第3話 「いきなり最終攻略地点に来ちゃいました」
空の飛び方も忘れてしまった、厳密に言えば俺自身は知らないオレを抱きかかえてリドは城まで飛んだ。
その道中、この世界のことを話してくれた。
「魔王様がどの程度忘れてしまったのか分からないので、事の始まりからお話させていただきます」
「うん。ありがとう」
そうお礼を言うと、リドは勿体ないお言葉ですと微笑んで、話し始めた。
始まりは100年前。
この世界、アイゼンヴァッハでは人も魔物も平穏に暮らしていた。
だが、ある時から人類は自分達とは異なる人種である魔物を恐れ、対峙するようになった。
魔物。言ってしまえば知性の低い獣達だ。彼らは縄張り意識が高い。当然、テリトリーに侵入してきた人間たちを排除してきた。
自分たちの暮らしを守るため。その為だけに魔物は戦う。人間達は自分たちの領土を広げたいがために魔物を狩る。そんな攻防が何年も続いた。
そんな日々が続き、段々と衰退していく魔物達。このまま滅んでいくのかと皆が絶望していた。
そんな時、立ち上がったのが魔王。その時はまだただの魔物の1人だったクラッドだ。
ただ魔物として生まれただけで迫害される日々に立ち向かうべく、彼は反旗を翻した。
知恵を付け、力を持つ。クラッドは王としてこの世の頂点に立ち、人間に脅かされない魔物達の平和を築こうとしている。
「そうして100年間、我々は人間と戦ってきました。しかし人間はその狡猾さで他種族までも味方につけ、魔物を……いえ、我々魔族を根絶やしにしようとしてる」
リドの眉間に皺が寄せられる。
この世界のこととかは大体ゲームのストーリーのままだ。だけど魔物視点となると見方が変わってくる。
今までは勇者の、プレイヤー視点だったから魔物達の気持ちなんて考えてこなかったけど、彼らには彼らで戦う理由がちゃんとある。
と言うより、人間の方が酷いんじゃないかって思えてくる。
「人間は醜悪な連中です。自分達の安否の為だけでなく、我々の体を素材にして売り捌いているんですよ。ああ、なんと卑劣な……」
「そ、そう、だね。酷いよね」
確かに、このゲームはモンスターからドロップする素材を使って装備品を作ったり、売ってお金稼いだりする要素もある。
駄目だ。ドンドン人間側が悪いようにしか思えない。これは俺の体が魔王の物だから余計にそう感じるのだろうか。
「リ、リドはやっぱり人間が嫌い?」
「当然です。このまま放っておけば、我々だって危ういのです。先日、王都で勇者と呼ばれるものが選ばれたそうです」
「勇者!?」
「ええ。その者は類稀なる力、そして才覚を持っているとかで、貴方様を倒すために魔王城に向かうそうです」
「そう、なんだ。勇者が……」
勇者が選ばれる。これは「ラスト・ゲート」の冒頭のシーンだ。
大精霊に選ばれた主人公が王様へ謁見して、勇者として冒険を始めるシーン。ここのイベントシーンのグラフィックとBGMがメチャクチャ神がかってたんだよな。
まぁ、今の俺はそんな勇者に退治される魔王なんだけど。
「本当なら今のうちに勇者を叩きたいところですが、魔王様がそのお姿では……」
「え、あーそうだね。ゴメン……」
「勇者の道中には足止めの魔物たちを配置しています。まずは魔王様の記憶を戻す方法を考えないといけませんね」
「お手数おかけします……」
「とんでもない。むしろ、魔王様は働きすぎなんです。もしかしたら、魔王様を休ませるために神が記憶を預かっているのかもしれませんよ」
当たり前といえばそうなんだけど、やっぱり魔王は配下に慕われてるんだな。
プレイヤー的な目線だと人間側の王様なんて最初と最後のシーンでしか見ないから思い入れも何もないんだけど。
「人間達もすぐには魔王城に攻め込んでは来ません。ですが、今の魔王様では太刀打ちできないので決してお1人で出歩かないでくださいね」
「俺は子供かよ」
「今の魔王様は赤子のようなものです」
リドってこんなキャラだったんだな。魔王サイドのキャラクターの背景とか性格とかはプレイヤー視点だと分からないから新鮮だ。
なんか、もし元の世界に戻れたとしても今までと同じようにゲームをプレイできるか分からないな。
「着きましたよ、あれが魔王城です。覚えていらっしゃいますか?」
「……うん。最近見た」
頭上から眺める魔王城は、ゲームの終盤に訪れる最後のダンジョン。
まさかこんな形で訪れることになるとは思わなかったな。
ラスボスの根城。最終攻略ダンジョン、暗黒天体魔王城。
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