第337話 青森の思い出

理沙は、思う。「こんな暮らしがしたかったら・・・車掌かなー。でも男だよね」

と。


男なら、寝台特急の車掌になって。

通し勤務で、青森<=>上野とか。


それは、青森車掌区の担当だった。


青森<=>大阪は


大阪車掌区の担当、なので・・・

青森区は、コトバがいろいろで面白かった。


列車無線を聞いてると・・・・


「いつれっさ、さそーです、はっさー」(一列車車掌です、発車)と、津軽弁が聞こえたり。


「↑かい、きゅう↓せんに↑えむ、うんてんし、こちらしゃしょう」とか(↑↓のように、音程


が変わる関西弁)。




たまーに、ディーゼルカーで奥羽線を走っていくと、津軽新城から

一見複線に見える、単線並列なので・・・。

そういうコトバではなす列車が、いったりきたり。


ブルー・トレイン「日本海」とか。「ゆうづる」とか。

入れ替え機関車は、最初D51だったりする。

東青森の客車区まで、牽引して行ったり。


石炭の燃える香ばしい匂いがして。

架線も黒く煤けていたり。



そんなことを思い出して、懐かしくなる。



「ふるさとは・・・とおきにありて、か」



遥か、3000kmの彼方。

「青森にいつか、帰れるかなぁ・・・」なんて、思いながら

卵かけの、納豆ごはんを食べてたり。


やっぱり、津軽娘である。

たまごの、とろり。

納豆の、つるり。



「あの、三角の経木で包まれた、でっかい豆の納豆、美味しかった」


国道7号線、弘前あたりはのどかで。


撫牛子の駅から、少し北。


お豆腐やさんに、よく買いに行ったっけ。



そんなことを思うと・・・「九州じゃなくて、茨城あたりでも良かったなぁ」と

思うのだけど。


茨城、千葉は

首都圏の蒸気機関車機関士が、ディーゼルの免許を取って

乗っていたので空きがないのだった。


千葉、佐倉、那珂湊。


貨物が多いので、女子機関士の仕事は無かったりする。



いま、九州で旅客のディーゼルを運転しているのも

観光、と言うか・・・・話題つくり、みたいなところも多少あった。



観光特急・女子運転士・若年。


そういう、イメージつくりもあったようだった。




「愛紗ちゃんが来たら、人気になるね、可愛いもの」と、理沙は思った。



「あ、でも・・・今から運転士になったら、27歳くらいかな。特急に乗れるまで」


理沙だって、青森だったし。お爺ちゃんが名機関士だったから

少し、優遇されたところもあった。

18歳で入って、今、25。



「やっぱ、若い方が人気になるものね。イメージとしては」

それは、否めない(^^;






その、愛紗は・・・・。


「伯母さん、起きてるかな」と、駅に電話を掛けてみた。



伯母さんは、変わらない声で「ああ、愛紗?いま?由布院?・・・そう。」


愛紗は「わたしね、こっちに戻る事にした。」



伯母さんは「そう、」と、優しい声で。

「ウチだったらいいよー、いつまで居ても。駅、手伝ってくれたら。

私も年だから、その方が楽だし。」



愛紗は、なんとなく安堵した。けれど・・・どこかで

淋しかった。


決めてしまったら、これで終わり。

みたいな気持。



電話を切ってから「でも、しょうがない」


自分のどこかに、鉄道への憧れがあって。

次善策としてバスに乗った。


無様に、鉄道員になれなかった、と言う

敗北感を味わいたくなかったから、逃げた。


そういう自分が、どこかで嫌だったのだろう。



「一度、試してみるのもいい」

そう思えるようになったのが、旅をして、得たものだったのかな・・・なんて思う。






まゆまゆちゃんは・・・・・

人吉からの「九州横断特急」の車掌補業務に就いていた。


専務車掌は居るので、検札と、出札だけ。

ワゴンの仕事は、この仕業では、無い。


熊本まで。


熊本から折り返しである。



ちょっと、緊張する。


乗客案内掛、と言うからには

ダイヤや、乗換え案内、切符の案内も

一応、出来た方が良い・・が。


難しいお話は、専務さんを呼んでもいいことになっている。





とは言え、人吉から乗るお客さんは、大体地元の用務客の・・・

金曜の朝。


それほど心配は無い。




「あ、車掌さん」と、呼び止められると

なんとなく誇らしいけど・・・緊張する。


そんな、まゆまゆちゃんだったりする(^^)。




制服を着ていると、乗客には

「車掌」に見えるのかなー、なんて。(^^)。

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