第587話 ロマンスの神様

冬の匂いがした。溜め息から白い息が夜の厳しい寒さの風に乗って流れていく。別れ。大好きだった彼との別れ。それは突然の事だった。


「――だからさ、別れよう」

「……そっか。わかった。うん。……今までありがとうね。元気で」


分かっていた。遠距離恋愛なんて無理だって。彼の仕事の転勤で、片道8時間かかる距離になる。そう簡単に会える距離でなくなった。私にとっても彼にとってもこの決断が最善なのだ。


「あーあ。今日、恋愛運最高って占いで出てたのにな。嘘ばっかり……」


涙を流しながら歩いていると、目の前で男の人がカギを落とした。


「あっ……」


私は声をかけた。


「あのっ!!カギ落としましたよ」

「えっ!?ほんとだ!!ありがとうございます。……あれ?ミキちゃん?」

「えっ?」


そこにいたのは、大学時代のスキーサークルの先輩だった。偶然だねと先輩は笑った。


ロマンスの神様、この人でしょうか?

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