第11話
「えーっと、目撃情報があったのはこの辺だけど」
ひったくり事件の増加により通報数も増えてしまい情報は錯そう気味だ。同じ事件に対して複数の人が情報提供してくれていることもあれば、別の事件の場合もある。
これだけ事件が増えると現場に向かっている途中でも犯人と思しき人物に遭遇する場合もある。
成人女性の身長くらいありそうな長い杖を背負った青年が自転車に乗ってこちらに向かってきた。あんな長物を背負った上血走った眼でおっぱいをガン見したら危ないって。
「あんな運転じゃ危ないよ。それになんか怪しいしちょっと話だけでも」
いつもなならここで魔王が喜々としてロケットおっぱいで私のスピードを上げてくれる。それがなぜかだんまりだ。
「どうしたの? 素の足じゃ自転車になんか追い付けないんですけど」
「あの杖は若気の至りだろう。それよりも被害者に話を聞いた方がいいんじゃないか?」
「それはまあ……そうだけど」
パッと見限り高級なものには見えなかったし、あの杖をひったくるならもっとわかりやすい女性モノのハンドバッグを
「……魔王にしては的確な捜査アドバイスをありがと」
「礼などいらぬ。ほれ、さっさと行くぞ」
その声にいつもの偉そうな感じはなく、さっきまでの元気はどこに行ってしまったのかと心配……なんてしてない! 元々はこいつが悪いんだから。
「それにしてもやっぱり人の視線になれないな」
いつでも魔王の力を借りられるように胸元を緩くしているせいもあるけど、みんなのチラ見視線が痛い。本人達は見てないように
「魔王になれば常に周りからの注目を集める。今から慣れておくがよい」
「だから魔王に身体を譲らないから!」
ちょっとだけいつもの調子に戻ったのかな。それともただの空元気なのか。いつもと様子の違う魔王に戸惑いながら歩いているうちに1人の女性が目に入った。
地面に座り込んでいる彼女の金髪は地面に付くほど長く、その艶やかさは遠目に見ても伝わってくる。細い体に純白のローブを
「……やはり。やつもここに」
「なんか言った?」
「いや、なんでもない」
やっぱり魔王の様子がおかしいけど、今はひったくりの被害者かもしれない人が優先だ。
「すみません。何かお困りですか?」
おそらく英語圏の人だと思われたが、下手に英語で話しかけて英語で話が膨らんでも困る。初手から日本語で攻めることでお互いにオロオロするのだけは避ける戦法だ。
すると彼女は想像を超えるほどの鬼の形相で私を、いや、私のおっぱいを
町尾
「あの、えーっと、こんな所に座り込んでどうしたのかなって思ったんですけど」
なぜこんなにもおっぱいを睨むのかわからないけど、だからと言ってこんなにもあからさまに困っている人を放ってはおけない。
「あ、いや、失礼しました。実は大切な物を
かなり流暢な日本語で返事をしてくれた。それに見た目通り声も透き通るように美しい。それにおっぱいへの怒りの視線も嘘のだったかのように消滅した。私の勘違い? いや、そんなはずは……。
「それは大変! 私は日本の警察官です。まずあなたのお名前を教えていただけますか?」
おっぱいへの視線は気になったけどまずは職務を果たさなければ。
「プラートルと申します」
「プラートルさんが盗られたものというのは?」
「杖です。わたくしの背丈と同じくらいの木で出来ている」
ん? それってもしかして。
「あの、もしかして犯人って向こうの方に自転車で走っていきました?」
「ええ、その通りですが……」
魔王めええええ! あの時しっかり捕まえておけばプラートルさんの件をすぐに解決できたのに。
そんな私の怒りを感じとっているはずなのに魔王は一切の反論をしてこない。いつものこいつなら偉そうに何か言ってきそうなものなのに。本当に反省して落ち込んでるのかしら?
「それで、杖は戻ってくるのでしょうか?」
「も、もちろんです。警察官の威信にかけて必ず取り戻してみせます」
勢いよく敬礼するとその振動が胸に伝わっておっぱいがたゆんと揺れた。
それをプラートルさんは鬼の形相で見つめていた。
「あの……プラートルさん?」
「はっ……! いえ、すごく大きいな~って思いまして」
「あはは。私も前は真っ平らだったんですけど、いつの間にかこんな風になりまして」
「……デカ乳はみんなそう言うんだよ」
「え? なんですか?」
「いえ、なんでもありませんわ。それより、杖を取り返していただけるというのは本当ですか?」
「はい! 少しお時間をいただくかもしれませんが必ず!」
すると、魔王おっぱいがツンツンと小刻みに動き出す。まるで早く犯人を追いかけたい意志を示しているようだ。
「では、私はひとまずこれで失礼します。すぐに応援の警察官が来ると思いますので彼らに保護してもらってください。改めて事情を伺うと思うのでその際はご協力お願いします」
そう言い残してプラートルさんと別れた。
犯人を追いかけるべくロケットおっぱいを……と思ってもなぜか魔王は力を出さず、自力で今来た方向を走るしかなかった。久しぶりに普通に走るとおっぱいが揺れてつらい。
「ちょっと魔王! さっきからおかしいよ」
「……すごい睨んでおった」
「あ、うん。興味本位っていうかすごく怒りながらおっぱいを見てたよね」
「あいつはな。プラートルは余と同じ世界から来た神官なのだ」
「は?」
「勇者の剣に聖なる力を与えて余を滅ぼしかけた神官なのだ」
「えーっと、それはつまり」
「プラートルはおっぱいではなく余を睨みつけておったのだ。完全にバレておる」
「だったらなんであの時に何もしなかったのよ」
「杖がないからであろう。余は自分を滅ぼす杖を必死に追いかけておるのだ。ははは」
ひったくり犯を捕まえれば杖がプラートルさんの元に戻って、聖なる力とかで魔王が滅ぶ。そうすればこのエセ巨乳生活ともおさらばできる。
「ねえ、もし魔王が滅びたらこのおっぱいもなくなるんだよね?」
「おっぱいどころか
「はあああああああ?」
「
「いや、笑えないから!」
このまま私が犯人を見逃しても他の誰かが必ず捕まえる。どのみち魔王と一緒に滅びる運命ならここは自分で……ん?
「プラートルさんから杖を盗った犯人ってまさかあなたの部下じゃないわよね?」
もし魔王みたいな力を持ったやつが杖を奪ったのだとしたら人間の手には負えないかもしれない。
「余に部下はおらぬ! オマケが付いてきたが、余は一人で異世界転生したかったのだ」
「まあそうよね。ずっと私と一緒に生活してて部下に連絡なんてできないわよね」
「それに余は孤高の存在なのだ。もう部下などおらぬ」
「……なんかごめん」
「謝るな! 余計に悲しくなる」
部下がいないってことは、一応私も部下じゃないってことか。
「今回は魔王の力を借りずに犯人を捕まえるわ。自分を殺す道具なんて取り返したくなでしょ?」
「……
「私は警察官だし、それに勇者だっていうなら私を傷付けずに魔王だけ滅ぼしてくれるかもしれないじゃない」
「フフフ、そうか。好きにするが良い。魔王もろとも無関係な人間を殺して絶望する勇者の顔を拝みながら滅ぶのも悪くない」
「なにそれ。趣味悪い」
「魔王だからな。余は力を貸さぬが死なれても困る。無理はするなよ」
「あなたって本当に素直じゃないわね」
「フフ、魔王だからな」
そう言い残すと魔王おっぱいは眠りに付いた。力を貸さないというのは本当らしい。
魔王の力を借りる巨乳警察官でなく、ただの巨乳警察官・
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