22
パーティー以来、アランとティアナは頻繁に会うようになった。
アランが抱えるオリヴィアへの不満に同情するふりをしながら、さりげなくティアナがいかに優秀であるかということを伝えていくうちに、アランはすっかりティアナに関心を示したようだ。
父であるレモーネ伯爵にも協力してもらい、アランにティアナを売り込み続けると、とうとうアランの口からこの一言を引き出すことに成功した。
――君が婚約者だったらよかったのに。
あとはもう、簡単だった。
もともとアランはオリヴィアにいい感情を抱いていない。というか、彼女自身にさほど興味をもっていなかったのだ。ティアナが割り込むのはたやすく、また、彼自身も「愚かなオリヴィア」よりも「賢いティアナ」の方が次期王妃にふさわしいと感じたらしい。
あとはティアナが作り上げたオリヴィアの罪状を父に読ませて、オリヴィアはあっけなく王太子の婚約者から転がり落ちた。
ここまではすべて計画通りだったのに――、そのあとにこんな苦労が待っているなんて聞いていない。
(どうしてわたくしが王妃教育なんて。受ける必要もないくらいに優秀なのに!)
きっとあのいけ好かないワットールとかいう教育官の意地悪に違いない。王妃教育の担当官としてやってきた彼は、意味不明な質問をしてティアナを困らせたあげくに、嫌がらせのために教育係を増やしたのだ。ティアナには不要なのに。
ずんずんと中庭を歩いていたティアナは、ふと前方ににっくきオリヴィアの姿を見つけて立ち止まった。
どうやら彼女はまた遊んでいるらしい。いつもの図書館だろう。お気楽な身分で結構なことだ。
(王太子殿下の仕事はきっと、誰かに押し付けたのね。公爵令嬢だからって、好き勝手なことばかり! 見てなさいよ!)
ティアナが今苦労させられているのは全部、前の婚約者であったオリヴィアが「不出来」だったからだ。ティアナはそのしわ寄せを受けているに違いない。王太子の婚約者でなくなったというのに、まだティアナの邪魔をするのだ。
(だいたい王妃様だって、どうしてオリヴィア様をお茶会に誘うのよ! わたくしだってまだ誘われていないのに!)
王妃は婚約破棄されたオリヴィアのことを不憫に思っているのだ。だから目をかけているのである。……許せない。
(サイラス様だってそうよ! あんな女のどこがいいのよ!)
確かに、見た目は「ちょっと」美人かもしれない。でも頭の中はからっぽなのだ。王太子や王子の妃にふさわしいとは思えない。
ティアナの目の前で、オリヴィアは図書館へと入っていく。少しして彼女の後を追うようにサイラスがやって来て、彼もまた図書館の中へ消えた。
ティアナが図書館の窓に寄って中を伺えば、二人は同じ机で、仲良く本を読んでいる。
ティアナはぎりっと奥歯をかみしめ、そして唐突に笑った。
「いいこと思いついちゃった」
あと二週間もすれば、隣国のエドワール王太子がやってくる。アランによると、エドワール王太子の歓迎パーティーには、オリヴィアも出席するようだ。そのパーティーで、大衆の面前でオリヴィアに恥をかかせれば、サイラスだって彼女に幻滅するに決まっている。オリヴィアは笑いものだ。
(うふふ、わたくしって天才!)
オリヴィアの「せい」でティアナは苦労させられているのである。このくらいの意趣返しは許されるはずだ。それに、オリヴィアがいかに愚か者かということが改めて周知されれば、ティアナの秀才さはより際立って見えるはず。王妃教育が不要であると、みなもわかるだろう。
ティアナは先ほどまでとは打って変わって、鼻歌まじりの軽い足取りで、来た道を戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます