008 緊張

会場となるゲームセンター入口付近には、既に100人くらいの人が集まっていた。ギャラリーさんも含まれているとは思うのだが、それでもかなりの人数。申し訳ないけれど、おっちゃんのゲームセンターではパンクしてしまいそうな人だかり。



「や、やばい…人多すぎ。緊張してきた…。」



「ん?そう?昨日の大会とか観客さん1000人くらいだったけど…。」



「…。」



しゅんの返答に、力が抜けてしまう。俊と俺では基準が違うのだ。レベルが1から2に上がるときの感覚と、997から998に上がるときの差。まあ、これを言っても仕方ないので、緊張をほぐそう。



―――まずは深呼吸…。ハー…スー…。



「あ…大樹だいき、あの人が前回の優勝者。」



俊の目線の先には大柄おおがらな男性。その周りには…取り巻き…というのだろうか。表現が良くないか…ご友人の方々が周りを固めている。



「な、なんだか強そうだな…。」



「大樹…それ、偏見へんけん。」



ゲーム上で戦うだけなのだが、どうも体育会系の雰囲気には気圧されてしまうところがある。確かに偏見なのだが、どうしても考えてしまう。同じ技でも、何だろう、迫力が違うというか…。


こんな調子で大丈夫かと不安が増すが、ここまで来た以上、退くことはできない。



『時間になりましたので、受付を始めます!1番から50番までの方はこちらの受付へ、51番以降の方は奥の受付で手続きをお願いします。』



いよいよ始まる。ビギナーズラックに期待。





ゲームセンター内には、メインステージの筐体きょうたいを除き、5つのFPS筐体が設置されていた。


今回の予選会はトーナメント形式。たまたまだとは思うのだが、参加者は128名。7回勝てば、優勝することができる。もちろん初戦で負けたらそれで終わる。ゲーム機のため、絶対に負けられない戦いだ。このチャンスを逃したら、また通販サイト巡りをしなければならない。



「じゃあ、俺はこの辺りで見てるから。」



「お、おう。」



俊は早速メインステージの最前列に席をとった。期待していただけるのはありがたいのだが、絶妙なプレッシャー。まあ、俊なりのエールだと思って、ありがたく受け取っておこう。


いよいよ俺の初戦。相手は大学生と思しき男性。人生経験でもFPSゲーム歴でも負けていると思うが、カウンターにだけは絶対の自信を持っている。回避して、攻撃。


そう、攻撃はかわせばよい。あとはカウンター。それだけ。



『では、試合を始めてください。』



「お願いします!」



緊張の瞬間。まずは操作の確認。筐体によってボタンの沈み具合が違ったりするので、タイミング命の俺にとっては最優先課題。



―――うん。こんな感じね。



あとは技を設定する。100種類以上ある技のなかから、4つ選び設定する。まあ、迷うまでもない。一番人気の設定をチョイス。まあ、技は使わないので、何を入れても一緒なのだ。



『レディー…ファイッ!』

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