第21話「驚きのライトサイドな見学②」

 アレクサンドラは「つかつか」と、ひとつの部屋の扉の前に立った。

 掲げてある部屋の名札をシモンが見れば、次官室のようである。


 いろいろなケースはあるが、ティーグル王国においては……

 次官とは大臣、長官等のトップに続くナンバー2である。

 

 アレクサンドラは、スカウト中のシモンを紹介する意図のようだ。

 この次官が、今回の案件を遂行するひとりなのだとシモンは聞いている

 

 笑顔のアレクサンドラ曰はく、次官もシモンと同じ『転職組』との事。

 前職は、女子の魔法学校『ロジエ魔法学院』の主任教師だったらしい。

 

 軽く息を吐くと、アレクサンドラは扉をリズミカルにノックする。


「は~い」


 女性の声で返事があった。

 対して、アレクサンドラは大きな声且つ砕けた口調で告げる。


「お~い、リュシー、私だぁ~」


「は~い、長官、今開けるよ~」


「入室OKなら、私が扉を開ける。例の子を連れて来たからさぁ。リュシーへ紹介するよ」


「え? 例の子? うわ、お宝ハンターでしょ? 楽しみ~」


「違う! お宝ハンターじゃなく、トレジャーハンター」


「わお! 失礼! でもやる事は一緒だよね」


 明るい声が返って来る。

 次官も女性で……

 アレクサンドラ同様、細かい事にあまりこだわらない性格らしい。


 苦笑したアレクサンドラは、シモンへ告げる。


「まあ、良いか……シモン君」


「は、はい」


「君はまだウチと契約を交わしていないから、正式な紹介は次官と、次官に同行する次官補だけにしとくよ。……他の人は成り行きかな」


「はあ、ですよね」


「さあ、入って、次官を紹介するわ」


 にっこり笑ったアレクサンドラはゆっくりと、次官室の扉を開けたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレクサンドラと共に、次官室へ入ったシモン。

 正面に次官が立っていた。


 シモンが見やれば、アレクサンドラより少し年下くらいのすらりとした女性である。

 放つ魔力から相当な術者だとすぐ分かる。


 容貌は金髪碧眼のアレクサンドラと好対照の綺麗な栗毛。

 優しそうな少したれめ気味の目と鳶色の瞳を持っていた。

 やはり貴族らしい。


「リュシー、今回の案件、レナと行くじゃない。この子も一緒に連れて行って、見学させて欲しいんだ」


「OK、了解です、長官!」


 次官はアレクサンドラへ敬礼した後、シモンへ向き直る。


「王国復興開拓省次官、リュシエンヌ・ボードレールです! リュシーと呼んで構わないわ。宜しくねぇ、シモン君」


 成る程、リュシエンヌだから、愛称がリュシーか。

 明るくて気さくだ。

 この人なら、女子が苦手の自分でも何とか話せそうだ。


「シ、シモン・アーシュです。は、初めまして」


 シモンが挨拶すると、リュシーは感嘆したように頷いた。


「へぇ、シモン君……君は相当な術者ね。魔力量がもの凄いもの」


「あはは、さっすが。リュシーにも分かる?」


「もう! 分かりますよ、長官。それに彼が持っている魔法やスキルも相当な高レベルですよね?」


「うん! 凄いわよ。それなのにとっても奥ゆかしいの。世間には自分の力を過信して根拠のない自信を振りかざすやからが多いじゃない? 謙虚なシモン君はウチには適任よ」


「うんうん、長官の人を見る目は確かですもの」


「あはは、リュシーを除いてね」


「ひっど! ……それで理事長、シモン君と正式な契約は?」


「まだよ。いろいろ見てから決めたいって」


「そっか! シモン君」


 リュシーはシモンへ向き直った。


「は、はい」 


「ウチは働きやすい職場だよ。私も転職して正解だったと思ってる」


「そ、そうっすか」


「ええ、教師も確かに素敵な仕事。だけど話を聞いて、私は新たな大きい仕事をしたいと思ったの。それに、先輩を助けたいと思ったのよ」


「成る程」


「長官から条件面はいろいろ聞いたと思うけど、シモン君を迎える為に、私もいろいろ考慮しようと思ってる。正式契約したら、気軽に相談してねぇ」


 ほがらかに笑うリュシー。

 そして、アレクサンドラも柔らかく微笑む。


「うふふ、シモン君」


「は、はい」


「リュシーもね、ティーグル魔法大学の卒業生なの。つまり君の先輩。面倒見が良い子よ。私が4年の時、新入生として入学して来たわ」


「うふふ、以来、腐れ縁って事になりましたね~。当時サーシャ先輩はすっごく怖かったけど、だいぶ丸くなりましたよね~」


「それは、お互い様。貴女だって、昔は相当とんがってたでしょ?」


 サーシャ リュシーと愛称で呼び合う長き付き合いの先輩と後輩。

 ざっくばらんに話すふたりを見ていると、シモンは心が温まる。

 微笑ましく、羨ましくもなる。

 苦学生の自分は大学とバイト先の往復だった。

 このような交流は学生時代、皆無であったから。


 シモンは修行の末、習得したスキルで分かるのだ。

 ふたりが交わしているのは普段通り。

 演技などしていない。

 そんな魔力の波動が伝わって来る。


 こんな素敵な上司達と一緒に仕事をしてみたい。


 シモンの心は、大きく王国復興開拓省の就職へと傾いたのである。

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