第三百四十七話・お花見コンパ

Side:久遠一馬


 今日は久遠家主催の独身お花見大会だ。場所は去年と同じ清洲にある寺になる。


 ちなみに明日は久遠家の家臣に、忍び衆と工業村の職人や牧場の領民や孤児院の子たちを集めた花見で、明後日は昨年に続き織田家主催の花見となる。


 三日連続になるけど、天気が良くて見頃というと何日もないからさ。宇宙要塞のシミュレーターで随分前から予測して日を決めた。短期的な気象改変も出来るけど、さすがにそれはね。


 今日の独身お花見大会は家中の十代から二十代前半の独身の男女は、ほとんど参加している。例外は滝川家のお清ちゃんと望月家の千代女さんだ。


 ふたりもエルを通して誘ったんだけどね。お見合い的なお花見は辞退するとのこと。


 別にこれで相手を決めなくてもいいって言ったんだけど。今後も定期的に独身向けの催し物はやる予定だしね。


 世間的にふたりは、いつの間にかオレの側室みたいな扱いになっているから、参加してくれればいい人でも見つかるかと思ったんだけど。


 まあ気が進まないなら構わないだろう。ふたりともエルたちの侍女としてよく働いているから、自立しているしね。まだ十代半ばだし焦る歳じゃない。


「今日は遠慮せずに楽しんでくださいね」


 桜はほぼ満開だ。エルも珍しく一緒にお酒を飲んで若い男女の橋渡しをしている。


「彼は医師として勉強中なんだよ。将来は保証するよ~」


 あっちではパメラが医師見習いの若い男を売り込んでいるね。


 参加者は百人以上いる。二百人を超えているかもしれない。ケティは病院で当番らしく働いていて、この場にはいないが、他にも尾張に滞在している妻たちがあちこちで混ざって上手く盛り上げたりしている。


 あとは滝川家と望月家の年配の女衆の皆さんも、今日は仲人として頑張ってくれている。


「慶次。あの人たちに報酬いくら出せばいいんだ?」


 ちょっと驚いたのは笛や太鼓を鳴らしている賑やかな集団だろう。河原者とこの時代では言うんだろうね。いわゆる流れの芸能の人たちか。


 最近の尾張は景気がいいから、娯楽業を始め、文化面にたずさわる人たちが増えたんだよね。


「報酬は某が払いました故、ご懸念には及びませぬ。ご安心を。『お気に入る』『以降も励め』と思し召しとあらば、後で褒美をいくらか与えるが、よろしいかと存じますな」


 どういう人たちかは知らないが演奏が結構上手いね。賑やかで祭りみたいでいい。どこでこんな人たちと知り合うんだろう。でも、騒ぎすぎてお寺の人に怒られないかな。あとで謝っておこう。


 女性に人気なのは一益さんや益氏さんなどの滝川家と、望月家や柳生家の人たちだ。石舟斎さんは大和から嫁が来るかもしれないと、資清さんが言っていたけど参加している。


 武芸大会の成績もあるし彼も人気だ。ただし女性の扱いが一番うまいのは慶次だろう。遊んでいるんだろうなぁ。


 ただ、慶次の奴はいつの間にかあちこちに顔を出して、なかなか上手く異性と話せない人をフォローしている。


 自分の相手を探しなさいって言っても無駄なんだろうな。某漫画と違い、史実だと普通に結婚していたはずなんだけど。


 しかしあれだね。自分の恋愛経験も少なく、結婚もこの時代に来てエルたちとしたのが初めてだというオレには、他人の縁組は難易度が高い。


 もちろんエルたちや慶次を真似て、あちこち回って話は聞いている。ただ、オレが下手に仲人の真似事をすると失敗しそうだし、なによりオレの立場だと『断れない強制』になりかねない。


 従って普通に話を聞いて一緒に楽しむしかないだろう。無論、それも役に立つとは思うけど。


 まあ、家柄とか気にする人はウチにはほとんどいない。そんな人は断ったし、滝川家や望月家は基本的にそれぞれの家にお任せだ。


 ただオレが血縁による政や外交を嫌うのを知っているから、滝川家も望月家も動かないけどね。もっと言えば血縁による縁組の価値がウチにいるとあまりない。普通は血縁関係で優遇されたりするけど、ウチではありえない話だからね。


 織田一門や重臣が相手ならば別だろうけど、国人衆や土豪相手に血縁を作っても、ウチにいる限り利点がないんだよね。極端な話、職人さんや商人の方がまだ見込みがある。


 重臣クラスからはチラチラと打診は来ていた。望月家は繋がりがないものの、滝川家は池田家と縁戚だしね。相手は繋がりが欲しいだろうからなぁ。


 資清さんと望月さんが断っているのは気付いているからだろう。ウチのやり方が、旧来の血縁に依る引き立てや重用にまったく合わないこと、必要とも感じていないことに。むしろ邪魔に感じているくらいだからね。


 ただ、誤解して欲しくない。血縁者を排除したい訳ではない。血縁を評価の考慮に入れたくないから、『考慮しろ』と言動に出す者が不要なだけだ。


 若者に自由に伴侶を選ぶチャンスと機会を与えるのはオレの考えだ。資清さんたちも理解してくれている。


 ちょうど太田さんが自分で伴侶を見つけたしね。身分差があったにもかかわらず、自由恋愛で伴侶を決める、ちょうどいい先例になった。


 ただ、オレ自身はエルたちにでさえ、そこまで自由を与えられていない。どうしようもない負い目がアンドロイドのみんなにはある。


 エルたちは秘密を抱えるアンドロイドなだけに、完全な自由恋愛にはさせられない。ただオレに愛想が尽きたりしたら、伴侶となる男性型アンドロイドの創造くらいは許可するつもりだ。


 まあ愛想を尽かされないように努力をしているつもりだけどね。


 少し話は逸れたが、同性愛者とかではない限りは、今回がだめでも、最終的には結婚が出来るような手助けがしたい。


 自由恋愛が当たり前になるのは長い年月が必要だろう。ただ、この時代でも恋愛結婚はあるし、公家や武家などの上流階級を除けば、自由恋愛もあり得ることなんだ。


 無論、お見合いのような縁談も否定はしないし、いい面もあるとは思っている。


 とはいえ武家のように完全に家の都合で結婚して、女性が生涯、家屋敷や城に閉じこもる人生は変えてやりたいとは思う。まあ、閉じこもって暮らせるのは、それなりに権勢の有るところだけで、内に外に働き詰めのほうが多いかなぁ。


 女性同士の宴やイベントはこれからも増やす予定だ。土田御前も積極的だし協力も得られるしね。信秀さんも家中の女衆の交流には乗り気だ。


 大きな期待をしているというほどではないが、これで少しでも家中が上手くいき、つまらない謀叛や対立が減ればと願っているらしい。


「お清殿、千代女殿。支度はいい?」


「はい」


 お酒と美味しい料理でみんなが盛り上がってきたところで、ちょっとしたお楽しみ抽選会をする。


 銭や刀剣に鎧なんかから、最高級から中級くらいの絹や綿の反物に、食べ物や高級酒までさまざまだ。


 みんなにはクジを配って、オレが予め作った抽選箱から当選番号を引いて渡す。まあ、元の世界だとよくあるイベントだよね。


 お清ちゃんと千代女さんにはお手伝いを頼んでいる。


「えーと、五十九番の人。銭三十貫です。五十九番の人」


 不正がないように引くのはオレでも読み上げるのはお清ちゃんにした。この時代ではそこまで気にしなくていいんだろうけど、気分的にね?


「お前! お前だろう!」


「やったな!!」


「えっ……。駄目だろう!? オレが三十貫も頂くなんて!! 先月尾張に来たばかりだぞ!」


 なかなか名乗り出てこないので、周囲が騒然とするが、みんな周りの人のクジをのぞいたりして、ようやく当選者が判明した。


「あの人は……」


「先月、今川から逃げてきた者です」


 当選者は二十歳くらいの男性だった。思いっきり動揺している。知らない顔だから、後ろに控えている千代女さんに聞くと新参の忍び衆らしい。


「先月でも昨日でもいいよ。当選おめでとう」


 周りの注目を一身に集めて狼狽する男性に、笑い声があちこちから響く。ここにはもともと身分が高くない人が多い。


 着の身着のままで、僅かな可能性に懸けて、ウチに仕えてくれた人がほとんどだろう。それが仕えて僅か一か月で貰う三十貫は、ちょっとした宝くじにでも当たったようなものだろうか。


 引き渡しは後日だ。ここで渡しても困るしね。それに彼にいきなり三十貫も渡しても困るだろう。少しずつ必要な時に渡せるように資清さんに頼んでおくか。家臣のみんなの禄も年に数回に分けて与えているしね。


 エルが道三さんに言った言葉じゃないが、ウチで働くみんなには希望を持って働いてほしい。


 さあ、賞金や賞品はまだまだある。


 みんなに配り終えるまで続けよう。



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