第十四話・新しい日々

side:久遠一馬


 毎日、日替わりで夜の生活をするというのは、いろいろとくるものがあるな。幸せといえば幸せなんだけど。みんなの気持ちとか今までの関係とか考えるとね。


 もっとも強制はしていない。そこだけはひとりひとりに確認している。


 現状だとみんな新しいことに興味を持ったり、日本を良くしたいと調べたり考えたりしてくれている。生きる素晴らしさを感じて楽しんでほしい。


 尾張では南蛮吹きの実験は成功した。その結果、正式に粗銅の精錬と銭の鋳造を行う施設を造ることになった。


「鉄を作る施設も一緒に造るとは……」


「この手の作業はどうしても目立ちますからね。ならば鉄を作る施設を造り、そこに混ぜてしまったほうがいいかと思いまして」


 この件は機密を保持しなくてはならないということで、平手政秀さんが責任者になった。そんな政秀さんに、オレたちは南蛮吹きと銭の鋳造施設と一緒に、高炉と鉄製品を作る施設を造る提案をしている。


 材料と燃料は当面は船で運ばねばならないだろう。原材料はアメリカかオーストラリア辺りから頂こう。


 鉄鉱石は奥三河にも質はともかくあるらしいが、織田領ではないので採掘するのは難しいしね。


 施設の規模は最初はそれほど大きくなくてもいい。製鉄は技術のある職人を育てるのが第一だし、作った鉄も最初は農具などを中心に作れば、多少品質が悪くても使えるはずだ。


 場所は政秀さんにお任せするしかない。この時代だと機密を守るには城のように、堀などを擁した場所にしなくてはならないらしい。


 高炉を作るには川が必要だけど、尾張には川がいっぱいあるしね。どちらかと言えば防衛と、信頼できる職人を集めるのが大変みたい。




「随分持ってきたな。売るのか?」


「最初はそのつもりだったんですけどね。仕えることにしたのでウチで使うことにします」


 ああ、エルたちと相談して津島に入港する船を増やすことにした。足りないものや欲しいものを運ぶには、週一くらいのペースで船を入港させないと足りないんだよね。


 そんな中、真っ先に取り寄せたのは、シルバ―ンで生産した大量の硝石と百丁の火縄銃だ。


 この時代だと、農民だって戦に行くのが当たり前だ。禄を貰う以上は怖くて行けませんとは言えないしね。


 オレ自身は生体強化をしてるから、肉体的には問題はないはず。


 あとは禄に合わせて兵を集めなくてはならないのだろうが、部下となる兵を抱える以上は、武器や防具はちゃんと揃えてやらないとダメだ。


「高価な硝石をまた大量に……」


 信長さんは鉄砲を扱ったことがあるらしい。そんなに普及していないんだけどね。さすがに身分がある人だ。


「ああ、それ練習をする硝石です。このあと火薬にして撃つ練習をしないと」


「そんなこと誰もせんぞ?」


「ウチは船乗りしかいないので。とりあえず若様の友人の皆さんに練習してもらいましょう。酒造りはまだ出来ませんから」


 現状だと少しでも尾張でお金を使うために、硝石以外の火薬の材料は津島の商人から買うことにした。どう考えても買う量より売る量が多いんだ。


 火縄銃は信長さんの悪友の皆さんに練習させれば、鉄砲隊としていずれ活躍してくれそうだしね。


「今のように普通に戦なんかしたら、いつまでも世の中は変わりませんよ。銭を稼いで銭で戦をしないと」


 将来的にはもう少し進化した鉄砲を使いたいとこだけど、当面は火縄銃で専門の鉄砲隊を作るのが無難だろうか。


 この時代は、戦では弓や鉄砲ばかりか石を投げていたほどだ。鉄砲を上手く使える人を増やすのは必要になる。兵農分離と火力向上は今から少しずつやらないと。


「ああ、若様たちも練習するなら使っていいですよ。出来ればある程度でも狙って撃てるような人は、増やしたいですから」


 火縄銃は那古野の屋敷に運んだ。津島の屋敷で毎日鉄砲の音を響かせるのもね? 周りは商家とかだからさ。


 那古野の屋敷は周りが武家の屋敷らしいから、事前に伝えておけば鉄砲の練習をしても構わないだろう。


 それとこっちの屋敷も風呂の増築とトイレの改築とか、津島の屋敷を改築した大工さんに頼んだ。




「本当にこの辺りを使ってもよろしいので?」


「ああ、構わん。どうせ荒れ地だ」


 日を改めたこの日、オレとエルは信長さん那古野郊外の荒れ地を紹介された。馬と牛を育てる牧場を作りたいと頼んだら探してくれたらしい。


「どこまで使ってよろしいのでしょうか?」


「荒れ地だ。近くの村の田畑までは好きにして構わん」


「思っていた以上に広いですね。畑も作りましょう」


 エルは早くも地形や地質を調べつつ、牧場の位置を大まかに決めていく。相当広いな。まあ広いほうがいいんだけど。


「そういえば津島の屋敷の庭も畑にしていたな」


「畑は日ノ本にない作物など植えたいですね。いろいろ試してみたいんです」


 牧場については説明してある。この時代ではわざわざ馬や牛に仔を生ませて品種改良などはしない。そのための牧場であり、日ノ本にない作物を試験栽培する場所でもある。


 あとエルたちと相談したことだけど、いわゆる近代的な農業を一部でも普及させる前段階として、自分たちで畑を作ってみせるのが一番だとなったんだよね。


 牧場は、牧草がこれからの時期だと育ちにくいから、来年の春から始めるとして。体格のいい馬を集めて初歩的な品種改良くらいはやらせてみたい。


「馬や牛を集めるならば、先にほりを掘らねばなるまい。盗まれるぞ。それにこの辺りは狼も出る」


「そうなんですか?」


「当たり前であろう。場所的に空堀からぼりになるだろうがな」


 信長さんは先に堀を掘らせるつもりらしい。


「そうですね。ほり板塀いたべいは欲しいですね。畑に種をまき、馬や牛を放すのは来年の春になるでしょうか」


 あれ? エルもそのつもりだったのか。畑だけなら大丈夫かと思ったんだけど。


「しかし馬を集めて増やすとは、面白いことを考える」


「優良な馬と優良な馬を掛け合わせて子を残させるのが、いい馬を増やすには最適なのですよ」


「言われてみると道理だな」


 信長さんはどっちかといえば、牧場の馬に興味があるみたいだね。この時代だと野生の馬を捕まえて売ってるからなぁ。馬の品種改良って概念自体が日本にはない。


 それにしても酒造り・南蛮吹き・銭の鋳造・高炉と製鉄・牧場と畑と、少しやること広げすぎたかね?


 でも人を育てるのは早いほうがいいからなぁ。最初は規模を小さくして、技術を教えたら、後は職人から職人へと技術が伝わるだろうから、なんとかなると思うんだけどさ。


 あとは生糸の染色と織物にする技術も、早いとこ教えたいんだけど。これは津島と熱田辺りの商人に技術を教えて任せるべきかも。


 オレたちは宇宙で作ったデザインや質感の違う最高級品を少量販売して、後は生糸を尾張に持ち込み尾張産の絹織物を売るようにしたい。


 蚕は尾張統一しないと無理かね。尾張の上四郡には米作りに向かない地域もあるし、史実で養蚕業をしていた地域も確かあったはず。


 綿花は肥料が必要だから、この時代には無いような大きな網でも持ってきて、魚肥作らないとダメだし。


 やっぱり人に任せられるものは、任せていくしかないね。



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