第3話「嘘はダメだよ?」
クランの設立から一週間が経過した。
メンバー募集掲示板にチラシを貼り付け、今日で一旦締め切るつもりだ。
ギルドの人によると、あまり長く募集しても集まる数に大差はないらしい。
一週間過ぎると大体の人が目を通しているため、最大でも二週間で頭打ちとなるみたい。
二週間待っても良かったが、そろそろ『しなしな草』を集める生活にも限界が来た。
もう首都周辺の『しなしな草』は取り尽くしてしまったので、出来る事がなくなってしまったのだ。
「どれどれ何人集まったかな……」
冒険者ギルドに入り受付へと向かった。
「クラン名【ホワイトカンパニー】のリーダー、エレンです。メンバー募集に集まった人数を知りたいのですが」
「了解しました。少々お待ち下さいね」
受付嬢は、席を外して1分ほどで戻ってきた。
あまりにも早いので少し不安になる……。
「お待たせしました。ホワイトカンパニー様の募集に集まった人数は、1名ですね。その方には、ご連絡通り明日の面接を伝えておきました。募集の方は引き続き行いますか?」
「いえ、とりあえず今日で一旦締め切って下さい……」
まさか1人とは思いもしなかった……。
俺のクラン人気無さすぎ。
まあでも、リーダーが【雑用】ジョブだなんてクラン、入りたくないよな……。
募集のチラシには、リーダーのジョブを書くのが絶対条件だ。リーダーの資質を見て加入を検討する冒険者も少なくないからね。
そして次の日。
安い宿屋で固いパンと冷たくて味のないスープで腹を満たした俺は、面接をするため冒険者ギルドに向かった。
「すいません。面接の会場を借りた【ホワイトカンパニー】のリーダーなんですが、部屋はどちらに?」
「あ、エレン様ですね。面接会場の部屋は2階の201号室になります。それと、昨日の締め切りにギリギリ面接を受けたいと言っていた方が2名いたので、そちらも今日の面接をご案内しておきましたが宜しかったですか?」
「ほんとですか!? ええ、勿論大丈夫です!」
「では、面接される方が来たらご案内しておきますね」
いやー、良かった。1人だと思ってガッカリしていたが、追加で2人なら合計3人。
とりあえず、それだけ居れば受けられるクエストが広がるから助かる。
少し安心した俺は、受付嬢に案内された通り2階へ上がり、201号室の部屋へ入った。
「うわ、カビ臭いな……」
部屋の中は広さ6畳ほど。
真ん中にはテーブルと椅子が置かれた質素な部屋だ。
汚くはないが少し埃っぽくてカビ臭い。
「換気ぐらいしておけよな!」
これで会場のレンタル料銀貨一枚取るんだから文句も言いたくなる。
固くなっていた部屋の窓を開けると、気持ちの良い風が吹き込んできた。
コンコンッ。
「ホワイトカンパニーさんの面接に来たっす! 入っても良いっすか?」
どうやら、ホワイトカンパニーに初加入するかもしれない人材が来たようだ。
「どうぞ、お入り下さい」
「あ、こんちわっす! 自分、"マッド"て言うっす! よろしくっす!」
入ってきたのは、緑の髪と目をした俺と同じぐらいの青年だった。
変わってる奴だ。語尾の「っす!」が気になる……。
部活の後輩みたいなキャラだな。
「来てくれてありがとうマッドさん。俺は、先日設立したばかりのクラン――ホワイトカンパニーのリーダー、エレンです。とりあえず面接を始めるので、お座り下さい」
「はいっす! あ、因みに俺は【シーフ】のジョブ持ちっす!」
おっ、【シーフ】か!
【シーフ 】は確か、トラップ解除系のスキルや、物を盗むスキルを持ってたりすんるんだよな。
「では、念のため神殿発行のジョブ証明書を提出してください」
「了解っす!」
この世界で天職を教えて貰うには、ジョブ神殿という所に行き、巫女から神託を受ける必要がある。
大抵の神殿は各国の首都や、大きな町なんかに存在する。勿論、首都デサイアにも存在するので、自分のジョブが今どうなってるか調べに行く事が出来る。
なんで調べに行くかというと、ジョブは進化する事があるからだ。
【戦士】のジョブが【重戦士】になったり、【魔法使い】が【風水士】になったりする。
要は上級ジョブにランクが上がるという事だ。
ただ、全員が上がる訳じゃないらしい。
そこには才能だったり、経験だったりが必要らしく、いくら鍛えても【戦士】のままだったりする事もあるという話だ。
「どれどれ……ん!? マッドさん……あなた【シーフ】じゃないじゃないですか!!」
「え? 俺は【シーフ】っすよ?」
惚けた顔しやがって。
証明書を見てビックリだ。
証明書に書かれたマッドのジョブは、【嘘つき】と書かれていたんだからな。
「これを見ろ! ここに【嘘つき】と書かれているだろ! 一体どういう事なんだ?」
「そ、そうっす……俺のジョブは【嘘つき】っす……だがら前にいたクランで『お前の言う事を信じたら人が死ぬ』と言われてクビになったっす!」
そういう事か……そりゃ、敵が来たら教えろなんて命令して嘘吐かれたら死ぬもんな。
変に納得してしまった俺は、更に詳しく【嘘つき】のジョブについて聞いてみると、クビになった理由を聞く事になった。
「あんまり嘘ばっかり吐いてたら本当に危険な時に信じて貰えなかったっす。そしたら、仲間が背後から襲ってきたモンスターにやられて大怪我をしたっす……」
「それが原因で前のクランをクビに?」
「そうっす。今度は俺、嘘つかないっす! だからこのクランで雇って欲しいっす!」
「なるほどね。じゃあ、もう一度聞くが、君のジョブはなんだい?」
「なに言ってんすか? 勿論【シーフ】っす!」
「さっそく嘘じゃねえかっ! しかもその惚けた顔止めろ!」
「やっぱり、俺じゃダメっすよね……」
「うん、いや、とりあえず明日また同じ時間にギルドに来てくれ。合否はその時伝えるから……」
「了解っす! これからよろしっくっす!」
「いや、まだ合格とは――」
バタンッ。
俺がそう伝えると、マッドは目を輝かせて華麗に出て行った。もう受かったつもりみたいだ……。
しかし困った。俺が言えた義理じゃないが、確かにあれじゃクビにもなるよ。
まあ、合否は後で考えよう。
もう2人の面接が終わってからじっくりと。
トントンッ。
「ホワイトカンパニー様の面接に来た者です。入っても宜しいでしょうか?」
お、どうやら次の加入希望者が来たみたいだな。
「どうぞ~」
「失礼致します。私、リリエッタと申します」
「サーシャでーす!」
「お二人ですか?」
「はい、私達は元々コンビで活動しておりまして」
「一緒に受けちゃダメですか?」
2人同時か……まあ良いだろう。
コンビだと、どっちかしか受からないとなれば辞退するだろうし、合否は2人まとめて決めなくてはいけないだろうからな。
「良いですよ。じゃあ、お掛け下さい」
「ありがとうございます」
「あざます!」
コンビの内、リリエッタと名乗った女性は、長い金髪と蒼い目をしていて、透き通るような白い肌の美しい人だ。
サーシャと名乗った女性は、赤い短めの髪と琥珀色の瞳で、肌も少し日に焼けている元気っ子だな。
うん、どっちも可愛い事には変わりない。
まさか女性の加入希望者だとは思っていなかったから、少しテンションが上がってきたぞ。
よーし! ほとんど合格は決まりだけど、一応面接して色々聞いておかないとな。
この時の俺は馬鹿みたいに元気だった。まさかこの2人が、とんでもないくせ者だったとは知らずに……。
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