第548話 さゆりちゃん

胸には、小さなアクリルの名札。

銀の地に、レリーフで。

国鉄の車掌さんと同じ。


日本食堂

 渡辺



とある。友里恵はそれを見つけて「渡辺さんね」



ウェイトレスさんは「ハイ。さゆりです。」とにっこり。


丸顔、ふんわり大柄、色白。かわいらしい。

髪はちょっと茶色っぽくて、ウェーブ。


セミロングくらいだけど、後ろの左右でふたつに分かれている。



由香は「さゆりちゃんかー、かわいいね。学校でモテたでしょ」



さゆりは、ちょっと恥かしそうに「いえ・・そんなことは・・・」と、あたりを気にして。



友里恵は「あ、ごめんね。引きとめちゃって。じゃー、オーダーオーダー。」と。



愛紗は「わたしはレモンスカッシュ」


由香は「アイスコーヒーにする」



かしこまりました、と・・・複写になっている伝票にボールペンで書いて。


ぺこり。


お辞儀をしてカウンターに戻っていった。



後ろ姿もかわいらしい。ふたつに分けたウェーブの髪が、ふわふわ。

ゆらゆら。




由香は「かわいいね」


友里恵「ほんと」



愛紗は「日本食堂って。どこの駅かな」



菜由は、窓の外をちら、と見て「東京じゃない?」



友里恵「じゃ、東京から来て西鹿児島で泊まって。いーなー、そんな仕事。

毎日旅じゃん」



由香「そーだね。まあ、バスガイドも似たようなもんだけどサ、泊まりになると」



友里恵「あー、思い出しちゃった。やだなぁ帰るの」


由香「スマン」



友里恵「いいっていいって。逃げててもいつかは帰るんだし」





駅のアナウンスが聞こえる。


ーー寝台特急富士号、東京行き、まもなく発車致します。

お見送りの方はデッキからお願いいたしますーーー


古風な電子メロディが聞こえる。




小倉駅のホームの端っこに、かしわうどんのスタンドがあって。


・・たしか、元気なおばさんがお店に立っていたっけ・・


と、愛紗は思い出す。


同じ九州でも、門司港あたりになると「ふく天うどん」と、下関と同じメニューのスタンド。



だんだん、九州から離れていくんだなぁと、愛紗はちょっと旅愁に耽ったりする。


窓の外を見て。




もう、夜なのかな、と思った。


ホームの上がビルディングなので、空が見えず

わからない。


ミニスカートの女子高生が、楽しそうに数人。はしゃぎながら歩いていく。



シャギーの髪、眉を整えて。

どことなく汚れた制服のスカートは、しわしわで。




友里恵は「ナンカ、懐かしいなあ、あのスタイル」



由香「うん。あたしらはブルーのチェックで」




菜由は「そうなんだ。あたしは紺のブレザー」


愛紗「わたしも」



友里恵は「へー。愛紗は修道服かと思った。ミッション系でしょ」



愛紗は笑って「修道服」



菜由「そういう学校もあるんじゃない?」



由香「なんか怖いね、でもそれ」



友里恵「ぜーんぶグレーのほっかむり」




由香「ほっかむりなのか、アレ」



友里恵「さあ」



由香「わかんないで言うなって」



食堂車はドアがないのでわからないけれど



ドアが閉じたらしく、振動が伝わってきて。



ごとり



と、列車は動き出す。




ぐい



と、引っ張られる感じ。






「おまたせしました」と、さゆりちゃんは


ステンレスのトレイに、アイスクリーム。


銀の食器に、丸く盛られている。


さくらんぼ。



やっぱり銀のスプーン。ウエハース。




友里恵はにっこり「おー、来た来た」


「キタさんかい」と、由香。



友里恵は右手を前に出し「この紋所が目に入らぬカー」



由香「それはスケさんだろ」




さゆりちゃんは、笑って「楽しいですね」



友里恵は「さゆりちゃんっていくつ?」



さゆりは、すこしうつむいて「18歳です」



由香は「高校生なの?」



さゆりは、かぶりを振って「卒業したばかりです」



アイスクリームを、友里恵の前に置いて「タンサンの飲物もありますから」と

カウンターに戻る。



食堂車の半分がキッチンになっていて、もう半分がレストラン。


キッチンのところは、通路になっていて。そのあたりにカウンターがある。

暖簾が下がっていたりして、なんとなく懐かしい。

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