第947話 何の歌?

聞き覚えがあるような気がする。でも分からない。思い出せない。そんな歌が店内のスピーカーから流れてきた。私にとってその歌は、とても大事な歌のような気がするのだけれど思い出せない。店内のイートインスペースに座り、アイスコーヒーを飲む。炎天下の中を歩いてきた私にとって、このアイスコーヒーの存在はとてもありがたく、勢いよく口の中へ運ぶ。

「ぷはあ。生き返る」

そろそろアイツがやってくる頃だと思う。待ち合わせの時間の五分前だ。アイツには、散々文句を言ってやらなければならない。この間の待ち合わせも遅刻したんだから。もし今日遅刻なんかしたら罰金として、このアイスコーヒー代を奢ってもらおう。

「お待たせ」

「ねえ、さっきからさ、鳴ってるこの歌って、何の歌だっけ」

「え?忘れたの?君、昔は歌手だったんだよ。これ君の曲だよ」


この歌は、私の歌声だったらしい。私は交通事故の影響で、時々記憶が曖昧になるのだ。

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