百八話 希少素材を求めて・一
キキョウを出て東へ向かうヴァルアスは、定期馬車の中にあった。
そしてその旅の供には、当然のようにサラサとゼツもついてきている。
「一応言っておくが……」
魔獣の討伐へは自分一人でいくものと思っていたヴァルアスは、苦い顔で同行者に話しかける。
「め、迷惑は掛けへんようにします、から」
「そうか」
手回しの良いことに、サラサが事前に調べていたらしい情報によると、直近ではアカツキ諸国連合の中央部にある沼地でウォーターリザードの目撃例があったらしい。
そのため、まずはそこに近い町まで定期馬車で向かい、そこで改めて準備を整えてから徒歩で現場まで向かうことを予定していた。
実際のところ、その近くの町までなら同行したところで危険など無いだろう、とヴァルアスは若い二人の顔を見回した。
ちなみに、定期馬車は乗客がそれぞれ人数分の代金を払う乗り合い馬車だ。
だが今はこの中にヴァルアスと、あとは向かいに座る二人しかおらず空間にはとても余裕があった。
ヴァルアスとしては事前に確認をしておいた時間通りに定期馬車へと乗り込んだだけであり、その際にしれっとこの二人がついてきたという状況だったが、国内最大都市から出る定期馬車がすいていることを偶然と考えるよりは、全て手回し済みだったと思う方が合理的だろう。
「町で大人しくしていろよ」
「残念……冒険者が戦うところ、見てたかった……」
「ぜ、ゼツ君!? 危ないよ」
冒険者向けに道具を拵えることも多い魔導具職人としては当然の好奇心ともいえるが、サラサと比較してもゼツの方は危なっかしい様子に見えた。
だが、ヴァルアスは短い付き合いの中でも、一見おどおどとしたこのサラサという少女の理知を買っている。
故に、無茶をしないだろうし、させないだろうと、それ以上に言葉を重ねることもなかった。
「でも調べたあたしが言うのも変やけど、そんなすごい魔獣が都合よくいるんやねぇ」
代わりにという訳ではないであろうが、サラサが素直な感想を口にする。
恐らく隣のゼツに向けたと思われる崩れた口調での言葉だったが、これには冒険者であるヴァルアスの方が反応した。
「ウォーターリザードは非常に強く、近づく者には容赦なく襲い掛かる凶悪な魔獣だが、慎重な気質でもあるからだな」
瞬間的にはきょとんとしたサラサとゼツだったが、少し間を置いてサラサの方が目を見開いてその中に理解の色が灯る。
「……あ、割りに合わんのやね」
「そうだな」
なんとも商人らしい費用対効果という理解の仕方に、ヴァルアスは肯定しつつも小さく苦笑した。
実際に討伐すれば価値ある素材が手に入るとはいえそれが大変であり、かつ手を出さなければ人里に被害がでることも少ないことから、正に「割りに合わない」というのが理由だ。
とはいえ、ガーマミリア帝国であれば憂慮した領主が騎士団を動かして討伐するであろうし、シャリア王国であれば誰かが資金を集めて冒険者を雇うだろう。
これは商人が軍事力すら掌握するアカツキ諸国連合ならではの状況ともいえた。
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