして就くことになっているのですよ。そしてそのときに担当する貴族の名前でイザベラ様のことを知ったのですよ」
何ということでしょう。何の因果かピンポイントに私との遭遇フラグを引いたものだ。まるでどこかでだれかが運命を操っているかのようである。
「そうだったのね。ごめんね、レオナール、黙っていて。自分の身分のせいでFクラスのみんなとの間に壁を作りたくなかったのよ」
「謝らないでください、イザベラ様。それを聞いたら、きっとみんなも喜びますよ」
「そう? それを聞いて安心したわ」
安心してレオナールに笑顔を向けると、レオナールのほほが赤く染まっていることに気がついた。
……そうだった。私、自慢じゃないけどモテるんだった。そりゃあそうよね。あの美男美女のお父様とお母様の間の子供だもの。美人に決まっているわ。ゲームの中のイザベラも、口さえ開かなければ美少女だったものね。口さえ開かなければ。
そんな予想外の出来事もありながら、いよいよ課外活動の初日が始まった。
初日の日程は前日に入ってきた情報をまとめるところから始まる。
ルークも将来の公爵領を納める立場であるため、その顔つきはだれよりも真剣だった。昨日の晩餐会の席でも、「自分の学生時代にもこの制度があれば良かったのに」としみじみ言っていた。
それを聞いたAクラスの生徒たち、特に男子の顔つきが真剣なものになったのは言うまでもない。
もしかして、それも計算してルークは言ったのだろうか? 漆黒の堕天使成分はなくなったが、その代わりに腹黒い成分が追加されているような気がする。
良かったのか、悪かったのか。
領地の運営を任されているセバスティアンは丁寧に情報の取り扱い方を教えてくれた。将来、領主の妻になる可能性が高い女子たちも、真剣になって聞いている。
お飾りの貴族の奥さまも多いが、この課外活動を通して、私のお母様のようにダメ夫を支えられる人物になれば、家系も安定することだろう。実にいいことだ。
私は特に興味はないので、みんなの邪魔にならないように後ろからのぞくだけにとどめておいた。私たちの後方にいる使用人見習いのみんなとともに。
あれから私は、課外活動に参加しているFクラスのみんなにさっさと自分の正体をカミングアウトした。
最初こそかなり恐縮されたものだが、ローレンツの熱い演説により何とか私たちの間に高い壁ができるのを防ぐことができた。
私はそのローレンツの演説を遠い目をしながら聞いていた。もう好きにしてくれ。
もちろんユリウスが「イザベラ様は例外中の例外だから、他の貴族と一緒にしないように」と釘を刺してはいたが。例外って何だよ。珍獣みたいじゃないか。
そしてなぜか王族であるフィル王子が私にならって珍獣になろうとしていたので、その場にいた私、ルーク、ユリウス、ローレンツの四人でとめた。全力で。
さすがにそれはない。珍獣の私でも分かる。
そんな私たちのやり取りを見て、他の高位貴族たちもFクラスの人たちも随分と打ち解けたような感じになった。
雨降って地固まるである。け、計算通りなんだからねっ!
情報をまとめたあとは、その情報を元に領地の視察に出かけることになった。
今日お邪魔する地域は、先日までに情報を集めていた場所であり、それを元に視察を行う。
どうもこの地域では農作物の育ちが悪いようである。今回はその原因を探るための視察である。
事件は領主の館で起こっているのではない。現場で起こっているんだ! とのことである。百聞は一見にしかず。見れば分かるさ、ということだ。
セバスティアンの話によると、問題が起きている地域に行かずに空論で問題を解決しようとする領主が、一定数、いるそうである。
そして、そんな領主がいる領地は「将来的に傾く」そうである。
これを聞いた一部の生徒たちがすぐに手紙をしたためていた。感心、感心。
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