第527話 煙草を吸う理由

「岩岸さんは、なんで煙草吸うようになったんです?」


きっかけは、職場の喫煙所での話だった。作業着を着て隣で煙草を吸う岩岸さんになんとなく聞いてみた。


「俺はな……。早く死にてぇんだよ」

「ええっ?」

「若い頃、人生に絶望しちまってな。20歳の頃だったか。それで早く死にたくなって煙草でも吸おうと思って吸い始めた。それで気が付いたら、ここまで生き延びちまった」


一体何があったんだろう?

だがそれほど辛い過去を蒸し返されるのも嫌だろう。俺はそれ以上、その話題に触れる事はなかった。


「お前は?なんで吸い始めたんだ?」

「俺ですか。俺は、まあよくある話ですけど中学の時の悪友に誘われてノリでって感じです」

「ありがちだな」

「でしょ?」


煙草を吸い終わり、外に出る。心なしか岩岸さんの背中は、どこか寂しそうに見えた。煙草は健康に悪い。だが早く死ぬ為にわざわざ吸う人がいる事を俺は初めて知った。

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