第11話 「新米魔王様、勇者に思いを馳せる」




 魔王城に帰り、俺は素知らぬ顔で書斎に戻って適当に本を取り出して読んでるふりをした。

 どうやら誰にも気づかれていない、っぽい。これで勇者に出会って傷の手当までしたなんてことがバレたらどうなることか。

 にしても、あれがこの世界の勇者なのか。俺の知ってるゲームでの勇者とは何となく性格が違う気もする。そもそも勇者は選択肢を選ぶ以外の台詞はない。性格がどうかなんて分からないんだけど、でもあんな無茶をするような人ではない。

 とはいえ、あれはゲームだ。用意されたクエストをプレイヤーがこなすだけ。きっとあれが本来の勇者なのかもしれない。

 アイツ、大丈夫かな。もうあんな無茶しないといいけど。

 そうだ。森にいるモンスターをほぼ退治してるんだから、リドの耳に入っていたりするんじゃないのか。ちょっと聞いてみようかな。

 勇者が現れたことはみんな知ってたし、リドたちはどう対応するつもりなんだろう。ゲームだとストーリーの進行に合わせたモンスターをや中ボス配置してるけど、正直今のうちに勇者叩く方が早いよな。だって現実的に敵が力付けるまで待ってるのアホだろ。もしリドたちが同じようなこと考えてたら勇者が危ない。

 せめて魔王城に来れるくらい強くなるまで待っててほしい。


 そうだ。その前に俺の記憶が戻ったことを説明しないと。それと姿が戻らないことも相談しないとな。魔王なのにいつまでもちんちくりんじゃ格好付かないじゃん。おかげで勇者に魔王だってバレずに済んだのかもしれないけどさ。

 さすがにもう会いに行けないよな。勇者だって、別の場所に冒険しに行くだろうし。今日みたいな偶然、そう何度もあるわけない。


 俺は本を出しっぱなしにしたまま、リドを探しに書斎を出た。

 魔王城に残ってるのって誰なんだろう。リドが今日の予定を説明されたけど、聞き流しちゃったからな。

 漫画とかみたいにその人の魔力とかを感じて居場所が分かるようになれば便利なんだろうけど、クラッドの記憶を知っただけじゃそういう魔力探知まで使えるようにならないみたいだ。


 あ、思い出した。リドは私室があったはずだ。静かな場所がいいからって離れた場所にいるんじゃなかったっけ。

 ゲームだとリドの部屋にあった宝箱にメッチャ強いアクセサリーがあるんだよ。それが魔王攻略に役立つんだよな。



・・・



 飛んでも地味に遠かったな。

 ようやくリドの部屋の前にまで着いた。中から気配もするし、無駄足にならずに済んでよかった。

 俺はドアをノックして、返事がしたのを確認してからドアを開けた。


「失礼しまーす」

「魔王様!? どうなさったのですか、用があるなら呼んでくださればよかったのに」

「呼ぶって……スマホもないのにどうやって」

「すまほ……? いや、念話をお使いになれば……って、思念通話のやり方もお忘れでしたか……それに微かに感じていた魔力も今は全く感じませんが、何かありましたか?」

「え? あ、そっか。気配消したままだった」


 不可視化は解いてたけど、気配だけは切ったままだった。それでリドは俺が部屋に入ったとき驚いたんだな。俺は自分にかけた魔法を解いて、状態を元に戻した。


「ま、魔王様……その魔力は?」

「ん? ああ、その話がしたくて来たんだ。実は記憶が戻ってさ」

「本当ですか!?」

「あ、うん。でも戻ったといっても、何て言えばいいのかな……記憶をなくした状態の俺のまま、以前の俺の記憶を知った、とでも言えばいいのか……性格自体は俺のままというか……」


 この説明で合ってるのかも怪しいところだけど、以前までの魔王ではないのは確かだし。中身は俺のままで、クラッドじゃない。とはいっても転生云々の話はまた説明が面倒だから、その辺はぼかしておきたい。だって中身は別の世界の人間です、なんてどう言えばいいんだよ。


「そうですか……ですが、記憶が戻られてよかったです。姿かたち変わろうと、我々の仕える魔王様は貴方ただ一人ですから」

「ありがとう、リド。でさ、その姿なんだけど……記憶が戻ったし、魔力もちゃんとあるのに何で見た目がこのままなんだ?」

「そういえば、そうですね……先ほど、記憶をなくした状態のままと仰っていたので、それが原因でしょうか……? すみません、私にもよく分からなくて」

「いや、いいよ。魔法は使えるし、今のところ困ってないから」

「ええ。見た目の違いに困惑する者もいるとは思いますが、紛れもなく魔王クラッド様だとその魔力が証明してくださいます」

「でも、人間と戦うときにこれじゃあマヌケじゃないか?」

「私は問題ないと思いますが……魔王様がそういうのであれば、元のお姿に戻られるまで、人前に出られるのは控えた方がいいかもしれませんね。それまで魔王城に近付く人間はこちらで対処しておきますから」

「あ、ああ。じゃあそれで」


 なんか結果的に勇者と戦わずに済んで良かった。

 あとは人間達の出方を窺いながら、行動するしかないな。あの勇者がどう動くのかも予想できないし。


「なぁリド、魔力を探知する方法教えてくれないか」

「いいですよ。では一緒に念話のやり方もお教えしますね」

「悪いな、忙しそうなのに」

「構いませんよ。魔王様より優先することなどありませんから」

「でも、その書類の山は……」

「下界での報告書です。人間達の動向を探らせています。今のところ、勇者は単独で魔物狩りをしているとか」

「単独で?」

「ええ。先ほどもオーファスの森でアンデッドやゴーストたちが戦っていたようですが、彼らは元々死者ですから、またすぐに蘇ります」

「お、おお……」


 ついさっきの情報じゃないか。凄いな、魔族の情報網って。ネット並みに伝達早い。これも念話とかのおかげか。

 でもよかった。あの辺の敵は死んでないのか。いや、違う。元から死んでるのか。倒されても平気、と言うのが正しいのか。


「では魔王様。いつ人間に攻め込まれても大丈夫なように、魔法のお勉強をしますよ」

「……え!?」


 魔王なのに勉強するの?




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