ユージーナの真意 1
ウィルソン国王にも、エドワールがオリヴィアとテイラーが閉じ込められたことを報告したけれど、この件に関する王の回答は、エドワールとユージーナが主体となって片付けるようにというものだったらしい。
過去の事例を見ても、選定の儀式の最中に、敵チームを蹴落とそうとする動きはよく見られるものだという。
それらが行きすぎた行動であれば、それぞれのチームの責任者――すなわち、次期王位を争う当事者たちが協議し、処分を決定していたそうだ。チームの人間の行動の責任も取れずして、どうして国のトップになれようか。そういうことだろう。
そのためウィルソンは、今回の件については口出ししないと言った。サイラスはその対応に少々不満そうだったが、オリヴィアとテイラーは別に怪我をしたわけでもないし、対応には口出ししないとウィルソンは言ったけれど、王妃とともに個人的に詫びに来てくれたので、オリヴィアとしてはそれで充分だ。
昨夜のことは、ユージーナとイーノックは公爵家に帰宅したあとのことだったので、今朝になって報告したが、彼女たちは憤慨し、エドワールとともにモアナの聴取をすると言った。
モアナは朝から呼び出され、城の大サロンにエドワールとエリザベート、ユージーナとイーノック、そしてオリヴィアとサイラスの六人が集まった。
モアナは呼び出されることを想定していたのか、特に驚いた様子も取り乱した様子もなく、不気味なほど落ち着いて見えた。オリヴィアの顔を見ても何も言わない。
そんなモアナに、サイラスが氷のように冷たい表情を向けたけれど、今回の聴取はエドワールとユージーナが主導だ。自ら問い詰めに行くようなことはしないだろう。
「モアナ、君は昨日、オリヴィアを騎士の宿舎に使っていた部屋に閉じ込めたそうだね」
全員がソファに腰かけたところで、長い足を組んだエドワールが静かな声で問いかけた。
その隣ではエリザベートが不安そうな顔でモアナを見つめている。
モアナはエドワールとエリザベートの対面のソファに一人で座っており、ユージーナとイーノックはエドワールから見て左側のソファにいる。オリヴィアとサイラスがユージーナたちの対面だ。
モアナは冷静な目でエドワールをまっすぐに見返し、小さく首を傾げて見せた。
「なんのことでしょう」
「とぼけたって無駄だ。昨日、君が部屋の鍵を取りに来てその後返しに来たこともわかっている。昨日鍵を借りに来たのは、私たち以外で君だけだ」
城の鍵はきちんと管理されている。閉め切られた部屋の鍵を誰がいつ持ち出したのかは、その都度記録がつけられているのだ。
調べたところによると、モアナは鍵を返却したのち、すぐにアーネット伯爵家に帰宅したそうだ。つまり、少なくともオリヴィアたちを一晩は閉じ込める気だったのは間違いない。
もう少し抵抗を見せるかと思っていたが、モアナはあっさりと肩をすくめて自分がしたことだと認めた。
「どうしてオリヴィア様達を閉じ込めたのか、説明しなさい」
ユージーナが厳しい声で問い詰めると、モアナは口元に笑みをたたえたまま、耳を疑うようなことを言った。
「エリザベートの指示ですわ」
「え?」
「は?」
突然出てきたエリザベートの名前に、部屋にいた全員が目を見張った。
エリザベートも愕然として、信じられないものを見るような目でモアナを見つめている。
「モアナ……?」
「何を驚いているの、エリザベート。あなたがわたくしに命じたことじゃない」
「ま、待ってちょうだい……何のことを言っているのか……」
「とぼけないで。それともわたくしに罪をなすりつけて知らんぷりをするの? 親友なのにひどいじゃないの」
「モアナ!?」
エリザベートは真っ青になって、おろおろと周囲を見渡した。
その様子は、本当に寝耳に水といったもので、エリザベートが何かを誤魔化そうとも隠そうともしていないことは明白だった。
動揺しすぎて泣きそうになったエリザベートの肩を抱いて、エドワールがモアナを睨む。
「エリザベートはそのような指示はしない」
「いいえ、わたくしはエリザベートに指示をされました」
「わたくし、していないわ!」
エリザベートが悲鳴のような声を上げた。
モアナの視線がだんだんと鋭いものになり、エリザベートを睨みつける。
エリザベートが小さく震えて、両手で顔を覆った。
妊娠中のエリザベートをこれ以上この場にいさせるわけにはいかない。オリヴィアがエリザベートに退出を勧めようとしたとき、モアナとエリザベートを黙って見つめていたユージーナが、大げさにため息を吐いた。
「いい加減にしなさいな」
凛としたその声に、全員がユージーナの方を向いた。
「エリザベートを陥れたくて仕組んだことでしょうけど……、あなたがエリザベートに悪意を持っていることくらい、わたくしが調べていないとでも?」
「適当なこと言わないでくださいませ! だいたい、ユージーナ様の方こそ、エリザベートに冷たく当たっていたではありませんか! お茶会でエリザベートを非難するところを、何度も見たことがありますわ! 必要ならばお友達に証言を取ることだって――」
「うるさいよ、君」
それまで黙っていたイーノックが、勢い良くまくしたてるモアナの言葉を冷たく遮った。
いつも微笑んでいたイーノックがすっと表情を消した瞬間、オリヴィアの背にゾクリとしたものが這う。
声が静かだったからわかりにくいけれど、イーノックは相当怒っているようだった。
思わず、きゅっとサイラスの袖口をつかむと、サイラスが指を絡めるようにして手をつないでくれる。
「ユージーナがいったい誰のせいで、ずっと損な役回りを演じていたか……、彼女の優しさをよく知りもしない君が、偉そうなことを言うんじゃない」
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