第751話 春のかき氷

春といえばかき氷だ。それは私の中だけの常識で、それが世間とは大きくズレていた事を知ったのは、中学生になった時だった。国語の時間、春といえば何を連想しますか?という先生の問いかけに、私はかき氷だと答えた。すると教室から笑い声が聞こえた。一体何がおかしいのか。春といえば桜餅に並び、さくらんぼ味のかき氷を食べるのが普通じゃないか。あのピンク色の鮮やかな色のシロップが春という季節を感じさせてくれる。春にしか食べられない夏のかき氷とは違う特別な味。だから私は、春のかき氷が大好きだ。

うちは経済的に裕福とは言えない家庭だった。でも母は、春の楽しさ、ワクワク感を肌で感じて欲しいと思い、春のかき氷を思いついたのだと後から知った。それは母からの私への愛情のうちのひとつだった。だから誇らしく思う。他人に笑われたとしても、前よりも春のかき氷が大好きになった。特別なピンクのシロップ。またこの季節がやってきた。

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