第千四百九十四話・北の国にて
Side:久遠一馬
越前担当の忍び衆から知らせが届いた。蝦夷地をウチが制してしまったことと、陸奥の最北にある十三湊も占領してしまったことが北前船により越前に知られたらしい。
すぐにエル、義統さん、信秀さん、義信君、信長さんと相談をする。蝦夷地は律令国の外なので知られても問題ないけどね。とはいえ陸奥国の十三湊も制圧したので反応はそれなりにあると予測する。
「すぐに都にも知れるの」
義統さんもちょっと複雑な顔をした。もう朝廷とあまり関わりたくないんだろう。
蝦夷に関しては最南端で日ノ本の勢力をまとめていた蠣崎家は、水軍で名を知られている出羽の安東家に表面上は従っていたようだけど、そこまで支配は強くないみたい。
蝦夷地に関しては、すでに南端の倭人の勢力圏以外はほとんどを制圧していたんだ。昨年の秋に蠣崎と通じていたアイヌが、こちらに降ったアイヌに手を出した。
まあ、アイヌも別にみんな仲良しというわけじゃないしね。いろいろと面倒なんだ。
あとはよくある争いと同じで蠣崎が出てきたが、当然ウチも出ていき戦となった。
実は事前にこうなることは予測出来ており準備はしていたので、報復として蠣崎を攻めて蝦夷を統一したというのが今回の顛末だ。
その後、事態を知った出羽の安東が兵を挙げ水軍で攻めてきたのを返り討ちに、そして彼らが逃げ込んだ陸奥の十三湊を制圧した。
「浪岡北畠はいかがなのだ?」
「今のところお味方になっていただけるようです。大御所様の書状といろいろと贈り物を送ったので、当分はなんとかなるかと」
陸奥国北部。元の世界の青森県だが、この時代は大きな勢力として南部がいて、そこに従属するような国人や独立した国人がいる。信秀さんが指摘した浪岡北畠家、伊勢北畠家の一族があそこにいる。
義輝さんと北畠家との謁見以降、こちらと北畠家は同盟関係にあることでいろいろと情報交換していて、その中でウチの動きも一部教えていた。
当然、蝦夷の大半を制圧している事実も教えてある。
今後の統一に関しても相談した結果、北から南下する可能性も考慮したんだ。それに備えて晴具さんが浪岡北畠に味方になるようにと書状を用意、十三湊を制圧する以前から通じていた相手だ。
「蝦夷も陸奥北部も貧しき地ですよ。未開の地とは言いませんけど、北側は雪が深くなるほど積もります。蝦夷は今のままでは田んぼが作れませんし、陸奥北部も人が少なく田畑も少ないんです」
陸奥は貧しい土地だ。元の世界でも東北は近代になっても貧しいままだったはず。前向きに見ると未開の土地が多いので開発さえすれば変わるけどね。
津軽半島一円は史実の太閤検地で四万五千石だったか。北国で雪も多いので稲作も北限に近い。冷害などで飢饉も多い土地になる。
まあ、史実のウラジオストクやシベリアをすでに領有しているので、海路で十三湊を使えるのは悪くはない。蝦夷地には史実の小樽などいくつかのウチの港町もすでにある。
このまま蝦夷と奥羽はウチで制圧、斯波・織田の名で従えて開発していく必要があるだろう。尾張からでは手が回らないし。
「案ずるほどではあるまい。上様の許しは得てある。騒ぐ者もおるかもしれぬが、朝廷は動くまい。六角と北畠に知らせを出しておくだけで良かろう」
信秀さんの言葉に義統さんが頷いた。とりあえず現状では情報の共有をするだけか。
蝦夷地は日ノ本の土地ではない。なにをしようとオレたちの勝手に出来る。揉めている安東は騒ぐかもしれないけど、こちらとの力関係は明らかだ。
さらに蠣崎にしても別に滅ぼしたわけではなく臣従させている。日ノ本の流儀でもやり過ぎたとは言えない。問題はないだろう。
史実にはない流れだが、このまま北から統一の流れをつくるつもりだ。
Side:
わたくしは季代子。司令により平安時代の女性をモチーフとして創られた万能型アンドロイド。長い黒髪をしていて奥ゆかしいタイプを考えて創ったと聞いたわ。実際にどうかの判断は任せるけど。
以前は北方の統治を担当していたけど、陸奥十三湊を制圧したことでこちらに移った。ここより北は人目をあまり気にしなくていいので、他の子でもいいのよね。
ここから南は日ノ本になる。相応の身分の者がいないと交渉にもならないことが移った理由よ。
「南の村が騒いでいるわ。土豪か誰かが襲ってくるかも」
「季代子、湊の賦役遅れるよ」
「ここもう嫌」
一緒にいるアンドロイドはわたしを含めて四人。
戦闘型の知子。鎌倉女性をモチーフにしていて、活発な性格をしている。丸顔でショートヘア。元はロングヘアだったけど、自分で髪型を変えたのよね。割と喧嘩っ早いのが玉に瑕。
技能型の優子。室町女性をモチーフにしていて、煌びやかなものが好きで、こっちに来て以降はそんなものばっかり開発していた子。髪を三つ編みにしていて、一昔前の学生みたいな子なのよね。
医療型の由衣子。江戸女性をモチーフにしたはずなんだけど、当初の設定のままでは髪型の維持が面倒だからと変えている。お団子ヘアをしていて、割と好き嫌いが激しい子。
三人揃って滞在するゲルに戻ってきたけど、あまりいい表情じゃないわね。
ここ十三湊は半ば放置されていたところ。栄えていたのは今よりも古い時代で、今も湊として使ってはいるものの、蝦夷と畿内方面を往来する船が通るくらい。
元あった湊が土砂で浅くなったり、戦があったりしたことで過疎地となったみたいね。
史実の陸奥湾に拠点を移したほうがいいかしら? ここは冬場に大変なのよねぇ。シルバーンに調査と検討をしてもらおうかしら。
文化レベルも生活レベルも畿内よりも遥かに低い。
湊や近隣の村では竪穴式住居が普通に使われているところもある。これはこの辺りに限ったことじゃないけど、畿内と尾張は先進地なんだと思い知らされることは幾らでもある。
「永住するわけじゃないんだから。冬までにやれることやらないと困るわよ」
近隣の勢力に攻められる可能性はある。誼を深められたのは浪岡北畠だけ。しかもここからそんなに近くもない。最低限の守りを固めて湊の整備がいるわ。港レベルは高望みね。
現在、蝦夷を筆頭に各地から連れてきたウチの兵に近隣の調査をさせている。
十三湊の民はこちらに降った村から賦役をさせているけど、人口が少なすぎてやれることが少ない。
もうちょっと人を送ってもらったほうがいいわね。
◆◆
永禄元年、夏。蝦夷を平定した久遠は戦を仕掛けてきた出羽の安東を退け、安東が逃げ込んだ十三湊を占領したことが『織田統一記』に記されている。
争いのもとは蝦夷地における争いだったとあり、蝦夷地南部を支配していた蠣崎などが久遠と争った末のことであった。
将として入ったのは久遠一馬の妻である久遠季代子、久遠知子、久遠優子、久遠由衣子の四人で、後に奥羽四将とも言われる者たちである。
畿内や大陸からも遠く離れた奥羽の地は長らく不遇のままだったが、久遠が十三湊に入ったのをきっかけに変わることになった。
現在では奥羽の夜明けと言われることもあり、歴史の分岐点のひとつとして上げられる。
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