第475話 st.thomas

会社の中を小川が流れていて・・・その畔を歩いて

木滑と、千秋。

もう明るい、4月の朝を歩いていく。


木滑は、年季の入った制帽を、斜めに乗せて。


「女の子ダイアでしょ?」


千秋は、真新しい制帽を真っ直ぐ。


「はい」




木滑は、うなづいて「そうだね、無理しない方がいいね。

危ないし」



千秋は「はい」



木滑は思いだす。愛紗を乗せて最初のハンドル訓練で

横断歩道でおばあさんが歩いているコトに気づかない乗用車が

事故になりかけて。

それに直面したことがキッカケで、愛紗は挫折して。




それで。今は転属先を・・と言うか、身の振り方を考えている。




小川の畔から、駐車場について



丁寧に階段が出来ていて、そこを登ってバスのある広い場所に。



4863号の前に。



前面のドアコック・カバーを開き、非常コックを開いて

前扉を開けた。


空気の抜ける音がする。


「さ、乗って。一応、点検するのがきまりだけど。

昨日帰りにやったし」(^^)。




千秋も「はい(^^)。



まだ比較的新しい4863は、綺麗だ。

ノンステップ。



よいしょ、と小柄な木滑は登り、目前にある運賃箱に

金庫を入れた。


かちゃり。




「コレは新しいから平気だけど、古いときはコネクターがね。アレだから

認識しないかも・・・習ったね」



千秋は「ハイ」




後ろにあるメモリーカードカバーを開き、四角いメモリを入れて。


運賃箱のキーを垂直に戻す。



バッテリースイッチを入れて。



ぴー・・・。

料金表示が瞬いて、起動する。

運賃箱も動く。



「けっこう電気食うからね、冬はエンジン掛けてやった方がいいね」



と、木滑。






「はい」と千秋。




ティップ・シフトのノブは水中花がついている(^^)。






木滑は、運転席に座って「タコグラフは入れてあるけど、ふつうは朝やるね。」



と、シフトを左右に揺すって、エンジンを掛けた。



軽快に、エンジンが掛かる。



ドアが、ばたりと閉じる。


「僕が運転するから、そこで見ててね」と、木滑。



千秋は、一番前の席に座った。



木滑は、クラッチを踏んで。シフトを2。


一応、指差し確認。

左、右、前アンダー。車内。前よし。

アイドリングでクラッチをつないで。



すぅ、と、7mバスは走り出す。

空気ばねなので、ふんわり乗り心地。


雲に乗っているように、ゆらゆらしながら走り出す。



右回りに車庫を出て、バイパス道路に出て。

ターボ・エンジンなので、トルクが大きい。


駅まで行って、そこから客扱いである。


LEDの行き先表示は「回送」

指示番号9。








由布院の4人は、その頃・・・・まだ、のんびり朝。




愛紗は、少し早く目が覚めて。

「最後だから・・・」と。



昨日行かなかった大浴場にいって、朝風呂。



朝日、さんさん。


打たせ湯の音が響いていて。




今日で見納めと思うと、なんとなく淋しいけれど(^^)。



静かに、透明なお風呂に浸って。



「いろいろあったな・・・・」と思いだしていた。



研修もあまり身にはいらず・・・東京駅から夜行で九州へ。

一週間旅して。


なんとなく、心が定まった・・・ようだと言うか。

よくわからないけど。


元気になれた。



やっぱり、旅はいいなぁと・・・思う。





同じころ・・・407号室の友里絵たちは・・・まだ、のんびり・・おねむ。

まあ、友里恵たちは普通の休暇。

これからも、ひょっとすると・・・トラベル・ライターになれるかも、なんて

期待半分。夢半分。


フリー。

バスガイドもふりー契約にも出来るので、そういう「フリーの掛け持ち」

でも生きていけるかな、なんて・・・・。


思いながら。寝た。

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