第11話「名も無き仮面の賢者②」
小村のゴブリンを完全に撃滅し……
村民達を死の淵から救ってから、その後も……
シモンは、冷酷な主人にこき使われる馬車馬のように働かされた。
国内を始めとして、世界各地の僻地へガンガン出張を命じられたのだ。
しかし、いくら稼いでも稼いでも……
『怪しい必要経費』が、がっぽり引かれまくり、手元に残るのはいつも信じられないくらいの少額でしかなかった。
抗議はした。
だが、王国の法律を巧みにすり抜けるダークサイドさに長けたコルボー商会。
シモンは全く歯が立たず、逆に減給される始末であった。
そして相変わらず、ブグロー部長始め、商会側から
仕事へのモチベーションが全く保てないシモンは……
小村のゴブリン討伐と同じく、『人助けのボランティア』を続ける事で、
何とか心の
『貴方が居てくれて、良かった! ありがとうございます!』
『救ってくれて、感謝致します! 賢者様』
『お願いですっ! せめてっ、お名前をお聞かせくださいっ!』
『ああ、嬉しい! 明日から、前を向き、生きて行く事が出来ますよ』
これらの、難儀していた人々の感謝の言葉と笑顔を唯一、己の人生の励みとしていたのである。
またシモンは、新たな魔法やスキルを習得しても、商会には一切報告しなかった。
知識をどん欲に吸収し、トライアル&エラーのポリシーでひたすらレベルアップもはかっていた。
やがて……
シモンが出張で行く先々で、
最強の『名も無き仮面の賢者』が現れ、難儀する人々を助けているという噂が立った。
そんな噂が王都グラン・シャリオにも流れ出したある日の事……
シモンが出張を終え、商会へ戻ると……
上司のブグローが
「おい! シモン」
「……はあ、何すか、部長」
「お前の出張先でよぉ、妙な噂がいっぱい立ってるぜ」
妙な噂とは……多分、『人助け』の事だろう。
シモンは当然とぼける。
「はあ、らしいっすね」
「お前は知ってるのか? 謎めいた最強の賢者が、何と
「いや、そういう噂があるのは聞きましたが、詳しく知りません」
「はっ、そうかい。関心全くナッシングって、感じだな」
「はあ、部長。俺……タダ働きは興味ないんで。働いたらちゃんと金は貰うべきだと……その点は部長を見習ってますから」
「がはははは! だろうな! 上司で師匠たる俺を見習えよ! タダ働きなど厳禁だぁ! ボランティアなんて、冗談ぽいだっ!」
「ええ、部長の指示通り、出張先ではひたすら仕事してます。売り上げも月に金貨1万枚は行ってますものね」
シモンがそう言うと、ブグローは胸を張った。
そして、一生懸命に働く部下をほめるのかと思えば……全く違った。
「おお、さすが我が弟子だ! やはり俺の目に狂いはなかった。会頭にもほめられた。ブグロー、良くやった! この調子でシモンをガンガン働かせろとな」
「はあ……やっぱそういう『落ち』っすか。部長はいつも全て、確実に自分の手柄にしますね」
シモンが呆れたように言えば、ついブグローの本性が出た。
「当たり前だ、シモン! お前達部下の手柄は全て俺の手柄だぜ!」
「何すか、それ?」
「がははははは! シモンよ、聞け! 部下など、単なる駒だ! 俺が出世する為だけの使い捨ての道具なんだ。俺に嫌われたら、ウチの商会では生きて行けないと思えよ!」
このように超自己中で、悪逆な上司は必ず、またはどこにでも居るものだ。
ここまで口に出してはっきり言う奴は、最低最悪の外道ではあるが……
しかし自分は全然働かず、ノルマノルマと言うばかり。
部下にだけ厳しく、自分には超甘い。
上にはごますり、口先だけの奴はたくさん居る。
具体案も示さずに批評ばかりで、すぐ精神論へ走るとか……
自分が過去に活躍した『誇大な自慢話』が、やたら多いのもこのような上司の特徴である。
だが、因果応報、天罰てきめん。
外道な畜生はいつか、……報いを受ける日が来る。
必ず来るのだ。
「はああ、部長ったら、相変わらずっすね。はい、はい」
「ごら! はいは一回だ!」
「はい」
いつもの通り、ダークサイドな会話はあった。
しかし、売上しか興味のないブグローはそれ以上、『名も無き仮面の賢者』に関して追及して来なかった。
これ幸いと思ったシモン。
見えないところで、ぺろりと舌を出した。
商会には内緒で……
シモンはフルフェイスの仮面を被り、『名も無き仮面の賢者』として……
魔物の害に苦しむ人々を、無償で次々と救って行った。
人々はシモンが
このボランティアともいえる行為が、後々運命を大きく変える事になるとは……
シモンは、この時点で知る
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