第2話
とある異世界で魔王の存在が消えたのと同じ頃、千葉県の警察官・
「なにこれ。病気?」
昨日まで真っ平らだった自分の胸部がたった一夜でたわわに実っていた。
「胸ってアラサーになっても育つんだっけ?」
もしかしたら育つ可能性もあるかもしれないが、さすがにこの成長スピードはおかしい。ひとまず揉んでみるといい具合の弾力と張りがある。巨乳の友達に揉ませてもらった時よりも心地がいいのでたぶん私のおっぱいの方が質が良い。
「病気だとしても今のところ健康に問題はなさそうだけど困ったな……」
今までの下着では到底抑えきれない圧倒的なボリュームのおっぱいを見つめながらつぶやく。
「さすがにノーブラって訳にはいかないし、今日は休ませてもらって、まずは通販でブラを買うか」
警察官という仕事柄、予想外の出来事は日常茶飯事。冷静に今できることを分析して一つずつ問題を解決していく。が、予想外の出来事は重なるもので……。
ジリリリリリ
使ったこともないのに刑事ドラマで見たことがあるからという理由で設定している黒電話の音がスマホから鳴り響く。
「はい。
朝から容赦なく電話を掛けてくるのは近所で問題が発生したからだ。ただ、私が想定していた問題とは内容が違っていた。
「ええ。はい。剣を持った男がいる? 暴れる様子はないけど現場に一番近いから出動しろと? はい。了解です」
町の平和を守るお
「……ノーブラか……」
今までも遅刻ギリギリでノーブラ出勤をした経験はあるが、ちょっとこすれるくらいで何の影響もなかった。しかし、今日ばかりはどうなってしまうのか自分でも予想ができない。胸にこんなものが付いた状態で生きたことないし。
「今日はいつものじゃないからそんなに走り回ったりしないよね。うん。きっとそうだ」
自分に言い聞かせるようにノーブラで制服のボタンを締める。く、苦しい……。
世の女性達はこんな苦しい思いをしながら日々生きているのかと思うと涙が出てきた。
現場は本当にうちの近所で、よく暴走族がたむろしているコンビニの駐車場だった。暴走族が出てくるのはだいたい夜なのでこんな時間のトラブルは珍しい。いつもとは毛色の違うトラブルに嫌な予感がしつつ現場に向かうが……。
「ん♡」
胸が大きくなった影響なのか乳首の感度が上がっているような気がする。制服がきつくてピッチリとしているせいで胸と布の間に隙間が全くないのに原因の一つだろう。
一歩踏み出す度に身体の動きが胸に伝わってたゆんと動きたいのに、それを制服が無理矢理押さえ付けている。今まで味わったことのない刺激で頭がポーっとするし体力も奪われる。たった数百メートルの距離を移動するだけなのに息が上がってしまった。
現場に到着すると金髪にゲームの勇者みたいな恰好をした男が背中に剣を背負って立ちすくんでいた。野次馬に写真を撮られているが全く気にする様子はなく、むしろ精神統一でもしているかのような静けさだ。
もしかしたら道に迷って途方に暮れている外国人コスプレイヤーかもしれない。ひとまず声を掛けようと私の口から出てきた言葉は
「すみません」
思いっきり日本語だった。英語で話し掛けて英語で返されても困るし。
「あのー、聞こえてますか?」
日本語がわからないにしても声を掛けられたら何か反応があるはず。もしかして寝てるのか? そんな考えが脳裏をよぎった瞬間、男はクワッと目を開いて私の胸を凝視する。
その視線の力強さに思わず手で胸元を隠す。突然大きくなった自分の胸のサイズ感がよくわからずこれでちゃんと隠せてるかわからないけど。
「魔王! こんなところにいたのか!」
「は?」
男は剣を大きく振りかぶり、迷うことなく私に斬りかかってきた。
「――っく」
突然の出来事ではあったけど、日頃からこういう武器相手の輩を相手にしているので斬撃はかわせた。
「外見は小柄な女性になってもその力は健在ということか」
「元から私はこんな体型……厳密には今朝から変化してるんですけど、あなたの言う通り小柄で非力な女ですよ」
若干話が噛み合わなそうな相手だけど、全く話が通じないわけではなさそう。誤解が解けたら丸く収まるかもしれない。なんて考えは私の思い上がりだった。
「今朝から……か。ふふ、よかったな。無事に転生を果たせて。だがお前の幸運はここまでだ。いくぞ!」
男が再び剣を取るとさっきまでのん気に写真を撮って野次馬も悲鳴を上げて逃げていく。他に仲間はいないみたいだし、暴走族もいないみたいだから事故に巻き込まれることはないだろう。ひとまずこの男をどうにかしないと。
「ああもう! 胸が邪魔で動きにくい」
男から距離を取り拳銃を構える。
「あなたの目的が何かわからないけどその剣から手を放しなさい。もうすぐ私の仲間も来ます。そのまま大人しくしてください」
もし近付いて来ようものなら威嚇射撃をすればいい。そんな考えをめぐらせているものの、これまでに対応してきた犯罪者とは違う雰囲気を男から感じていた。
「やはり俺の斬撃に恐れをなしているのか。それに仲間を呼ぶとは、よほど聖剣の力を警戒していると見える」
自暴自棄になっているわけではなく、ただ純粋に堂々と
(どうしよう。だんだん体から力が抜けてきた。立ってるのが精一杯。私、ここで死んじゃうの?)
自分の身長でも警察官になれる千葉県に引っ越して、夢を叶えて早六年。まだまだ解決できていない問題は山積みだけど、住み始めた時よりかは治安がよくなったと思っている。ああ、なんか走馬燈みたい。お父さん、お母さん、今までありがとう。私は町の平和を守ってこの命を散らします。
「魔王! 覚悟おおおおおお!」
男は警告を完全に無視して剣を振りかぶり私の元へ向かってくる。。
ああ、やっぱり小柄な女じゃ犯人に舐められるんだな。私に力があればあんな不審者も一人で逮捕できたのかもしれない。
後悔の念に駆られ瞳を閉じると、胸元に妙な違和感を覚えた。
「なんだここは? 前が見えん。だが余にはわかる。近くに勇者がいるな。忌々しい政権の力を感じるぞ」
「え? なに今の声?」
近くから知らない声が聞こえる気がした。それと同時に胸元がすごくムズムズする。
緊張と恐怖で心拍数が上がっている自覚はある。だけど、そのせいでおっぱいがこんなに動くなんて聞いたことがないし見たこともない。さすがにこれはおかしい。やっぱり変な病気だったんだ。今から殺される私には関係のない話だけど。
「ん♡ あ♡ ち、乳首が……」
これから殺されるというのにおっぱいが制服の中で動くことで乳首がこすれる。慣れない刺激にこんな状況にも関わらず変な声が出てしまった。
「なんか……すごく……熱い!」
乳首で性的興奮を覚えるとこんなにも胸が熱くなるものなのか、経験がないのでわからないが、ただ、なんとなく普通ではない気がしていた。
「フハハハ! 転生したばかりで身体の感覚が戻らぬが貴様にはいいハンデだ。くらえ! 我が魔力の一撃を!」
「あ……っ! なんか、なんか……出る!」
次の瞬間、乳首から極太のビームが発射された。自分でも何が起きたのかよくわからない。発射の瞬間に気を失ってしまったから。
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