第601話 愛のあいさつ

今日も朝からピアノの音色が聞こえる。


「おはよう」


僕は声をかける。君はピアノの演奏を止めることはしない。


「エルガーだね。愛のあいさつか。今日のような晴れた爽やかな朝にはぴったりの選曲だ」


だが君は、僕の声が聞こえていないかのようにピアノを弾き続けた。愛のあいさつの音色が部屋中に響き渡る。


「優しい音だ。僕は君のピアノが好きだな」


一曲聞きながら僕は、カップを片手にコーヒーを飲む。爽やかな風で緑色のカーテンが揺れて、朝日の光が部屋の中に入ってきてピアノを弾く君を照らす。目を閉じて優しいタッチでピアノを弾く君のその姿は、まるで天使のようだ。


演奏が終わり、君は席を立つ。


「私もコーヒー飲もうかな」

「君がコーヒー?珍しいね。いつも紅茶なのに」

「あなたが美味しそうにコーヒー飲んでるからよ」

「君のピアノの音がコーヒーを美味しくするんだよ」


そう言うと彼女は、微笑んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る