第589話 枕営業

私の仕事は、枕営業だ。よくやましい意味で捉えられるんですけどね。本当に誤解なんですよ。私は枕を売っているだけなのです。1つ30万円。磁石が入っていて磁気を発生させて眠りやすくなる。はい、そうです。いわゆる詐欺商品です。世の中、騙される奴が悪いんです。私の親は知人の連帯保証人になって借金を苦に自殺しました。真面目で人の良い両親が私に残したのは、借金だけなのです。

さて今日もやるとしましょうか。高齢者は狙い目です。歳を取ると寝つきが悪くなりますから、私の話にすぐ食いついてきます。私は明るい人柄を演じてお婆さんに売り込みました。するとそれはいいねとお婆さんは、枕を購入してくれました。


そして……


「あんた大変なんだろ?こんなろくでもない商売に手を貸すなんて、余程の事情があるんだろう。私に出来る事なんて枕を買ってあげることくらいしかできないけどね」


気が付くと私の目からは、涙がこぼれていた。

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