第二百四十六話・海外戦略と山の村

side:アンドロイド


「報告! こちら中部太平洋工作隊。グアム及び中部太平洋の原住民とのコンタクトに成功」


「了解。物々交換で交流を進めて」


 北の基地はもう冬になっているけど南はまだ夏ね。ガレオン型工作船がとうとう中部太平洋に進出した。


 太平洋を航行するスペイン船は不幸な事故でいなくなり、中部太平洋の領有化の邪魔者はいないわ。


 原住民とのトラブルは可能な限り避けたいけど、どこまでできるかしらね。友好的にしてもこの手の原住民とは争いになる可能性も高い。


 言い方は良くないかも知れないけど、力による支配も決して悪いわけではないわ。原住民の文化や権利を守りつつ同化政策を取るのなら、力による支配も選択肢に加えておかないと。私たちの傘下に入っていると明確にしないと、後々ちょっかいを出すモノが必ず現れるわ。


 現地の統治体制や文化があまりに未熟だと混乱しか起きない可能性もあるのよね。現状だと有人島は友好的に接触しつつ無人島を開拓したほうが早そうだけど。


 まずは手頃な無人島に砂糖のプランテーションを作るべきね。さすがに日本に持ち込む砂糖の量が多すぎるわ。地上にも製造拠点が必要か。


「報告! こちら大西洋潜入隊。スペインにて白鯨狩りが計画されています」


「了解。引き続き潜入を続けて」


 次は大西洋か。いよいよスペインも本腰を入れてきたわね。この数ヵ月で沈めた船は多いもの。宣教師の船ばかりが沈むので、計画の背後にバチカンでもいそうね。そっちも調べておきますか。


 アジア行きは宣教師が乗っていなければ見逃しているけど、新大陸行きは積極的に沈めてるもの。スペインが動くのは当然ね。


 悪いけど新大陸は貴方たちに渡さないわ。欧州人は欧州で生きてちょうだい。


 アジア方面はガレオン型輸送艦にて交易をしているけど、さじ加減が難しいわね。あまり沈め過ぎると日本への影響が大きくなる。


「報告! こちらマスカリン諸島駐留隊。モーリシャス島及びレユニオン島及びロドリゲス島に集落の建設完了」


「了解。そこはしばらくそのままの予定だから、ゆっくりバカンスでも楽しんで」


 インド洋にはクラーケン型無人潜水艦を配備しているけど、将来の拠点としてマスカリン諸島を領有した。無人なうえに規模も大きすぎず地理的にも将来必ず役に立つはず。領有しない手はないわ。領有した以上は船が要るから、アラビア系のダウ船型哨戒艇の配備を急がなくちゃ。


 元の世界だと絶滅したドードー鳥の保護も兼ねてるから一石二鳥ね。


 ただし、こちらは久遠家とは関係ないことにする予定。クラーケン型無人潜水艦とダウ船型哨戒艇で防衛しつつ、将来的には独立させるか日本領に組み込めればいいんだけど。いつになるのかしらね。


「こちら硫黄島基地。定期航宙輸送艦が遅れてるみたいだけど、なんかあった?」


「司令が突然コーヒーが飲みたいって言うから、物資にコーヒー豆を追加したのよ。島にも植えてるけど品質はまだまだだから」


「へぇ。そうなんだ。本土に持ち込んでいいの?」


「大丈夫じゃない? エチオピア近辺だと普及しているみたいだし」


 小笠原諸島は平和ね。各種工事もすでに終了していて擬装ロボットとバイオロイドの集落もある。


 宇宙で生産された食料・絹・綿・硝石・銅銭なんかを輸送艦で地上に降下させる。地上の部隊への物資なんかも一緒に送っているけど、本土に時代にそぐわない品物を持ち込むのは制限しているわ。


 向こうはそれなりに不便だけど実際に行くと意外に楽しいのよね。


 私は来月には行けるわ。ちょうど運動会の頃になるかも。楽しみね。




side:久遠一馬


「すっかり村になりましたね」


 久々に山の村に来てみると、村はほぼ完成していた。ここは定期的に報告は受けていたけど、少し遠いこともあってあまり来られなかったんだよね。


 村作りは事実上山内さんに任せることになったけど、こちらの要望を見事に形にしてくれた。


「たたら村のように上手くゆけばいいのですが……」


 ここがあくまでも試験的な村だと山内さんは知っているけど、なにをどこまでやるかはまだ説明してないしね。多少不安もあるらしい。


 ここに住む領民は紆余曲折の末に忍び衆から選ぶことにした。幾つか候補があったんだけどね。技術者育成も兼ねているので、最終的に甲賀の忍び衆から選ぶことにしたんだ。


 条件としてウチの家臣に登用することにしたら、志願者が多くて選ぶのに困ったほどだ。生活の保証はもちろん、禄としての賃金を払い、その他の成果に応じて褒美を歩合にすることにした。村に移っても待遇は維持しないと。


 中には山の生活の方が性に合うという年配者もいるようで、そちらは優先的にお願いした。


 山の村はあくまでも試験的な村だ。炭焼きに椎茸栽培や養蚕を試すためなので、将来的にはここで得た技術を織田領内に広める役割を彼らに頼むことになる。


「なんとかなりますよ。それに失敗したらそこから学ぶこともあります。ですから失敗も決して無駄ではありません」


「なるほど。そういえば戦のない世のために考えておられるというのはまことで?」


「確かに考えていますけど。どなたから聞いたんですか?」


 村や村の周囲を見て回って休憩をしていると、山内さんが少し迷う仕草を見せながら質問をしてきた。誰から聞いたんだろう?


「殿が佐治殿から聞いたと言うておられましてな」


「ああ、佐治殿ですか。前に少し話しましたからね」


「本当にそのような世が来るのでしょうか?」


「どうでしょうね。ただ、奪わなくても食べられるようにはしますよ」


 戦のない世の中。生まれながらに戦ばかりの世の中に生きる山内さんには、やはり想像も出来ないことなのかも。


 信秀さんには未だに大法螺吹きだと笑われるくらいだ。でもそのためのひとつが山の村になるんだ。


 予定していた忍び衆のみんなには移住してもらおう。早めに現金になるのは炭焼きかな。炭焼き窯の作り方とか指導しなきゃ駄目だね。


 蚕は桑の木を植えなきゃならないし、椎茸は以前に間伐して乾燥させてた原木を運び、試してみなきゃならない。


 まあ効率的な炭の生産と植林さえしてくれたら、ここは十分に価値がある村となる。




「ここは年を越せそうですか?」


「そうですな。なんとか年を越せるでしょう」


 山の村の視察の帰りに伊勢守家の内乱で荒れた村を見に来ると、なんとか復興をしている村が見えた。


 田んぼは戦で駄目になったので、今年の稲作は無理だったが、大豆とか蕎麦を植えさせたのが順調に育っている。場合によっては多少の食料援助は必要かもしれないが、そこまで深刻そうでもない。


「新鮮なきのこも取れたし、帰って鍋でもしようか」


「それはいいですね」


 せっかくなので、エルと山の村の周辺で少しだけキノコを採取してきたんだ。ちなみに、オレが取った分はエルに毒キノコを選別してもらった。今日の夕食はキノコ鍋にしよう。


 天然のキノコは味が濃くて美味しい。干し椎茸はウチではよく使うけどね。たまには天然のキノコもいいもんだ。


 ああ、鶏肉と一緒に炊き込みご飯にするのもいいなぁ。


 戦国時代に来て食事は特に不便なことも多いけど、エルが工夫して頑張ってくれてるんだよね。


 本当にみんなと一緒で良かったよ。よくある異世界転移物みたいにひとりだと、オレなんかは生きていけないかもしれない。


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