27
「宝石類がなくなっている、ですか?」
目を覚ましたフロレンシア姫の侍女に、姫の部屋の中を見て何か気がついたことはないかと訊ねたところ、三人の侍女のうちの一人――ポニーニという名前の古参の侍女が、持ってきていたアクセサリー類がなくなっていると言った。
気を失ったときのことについては彼女たちも護衛官たちもそろって「わからない」と答えた。甘い香の香り以外は何も覚えていないらしい。
倒れる前のことを聞いてみたところ、フロレンシア姫は風にあたると言ってレギオンと二人でバルコニーにいたそうだ。
「お香ですか? はい、姫様が炊いておいてほしいとおっしゃられましたので、わたくしが火をつけましたが……」
ポニーニはそう言って、しきりに首を傾げていたので、フロレンシア姫に火をつけるように頼まれた香がアールワームだと知らなかったようだ。
(でもちょっとおかしいわよね。フロレンシア姫に頼まれて火をつけたなんて……、姫はお香がアールワームだと気がつかなかったのかしら? でも、部屋の中で侍女たちが倒れたら、普通は驚くし誰かを呼ぼうとするわよね? それに、アクセサリー類がごっそりなくなっているなんて、どういうことかしら?)
物取りの線を考えたが、すぐにオリヴィアは自分の考えを否定する。部屋をあさった様子がないのだ。そして、アクセサリー類という特定のものしかなくなっていない。フロレンシア姫が持っていた、レバノール国の金貨はそのままだ。盗みに入ったなら真っ先に狙いそうなものなのに、そのまま残されているのである。
「アクセサリー類はどのようなものがあったんですか?」
「そうですね……、ルビーやサファイア、ダイアモンド……、真珠や金細工もございました」
「ずいぶんたくさん持ってこられたんですね」
「はい。姫様が、長旅になるから、と。普段はあまり華美に着飾る方ではございませんが、アラン王子殿下がいらっしゃるから、身だしなみはきちんとしないといけないとおっしゃって」
「そう、ですか」
(そういう割に、姫はそれほどアクセサリーをつけていなかったわよね?)
移動中も、この町に来てからも。フロレンシア姫が派手に着飾っていたことはない。
(二人が消えて、アクセサリーもなくなった。香を炊くように頼んだのはフロレンシア姫。……いったいどういうこと?)
二人の目撃情報を集めるとともに、まずはアームワールの入手経路から探った方がいいだろうか。
「そのほかに何か気になることはございませんか? 些細なことでもかまわないんですが」
ポニーニは考え込むように顎に手を当ててうつむいた。
「……これが何かの役に立つとは思えませんが、そう言えば、押し花がなくなっています」
「押し花?」
「はい。姫様がとても大切にしていたから記憶に残っているのですが、押し花で作ったしおりです。本に挟むでもなく、いつも枕元に置いて眺めていて……、そこのサイドテーブルの上にずっと置いてあったんです」
「どんなものか覚えていらっしゃいますか?」
「薔薇です。ラ・ポートという名前の薔薇を押し花にしたしおりです」
「ラ・ポート……」
そう言えば、城で開かれたお茶会の時に、フロレンシア姫はラ・ポートという薔薇が好きだと言っていた。
(……ラ・ポート)
どうしてそのしおりがなくなっているのだろうか。ただの押し花のしおりで、特別な価値はないはずだ。
「……どうもありがとうございます。また何か思い出したら教えてください」
杞憂かもしれないがラ・ポートについても調べてみようと思いながら、オリヴィアはポニーニに礼を言ってフロレンシア姫の部屋から出て行った。
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