五十九話 至高の木剣・七
口を開いて驚くヴァルアスに向かって、小さな姿で現れたリーフは指差していた腕を下ろして言葉を続ける。
「時間がないのでは?」
「ああ、それはそうだが……」
一度は完全に砕けた姿を確認したはずの魔剣が健在している。そうであればペップルの言動については合点がいったものの、そのペップルが修理できたとも思えない以上は、「なぜ無事でいる?」という疑問は消えない。
だがヴァルアスの経験を思い返してみれば、激しい戦闘で確かに死んだと思われた知り合いと後に再会することは珍しくはあってもあり得ない事でもなかった。
「お前を……リーフを使うのが最善だというのは?」
疑問を飲み込んだヴァルアスは、今直面している問題への解決策を求めて話題を戻す。
最初に声をかけてきた時、確かにそう言っていたはずだった。
「私は植物を操る魔剣。こういった場所は私の庭……いえ、胃袋の中といった方が正確でしょうか?」
小さな腕で周囲の木々を指し示しながら、リーフは何やら不穏なことを告げてくる。
「では……」
そしてヴァルアスが疑問を口にするより前に、リーフは出現した時の逆に地面へと消えた。
「ど――うわっ!?」
「どこに?」にと言おうとしたヴァルアスは、しかし今度は自分の右肩に出現した小さなリーフに驚く。
「大きな声で驚かないでください。その本体が魔力で満ちている限りは、疑似精霊の端末体はいくらでも出し入れ可能です。……もちろん、離れてしまうとこちらは維持できずに消えてしまいますが」
ヴァルアスの肩の上で、自分の胸に手を乗せて“こちら”といいながらリーフは説明した。
言葉の意味はほぼ理解できなかったが、ヴァルアスとしてはとにかく今手にしているこのロングソードこそが“リーフ”なのだということだけ改めて認識する。
「……いました」
そしてその間に目を閉じていたリーフが、少しの間を空けて再び目を開いたかと思うと、端的に告げてきた。
「何を?」とはヴァルアスは聞き返さない。「本当か?」とも今さら確認するつもりもなかった。
「どこだ?」
それらの代わりに、方向を尋ねる。
リーフは理術使いエンケ・ファロスの手による魔剣であり、ヴァルアスは旅の中で一度戦っただけのエンケのことを信頼していた。
もちろん信頼といっても人間性などではない。
ヴァルアスからすれば得体のしれない塔やゴーレム、仕掛けを作り上げ、ただ理術の技のみを持って戦闘においてもヴァルアスと伍したその実力をだ。
「……」
「よし」
肩の上で無言のまま、すっと右前方を指したリーフを確認して、ヴァルアスは走り出し、障害物の多い林の中であることも感じさせないほどの速さまで一気に加速していった。
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