武装メイドに魔法は要らない
忍野 佐輔/ファンタジア文庫
装填《Loading》:そして契約は結ばれた
仲村マリナは武装戦闘メイドに憧れていた。
マリナはこの時代にしては珍しく
そういった
彼女らには敬愛する『ご主人様』と、主人へ尽くす『理由』があった。
それが、とてつもなく羨ましかったのだ。
尽くすべき主人を得て戦うことが出来たらどんなに良いだろう――そう願っていた。
そう。
どうせ戦うなら〝誰か〟のために戦いたかったのだ。
だって、こんな、
誰が始めたかも分からない戦争で、爺様の頭の中にしかない『ニッポン』を取り戻せと民兵に仕立て上げられ、誰のためでもなく、ただ使い潰されるなんて。
最低だ。最悪の気分だ。
――遠く、機銃の掃射音が鳴り響いている。
それは崩壊しつつある世田谷戦線の断末魔だ。
この二子玉川戦区を失えば、南ニッポンの首都は
そんなこと、今となってはどうでも良い話だった。
マリナは吹き飛ばされた右脚を見やる。
太ももから先が綺麗に無くなり、動脈からはこれでもかというほど血が溢れ出ていた。
潜んでいた廃ビルが機関砲の掃射を浴びたのだ。直撃は避けたはずだったが、瓦礫か流れ弾でも当たったのだろう。
痛みは、もう感じない。
つまり、もう助からない。
同じように死んだ仲間を何十人と見てきた。あと数秒、意識が保てば良い方。
「クソッ……タレ、」
マリナは震える手で、戦闘ジャケットの中から一冊の漫画本を取り出す。
最後に、その表紙を目に焼き付けておきたかったのだ。
そこに描かれているのは、仲村マリナが最も尊敬し、誰よりも憧れる人。
メイド服に丸眼鏡。二丁拳銃を携えた――
「婦長、さま」
何度見ても、綺麗。
私もこんな風になりたかった。敬愛するご主人様の為に戦いたかった。
意識が、遠のく。
――ああ、死んでしまう。
まあでも、別に良いか。
悔やむほど、特別良いことがあった人生でもない。苦痛ばかりの15年だった。
と、
『……死にゆく者よ、いま一度、その魂を役立てて欲しい……』
幻聴、だろうか。
マリナの耳にそんな声が届いた。
『……死後、我を主人とし尽くすのならば、汝の欲するものを与えん……』
欲しいもの……? それなら、ある。
尽くしたいと思える『主人』。
そして、主人のために戦える『力』だ。
そう、叶うならば。
来世は素晴らしい主人に、武装戦闘メイドとしてお仕えできますように……。
そうして、
ニッポン統一戦線特二級抵抗員である仲村マリナは死に――――契約は結ばれた。
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