第22話 初めてのクリスマスデート(5)(by 純花)

「ねえ、ひーちゃん、この場所って」

「え? あ、うん。ラブホテルだねえー」

「……だねえって! なんでこんなところ知ってるの? ていうか高校生がこんなところ入っていいの!?」


 私の動揺っぷりとは対照的に、ひーちゃんはなんにも気にしていない様子だ。

 も、もしや、こういうところに、前にも誰かと来たことがあるんだろうか。


 そんなの、聞いてない。なんだかすごく、面白くない。


「だって、しょうがないでしょ。二人ともびしょびしょなんだから。……ほら、早く服脱いで。風邪ひくよ?」

「えっ、えっ……」


 ひーちゃんは手際よく、お風呂にお湯を張って、タオルも準備してくれていて。

 私はもう、いろんなことが恥ずかしくって、冷えていたはずの身体がなんだか急に熱くなってくる。


「はい、先に行ってらっしゃい!」


 そう言って背中を押されて、お風呂に送り出されてしまった。


 ゆっくり温まりたいのもやまやまだけど、とりあえず、ひーちゃんが風邪をひかないように、さっとお風呂に入って出る。


 幸い、びしょ濡れと言ってもコートとズボンがやられただけで、下着のほうは無事だったからよかった。ちょっと嫌だけど、もとの下着を身につけて、備え付けのバスローブを上から羽織って出る。


 これもなんか恥ずかしい。でも、もたもたしてもいられない。


「ごめんね、お待たせ!」


 下を向いたまま、急いでひーちゃんと交代する。


「さむーー」


 ひーちゃんはそう言いながら、入れ替わりにお風呂場へ行く。

 その間にどっと疲れが出てしまって、私はついつい、大きなベッドに寝転がってみる。


 ふわふわ。ふかふか。ああ、なんだか眠くなってくる。


 そんなことをしているうちに、あっというまに、ひーちゃんが戻ってくる。やっぱり私と同じ、バスローブ姿で。


 ああ、もう。


 私はひーちゃんの姿を直視できなくて、ついつい布団の中に隠れてしまう。


「こーらー。純花! また逃げるの?」

「うーー、逃げてないもん」

「どこが。こんなところまでついてきといて」

「ひーちゃんが連れてきたんじゃん」


 お互い、言い合い。罪のなすりつけあい。ひーちゃんは次第に近づいてきて、布団の中に入ってきて。私はついに、逃げ場がなくなった。


「純花。……ねえ、こっち向いてよ」

「……」

 

 まるでキスでもしてしまいそうなほどの距離に、ひーちゃんの顔がある。


「純花がちゃんと言わないなら、こっちから言うからね」


 ひーちゃんは、私の目をまっすぐ見つめたまま、そう言って。


「純花……好きだよ。……付き合って?」


 目を潤ませて。こっちの返答なんていらないんじゃないかってくらい、有無を言わせないような言葉で。


 だから、私もちゃんと言う。


「私も。……ひーちゃんのことが、好き。大好き!」

「……純花っ」


 私たちはお互いの名前を呼んで、抱きしめ合う。そしてどちらからともなく、唇を触れ合わせた。


 ひーちゃんの唇はやわらかくて。よく聞く、マシュマロよりもずっとふわふわで、なぜだか甘くて。

 頭の中がとろーんととろけてしまうのだけど。


 ずっとそうしていたい、なんて思っていたら、急にぱっと離されてしまう。


「あのさ。前から思ってたんだけど」

「……え、なに?」

「恋人になったんだよね?」

「え、う、うん」

「じゃあさ」


 ひーちゃんは、私の耳に口付けるようにしながら、ささやく。


「私のこと、ちゃんと、名前で呼んで。『ひーちゃん』じゃなくて」

「え……」


 なにそれ。そんなこと……?


 私は熱くなった耳の借りを返そうと、ぐぐっと体勢を変える。覆いかぶさるようにして、そして彼女の耳元に唇を近づける。


氷菜ひな


 名前を呼ぶと、一瞬だけ照れたような表情をする。本当に可愛い、私の初めての彼女。


「大好き」


 もう、今までさんざん焦らされた分、いっぱいお返しをしてやるんだから。


 恥ずかしがるくらい、何度だって名前を呼ぶ。髪を撫でながら、唇をそわせながら、何度だって。


 その日は、ママたちには絶対言えない、私の初めての夜になったのだった。

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