第23話 変わっていく家族の役割 

「うぉぉ……ここが奏良お姉ちゃんのお部屋ですか……!」

「散らかってるけど、楽にしてってよ」

「全然散らかって無いですよ! 綺麗です!」

 次の日、私は加奈を家に誘った。

 どこかへ遊びに行こうかと思っていたが、昨日の今日だから街中で道場の人とばったり会うのが気まずかったのでこうなった訳だが、加奈も喜んでくれているみたいなので、これはこれで良かったのかもしれない。

「今日は楽しみすぎて、御土産にクッキーを作ってきました! どうぞ食べてください! こういうのを作るの、得意なのですよ~」

 満面の笑みで小さな可愛い袋を取り出した加奈は、それを私に渡してくれた。

 開ける前から焼き立てお菓子の良い匂いがしてきて、ついついお腹が鳴りそうになるのを押し堪える。

「うわ、めちゃくちゃ美味しそうじゃん。これは飲み物を準備しないとね」

「教えてくれれば、私が準備しますよ? そういうのも、得意なのです!」

「いや、ここは私に任せてのんびりしていてくれ。クッキーのお礼だ」

「そうです? なら、お言葉に甘えますね!」

 鼻歌交じりに体を揺らす加奈を残して、私は台所で準備を始めた。


 元々家に来ることは分かっていたので、事前にお湯の準備はしていた。手早くコーヒーを用意しながら、ミルクとシュガーポットもお盆に載せてすぐに部屋へと戻る。


 部屋に戻ると、加奈は私の部屋の本棚に釘付けになっていた。

「奏良お姉ちゃん、沢山本を持ってて凄いのです」

「別に凄くないさ。内容も題名も覚えてないくらいだし

「そうです? 何度も読んだようなくたびれ方をしていますが」

「何度も読んではいるけど、文字を適当に並べてるだけさ。私には、そういう芸術の感性や文章から情景を想像するような崇高な能力は無いさ」

 まだ熱いコーヒーを加奈の前に差し出した。真っ黒なコーヒーを見て眉間に皺を寄せていたが、その後すぐに置いたシュガーポットを見てまたパッと笑顔になる。

「そうなのですね~。私も知ってるような本が多いので、かなり有名で良い本が並んでるから読書好きなのかと思いました」

「ちなみにどの本が知ってたんだ?」

「シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』です」

「あ、それ聞いたことあるわ」

「そこの本棚にもあるんですけどね……」

 子供っぽい加奈が、少しだけ私のことを子供のように見つめた気がした。


「それより、剣道関連の本が多いですね……」

「まぁ、長年やってれば興味も出てくるからね」

 加奈がコーヒーに砂糖を入れている間に、私は自分のブラックコーヒーに口を付けた。

「技術面も精神面も、教えられることも大事だが、自分から知識を求めていくことも大切なんだ。だから定期的に本を買って読んでんだよね」

「その意欲を少しぐらい文芸作品に向けても罰は当たらないと思うです……」

「それはほら、好きなものと嫌いなものとの違いだよ」

 加奈がブラックコーヒーを飲めないのと一緒だよ、と伝えると、悔しそうに甘ったるくなったコーヒーをちびちび飲んでいた。

「にしても、意外と博識なのな」

「まぁ、奏良先輩と比べたら博識かもしれないです」

「結構勉強できる子なの? 加奈って」

 笑顔だった加奈の眉が、一瞬だけ反応した。

「えっと、これでも毎日勉強してますからね! 国語に数学、理科社会! 英語は……もう少し時間が必要ですが……」

「……加奈ってさ、どこで勉強してるの? 普段」

「えっと……」

 加奈の表情がいよいよ曇ってしまった。

「ちょっと気になってたんだよね。平日の昼にも料理の写真を送ってくれたりしてたしさ。もし困ってることがあるなら、力になるけど」

「……奏良お姉ちゃん、怒ったりしない?」

 心配そうな声が、そのことをどれほど不安に思っているのか私にも伝わって来る。

 

 平日に家にいる中学生のことだ。多少の苦労は想像できる。もしかしたら世間体では褒められたことではないかもしれない。

 でも、それを私が咎めることでは無い。寧ろ、夜中に公園に出掛けるほど悩む加奈を、どうにか助けてあげたい。そう思う。

 しかも、加奈は自分の状況を怒られるかもしれないと思っている。こんな心に悩みを抱えた女の子を咎めた奴がいるってことだ。

「加奈も色々と辛かったんだろうな。私じゃ想像しきれないけど。でも安心しろ。私は加奈の味方だよ。あの日の夜だって味方だったろ?」

「でも、あの日の加奈は悪い子じゃなかったのです……」

「今だって悪い子じゃないさ」

 そう言って一口、加奈が作ったクッキーを頬張った。

 優しい甘みとサクサクとした歯ごたえが絶妙な、立派なクッキーだ。

「少なくとも、こんなに素敵なお菓子を作れる女の子で、悪い子だった人を見たことないぞ、私は。ちなみに私は作れないから、加奈よりちょっと悪い子かな?」

 ニッと笑ってみせると、加奈もやっと少し笑ってくれた。

「奏良お姉ちゃんは本当に優しいのです……」

「今更気付いたのか? 基本的に私は優しいんだ」

 そっと頭を撫でてあげた。大きな子猫を撫でているような感覚だ。最初は撫でられることにほんのり緊張を感じていたが、徐々に自分から私の手に頭を向けてくるようになっていく。

「奏良お姉ちゃんには、全部言うです……ううん、言いたいです」

「あぁ、聞かせてごらん?」

 撫でながらそっと加奈に問いかけた。

 加奈は少しだけ間をあけて、ゆっくりと口を開いていく。


「……お察しの通り、私は学校に行ってないのです」

「うん」

「元々学校では浮きがちだったのです。あんまり友達も多くなくて、クラスでもずっと読書していたですよ」

「うんうん」

「でも、私はそれが嫌では無かったです。誰にも迷惑かけないですし、私も害は無かったので」

 加奈の目線がどんどん落ちていく。私の真っ黒なコーヒーの中へ沈んでいきそうだ。

「ただ……半年前に……」

 加奈の言葉が詰まる。俯いて見えないその瞳は、濡れてないだろうか。

 確かめる術がない私は、コーヒーを置いて加奈を優しく抱き寄せた。

「……ありがとう、奏良お姉ちゃん」

「気にするな。こう見えて私は小動物が大好きだからな」

「加奈は小動物じゃないですよ」

「うんうん、そうだね~」

 恥ずかしそうな加奈を無視して思いっきり抱きしめた。抵抗はされない。

「嫌だったら抵抗しても良いからね~」

「……嫌じゃないから、抵抗はしないです」

 胸の中で、加奈が体重を預けてくれた。

「こんなに安心したのは、久しぶりなのです」

 深く息を吸った加奈が、私を抱きしめ返してくれた。


「半年前……お父さんとお母さんが、死んじゃったのです」

「…………」

 ある程度の話は想像していた。だが、そこまでの話は予想外だ。

 どうにか慰めなければと思ったが、加奈は一切泣いていない。

「とても悲しかったのを今でも覚えています……でも、すぐに克服できました。私にはお姉ちゃんがいたので」

「そっか、加奈は強いね」

「強いのはお姉ちゃんです。ずっと私と一緒で子供だったのに、すぐに大人になって私を守ってくれるようになりました……。親戚の方のせいで離ればなれになりそうだった時も、お姉ちゃんが助けてくれました。家事は2人で分担をしたり、悲しい時は二人で慰め合ったりして、頑張ってきました」

 加奈のお姉ちゃんは、随分と立派な人間だ。公園で聞いた時は、ちょっと真面目な人なのかなと思っていたけど、そんなレベルでは無かったようだ。自分の浅い理解が恥ずかしい。

「でも、お姉ちゃんが凄すぎて、私は置いて行かれている気分なのです」

「置いて行かれている?」

「うん……お姉ちゃん、奏良お姉ちゃんと同じで今年高校受験なんですけど、あの関ヶ原高校に行こうと勉強を始めたのです。今は毎日家事以外は勉強しかしない生活で、きっとお姉ちゃんの体も限界が近づいているのです……」

「おいおい、関ヶ原高校って、あの? 治安は悪いけど、偏差値重視の実力高校か

!? あそこの競争率どんなもんか知ってんのか?」

「あそこは、成績が良ければ奨学金も確定します。お姉ちゃんはそれが狙いなのです。少しでも生活を楽にするために、自分を犠牲にしているのです」

「お姉さん、よほど勉強が得意なのか」

「逆なのです。お姉ちゃんは、勉強机に1時間座ってると吐き気をもよおすレベルの勉強嫌いでした……今では、たまに熱が出るくらいまで体が慣れてきたみたいですけど、最初の頃は見ていられませんでした」

「それは……凄いな……私じゃ絶対に出来ないわ……」

 妹のためを思う姉の力とは、ここまで出来るのだろうか。

 いや、加奈のお姉さんが異常なのだ。

「そんなお姉ちゃんに迷惑をかけないように、私も学校や家事を頑張っていたのです。でも……私は頑張り切れませんでした」

 私の胸から離れた加奈は、喋って渇いた口を甘いコーヒーで濡らした。

「負けてしまったのです、私は」


 ☆


 私は、頑張りました。

 少しでもお姉ちゃんに近づこうと。

 離れてしまったお姉ちゃんに、また近づこうと。


 やったことのない家事も頑張りました。ご飯も炊けなかった私が、今では本を見なくても色んな料理が作れるくらいに成長しました。お姉ちゃんは、私のオムライスが一番の好物です。

 朝寝坊もしなくなりました。毎日のようにお母さんに起こされていた私ですが、もう目覚まし時計よりも先に起きれるようになったのです。むしろたまにお姉ちゃんを起こしてあげるくらいです。


 それでも、私にはどうしようも出来ないことが起きました。

 学校に居場所が無くなったのです。

 決してイジメのような酷いことがあったわけではありません。

 友達は優しい人ばかりで、事故の後は毎日気遣ってくれました。

 先生も私のことを気にして、困ってることは無いかいつも聞いてくれました。


 でも、それが私には辛過ぎたのです。

 今まで私は物静かな性格で、みんなと程よく距離もあり、それが嫌いではありませんでした。

 だから、みんなが優しくしてくれると、それだけ事故のことが現実なんだと思い知らされてしまうのです。

 現実逃避はよくありません。でも少しくらい現実を無視できる時間が欲しかった。

 学校ではみんなが事故を思って慰め、家では変わってしまったお姉ちゃんが一人で頑張って、私はどこでも休まることが出来なくなってしまいました。


 その結果、私は学校で倒れてしまい、目が覚めたら保健室で一人寝ていました。

 何をしていたのか忘れてしまいました。たしか、休み時間に友達から勉強を教えてもらっている時だったと思いますが、今となっては定かではありません。

「加奈! 加奈!」

 廊下から物凄い足音がして、お姉ちゃんが保健室に来ました。

「先生! 加奈は!?」

「そこのベッドに__」

 お姉ちゃんは先生の言葉を最後まで聞かず、私のベッドへとやってきました。

「加奈! 大丈夫!?」

 大丈夫だよと答えたかったけど、あんまりお姉ちゃんが力いっぱい抱きしめるので、何も答えられませんでした。

「怪我は無い? 痛い所はない? 気分は大丈夫?」

「結衣さん、あんまり質問しても可哀想ですよ。さっきまで寝ていたのですから」

「はい……」

 お姉ちゃんは私から離れ、そっと頭を撫でてくれました。

「結衣さん、少しお話があるのでこちらに……」

 保健室の先生がお姉ちゃんを呼びます。

 少し名残惜しそうに私の額の汗を指で拭うと、崩れたタオルケットをかけ直して、先生の所へと言ってしまいました。


「先生、話とは?」

「……そうね、場所を変えましょうか」

 保健室から、二人がいなくなってしまいました。

 

 誰の気配もありません。壁にかかった時計の秒針が、やけに大きく聞こえます。

「暑い……」

 お姉ちゃんから掛けてもらったタオルケットを取って、また薄っすら浮かぶ額の汗を拭います。

「お姉ちゃん、先生と何の話をしているのでしょうか……」

 部屋に響く秒針の音が、私の心を嫌にくすぐってきます。

 小さな不安の火に、一つ一つ、小さな枯れ木をくべられるような感覚が私を蝕んでいきました。

「……」

 まだ寝ていないといけないのですが、そっと私はベッドから抜け出しました。

 元々誰もいない保健室。いともたやすく抜け出せます。

 保健室を出ると、クラスの女の子が二人、ちょうど来てくれた所でした。

「加奈ちゃん、身体は大丈夫?」

「うん。大丈夫ですよ。心配させちゃってごめんね?」

 元気なら良かったよ、そう言ってくれれば私も気が楽でした。

「ごめんね、加奈ちゃん大変なのに気付いてあげられなくて……これからは気を付けるね?」

 それでもやっぱり、心から心配した声で私の手を握ってくれるのです。

 もう、疲れました。

「うん、ありがとう。それより、お姉ちゃんと保健室の先生がどこに行ったか見ませんでしたか?」

「二人ならさっきすれ違ったよ。先生が、屋上の鍵を持ってた気がするけど……」

「ありがとうなのです!」

「ちょ、走ったら危ないよ!?」

 制止する友達の横をすり抜け、何段もある階段を一気に駆け上がりました。

 さっきまで寝ていたこともあり、息が上がって心臓がけたたましく鳴り響きます。

 すれ違う人たちが驚く視線を振り払い、私は屋上の扉に辿り着いたのです。


 少しだけ開いた扉に手をかけると、気持ちのいい風が私の髪を撫でてくれました。

 そして、その先にいる2人の声も届けてくれたのです。

「先生、話ってなんでしょうか」

 そう問うお姉ちゃんは、どこか予想がついているような様子でした。

「簡単な話よ。あなたにとっては聞き飽きた話かもしれないけど」

 先生が答えます。

「あなた達、今は二人暮らしなのよね?」

「えぇ、これからも二人暮らしです」

「それを続けた結果、加奈さんは倒れたんじゃないの?」

「それは……どういう事です?」


 いきなり私の名前が出てきて驚きました。

 二人の元へ行こうとする私の足が止まってしまいました。

「結局、子供の二人暮らしには限界があるの」

「私はもう子供ではありません」

「いいえ、子供よ。まだ15歳の少女。いくら大人ぶっても、法律には抗えないわ。そうやって抗おうとしていること自体が、子供の振る舞いみたいなものよ」

 先生が淡々と答えるのを、お姉ちゃんは黙って聞いていました。

「今回の加奈さんの症状は、ストレスから来るものだと思うわ。慢性的な精神的苦痛が、いよいよ身体に出てきた証拠ね。家では加奈さんとちゃんとやれてる?」

「先生は、私が加奈と不仲だと言いたいのですか?」

「そうでは無いわ。でも、仲良く出来ていますか?」

「当たり前です」

「本当に?」

 念を押す先生の言い方に、私も緊張してきました。

「思いやることは大事ですが、それを行動に起こすことも同様に大切なの。あなたは、加奈さんにしっかりと愛情を表現できていますか? 家族としての愛情を」

「している……つもりです……」

 お姉ちゃんの言葉が詰まります。


 お姉ちゃんは、いつも優しい。

 だからこそ、本人も気付いているのです。

 自分の行いの矛盾に。

 お姉ちゃんは、全て私のために頑張ってくれています。勉強も家事も、何もかも。

 それがどれほど助かり、大変なことなのか私は理解しきれていないのでしょう。


 それでも、そんなことより一言、私にも弱音を吐いてほしい。そう思うのです。


「でも、私が頑張らないといけないんです。あの子にはもう、私しかいないから」

「そうね。あなたにも、あの子しかもういない。だから、躍起になるのでしょう」

 先生が優しく言います。

「でも、あなたは姉なの。母ではない。加奈さんが何を望んでいるか分からない?」

「それでも私は……頑張らないといけないのです……たとえ嫌われても良い。その先に、あの子の幸せがあるのなら、それで良い。そう思うのです」

「それは不幸しか呼ばないわ」

「不幸はもう慣れました」

「あの子はあなたより不幸よ」


 その時、屋上に強い風が吹きました。

 校庭の落ち葉を巻き上げた風が二人の髪を荒っぽく吹き上げます。

 そして、屋上の扉を勢いよく開いてしまいました。

「加奈……どうしてここにいるの?」

 お姉ちゃんが、私に気付きました。

 早歩きで近寄るお姉ちゃんは、私を優しく抱きしめてくれました。

「さっき寝込んでいたばかりでしょう? 休んでなきゃダメでしょ」

 休んでほしいのは、お姉ちゃんの方だよ?


 いつも遅くまで勉強してるじゃん。

 好きなアニメも見ず、休憩時間を一切作らず、自分を酷使し続けて。

 自分の時間なんて全て放棄して、24時間自分をイジメ続けて。

 私が倒れれば心配してくれて、授業を放棄した分また自分をイジメて勉強するんだよね。もうお姉ちゃんは、昔のように私のお姉ちゃんに戻ってはくれないんだよね。

「ごめんね、お姉ちゃん……私が妹で……」

 涙が止まらなかった。

 お姉ちゃんの足枷にしかなっていない自分が情けなかった。

 助けてもらうことしか出来ない自分が嫌いだった。

 そんなプレッシャーに押しつぶされて、倒れてしまった自分が憎かった。

「私も、お姉ちゃんを助けたいんだよ……何も出来ないけど、何かしたいんだよ」

「ちょ……どうしたの急に。怖い夢でも見ちゃった?」

 慌てたお姉ちゃんが、ドギマギしながら私の涙を拭います。

 怖い夢。確かに夢をみているのかもしれません。

 お姉ちゃんが倒れて、いなくなってしまう夢。

 私だけになる、そんな夢。

「怖い夢が、すぐそこまで来ているんだよ、お姉ちゃん」

 私は涙が止まらないままお姉ちゃんから離れ、先生の元へ向かった。

「先生」

「……なんだい、加奈さん」

「私、学校を休みたいです」

「加奈!?」

 お姉ちゃんが驚いた表情で私を見ました。

「どうして? もしかして、お姉ちゃんが何かしちゃった? それとも、クラスで何か嫌なことをされた?」

「ううん、クラスの友達はみんな優しいし、お姉ちゃんもいつも頑張ってくれて、感謝しているのです」

 お姉ちゃんの目の色が、不安で黒んずんでいくのが分かりました。そんな目を見ているのがとても悲しくて、すぐにでも前言撤回して安心させてあげたい。

 でも、ここで引いたら二度と変われない気がするのです。


「お姉ちゃん、私の目、どう見える?」

「どうって……」

 お姉ちゃんは少しして答えました。

「少し、黒ずんでるように見える、かも……」

「良かった。私達、やっぱり姉妹なのです」

 お姉ちゃんはお姉ちゃんのままでいてほしいのです。

 その願いは、私がどうにかしないと叶わない願い。

「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんみたいに頑張れません。でも、私なりにお姉ちゃんを支えていきたいのです。支えられるだけなのは……しんどいのです」

 私の言葉を、お姉ちゃんは黙って聞いてくれました。私の言葉に、賛同しきれない感情を必死に押し殺してくれました。

「ごめんね、こんな妹で」

 最後の一言を伝えると、私は先生に向き合いました。

「先生、長期欠席は可能でしょうか」

「……まぁ現状の内申や出席日数にもよるだろうが、加奈さんの優良生ぶりは小耳に挟む。色々と条件は付くだろうが、無理難題ではないでしょうね」

「分かりました。では、今日の放課後に担任の先生に申請してきます」


「加奈……私、どこか間違ってたのかな?」

「ううん。何も間違っていないよ。私が弱かっただけ」

 休み時間の終わりを告げる鐘が鳴った。


 その週末に、私の申請は受理されました。

 こうして、私は学校に行かなくなりました。

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