百十三話 希少素材を求めて・六

 「じゃあ始めるぞ?」

 

 少し離れた場所から、警戒するウォーターリザードを視界に収めて大柄な冒険者デッドは仲間二人に確認する。

 

 「大丈夫だよ」

 「こちらも、問題ない」

 

 様々な道具を全身に身に着けて普段よりもごてごてとした状態のクルミと、対して全く普段通り軽装と双剣という出で立ちのラカンが、どちらも迷いなく返答した。

 

 戦闘中の周囲警戒も兼ねるクルミによる様々な道具の攻撃と、ラカンの卓越した剣術による斬撃。

 

 それらを継続的に加えることでウォーターリザードを討伐するというのが目算だった。

 

 そして強力な冒険者である二人の攻撃力でも二日は擁すると考えられるその時間の間、ウォーターリザードの気をひき、攻撃を一身に受け続けるのがデッドの役目だ。

 

 「よし俺に続け」

 

 前進を開始したデッドに悲壮感はない。

 

 この役目をこなせる自信がその背中からは立ち上っているようにすら見えた。

 

 通常であれば交代を前提とした人数であたるこの盾役をデッドは一人でこなす。

 

 それをできると確信させるものが、超人とまで称されるこの大柄な冒険者が誇る肉体的頑強さだった。

 

 「始めるぞっ!」

 ガンッ!

 

 味方と、そしてウォーターリザードへ向けて宣告しながらデッドが振り回した大斧がうろこを叩いて鈍い音を響かせる。

 

 「キシャァァァァ!」

 

 近づかれても警戒を強めるばかりだったウォーターリザードも、これには堪り兼ねたと怒声を轟かせて牙を剥き出しにした。

 

 「ァァァァ!!」

 

 そしてその甲高い鳴き声の音程がさらに高まるにつれて、開いた口中に水球が形成されていく。

 

 魔獣ならではの豊富な魔力による強大な水撃ウォーターブレスの準備動作だった。

 

 「むんぅ!」

 「ギャァァァ」

 

 だがそれはデッドが防御態勢に入るまでもなく、横手から飛び掛かったラカンの双斬撃によって中断される。

 

 悲鳴の後で、頭部に浅く傷を付けられたウォーターリザードは、爬虫類特有のうつろな瞳に怒りを灯しながら視線を襲撃者に向けようと首を巡らせた。

 

 パキンッ

 

 しかしそこで、背中で何かが割れる音がしたことに、ウォーターリザードは魔獣なりに不思議そうな仕草でびくりと動きを止める。

 

 それは、気合の声もなにもなくクルミが投げ放っていたビンが割れ、その中身をウォーターリザードの背部にぶちまけた音だった。

 

 そしてそのクルミは既に次の行動、矢じりに火がついた布を巻きつけた矢を放つ準備を終えている。

 

 「ギャァァァァ」

 

 狙いを誤らずにクルミが放った火矢はウォーターリザードの背中を炎上させ、派手な悲鳴を上げさせた。

 

 「グルゥゥ」

 

 だが、魔獣がすぐに体を回転させて背中を湿地の泥にこすりつけたことで、火も消え、見たところうろこには焼け跡も大して残ってはいない。

 

 「初手は順調だな」

 

 鼓舞するように不敵な言葉をデッドは口にしたが、大きな体に見合った丈夫さを持つウォーターリザードとの戦いは、まだこれからが大変だと三人ともよく分かっていた。

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