第18話 初めてのクリスマスデート(1)(by 純花)
12月24日。クリスマスイブのこの日。偶然うっかり入れてしまったこの場所で、私はひたすら途方に暮れていた。
ここは本来、高校生の私たちがいるべきではない場所で。しかもクリスマスイブにはどうやらなかなか入れないような場所で。
そんなところにいるからか、なんだか妙に恥ずかしくなってしまって。
私は一緒にいるその人の顔も見れずに、うつむいてしまっていたのだった。
*
朝起きると、時刻は既に9時を回っていた。
やばい、遅刻しちゃうっ!!
今日のデート相手である、ひーちゃんとの待ち合わせ時間は10時。待ち合わせ場所の都心の駅までは、私の家からは早くても40分はかかる。
大急ぎで支度をして、家を出る。寝癖を直す時間も惜しくて、がんばって髪をまとめた。後ろのほうでなんか、みーちゃんが笑ってて悔しいけど、もう気にしてる場合じゃない。早く行かないと。
ちょっと高めのヒールの靴でダッシュして、赤い電車にぎりぎり滑り込んで。なんとか待ち合わせには間に合いそうだった。
「ひーちゃん、お待たせ。ごめん、待ったよね?」
「ううん、だいじょうぶ。こっちも今着いたところだから」
待ち合わせ時間ぴったりに着いたけど、ひーちゃんは既に待っていてくれて。お決まりのやりとりをしてしまったけど、なんとなく待たせていたような気がして不安だった。
「今日、寒いね」
だから、そう言って、ひーちゃんの手を取る。私の手よりもちょっとだけ大きくて、すらっとした長い指で。私はひーちゃんのこの手が大好きだ。
「つめたっ……! やっぱり待ってたんじゃん! もう……」
ひーちゃんの手は案の定冷え切っていて、結構な時間、外で待っていてくれたんだということがわかる。
「だってほら、クリスマスだし、混んじゃうかなって思ったから」
そんな言い訳みたいなことを言うけど、多分ひーちゃんも私と同じで、今日のデートが楽しみだったんじゃないかって、そんなふうにやっぱりちょっとだけ、期待してしまう。
……しかし、うーん、デートで、いいのかな? いいんだよね?
べつに付き合おうとか、ちゃんとそういうことを言われたわけじゃないから、実はなんとなく不安なところはある。だけど、意外とチキンな私には、それを確かめる勇気もない。
でも今日こそは、ちゃんと確かめよう。そんな気持ちもないわけではない。多分。
ひーちゃんと私は同級生で、小学校の頃からの付き合いだ。
ひょんなことから仲良くなって、中学、高校と同じところに進んで。実は小学生くらいのころには、お互いの家にも行ったことがあるのだけど、中学以降は、遊んでいるところを親に見られるのがなんとなく恥ずかしくて、公園とか、ゲームセンターとか、カラオケとか、そういう場所で遊ぶことが多くなった。
中学生の頃はどちらかといえば複数人で遊ぶことが多くて。私は普段は、同じ美術部の子たちなんかと放課後に集まって、部活とは名ばかりの趣味のお絵描きなんかをダラダラしていた。
時にはオタク系の友達がなんかイベントに出るとかいうのを手伝って漫画の背景を描いたりとか、なかなか充実した毎日を過ごしていたわけだけど。
一方で、ひーちゃんは、厳しい規則のある吹奏楽部で、毎日バリバリ練習をしていた。ひーちゃんは小さい頃から、音楽好きな両親の影響でクラシックピアノを習っていたみたいなんだけど、本人が興味を持ったのはジャズのほうで、中学で始めた楽器はウッドベースとかいう、やったら大きい弦楽器。
クラシックの世界だと、コントラバスっていうらしいんだけど、詳しいことは知らない。ひーちゃんは背が高いし指も長いから、あの大きい楽器を楽々弾きこなしていて、それがすごくカッコよくて。
クラスメイトに誘われて行った演奏会でたまたま、演奏しているひーちゃんを見たときに、ついうっかりドキドキしてしまって。
私は音楽は詳しくないから、音の良し悪しなんてわからないけれど、ひーちゃんの弾くウッドベースの低音は、なんだか全身に響いてくるような感じで、その感じがなんだか心地よいような、落ち着かないような気がした。
多分それが、私がひーちゃんを意識してしまったきっかけだったんだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます