第291話 緒方駅

友里恵たちの乗った「あそ3号」は、快適な速度で

坂を下っていく。


録音の音声、にこやかな女の人の声で、アナウンス。



ーーまもなく、緒方、緒方ですーー。


結構、里に下りてきた。



友里恵は、「あ、綺麗な駅」と。

ガラス張りの、新しい駅。


右側の窓の方を見た。


「あ、バッタちゃん、いなくなってるね」と。菜由。



由香「ホントだ。飛んでいったのかなぁ?」

窓枠にくっついていたので。



ともちゃんは「羽があるから、飛んでいったんでしょうね」

と、にっこり。



さかまゆちゃん「いいお天気だし」

と、お空を見上げた。


気づくと、空は晴れていた。

山の天気は変わりやすい。豊肥本線は、山を越えて来るので

よく、こういう事がある。



パティは、ワゴン・サービスが一段落したようで

ワゴンを業務室に固定した。


グリーン車の隣。そこから直接、ホームに下ろせるようになっている。


レモンジュースを、6つ。

穴のあいた、カップ運びのお盆で。


「はい、どおぞ?」



友里恵「ありがとう。んー、おいしい。冷たくて、フレッシュ」

ウィンク☆。にこにこ。



愛紗は「氷、よく溶けないね」



パティは「冷蔵庫、あります。業務室に。」

と、にっこり。



菜由「ああ、そっか、そうだよね。それでないと。帰りもあるし。」



パティは「拠点駅で補充したりしますけど。アイスクリームもあるので」



友里恵「あ、アイス!いーなあ」


由香「腹こわすぞ、また」



友里恵「壊してないよーだ。食べたから、出ただけ」



由香「きたねーなぁ。アホ」



みんな、笑う。「ほんと、かわいい、友里恵。赤ちゃんみたい」と、パティはにこにこ。

友里恵をなでなで。




友里恵はにこにこ「えへ。赤ちゃんほしいなー」


由香「作れ」


菜由「アレシロの月か」



由香「面白い!君こそスターだ!」


と、指差して。



友里絵「お笑い、のね」




と。


パティもにこにこ。


菜由は「ついにお笑いになったか、あたし」



愛紗も、和んだ。くすり、と笑う。






列車のドア、折り戸がぱたり、と閉じて。


「あそ3号」は、発車する。



がらがらがら・・・・と、エンジンが床下で響いて。

これは、都会のほうではあんまりない感じだから


遠くへ来たなー、と友里恵は思っている。

帰りたくないなぁ、なんて思ったりもして。

ちょっと旅愁。



「でもさ、パティは大分なのに、ともちゃんたちとお友達になれて」と、友里恵。



パティは「ハイ。時々、熊本行きますから。車掌区で、なんとなく。」



さかまゆちゃん「パティ、かわいいもの。人気者ね」



パティは「えへへ」と、にっこり。

大柄で、ブロンド。青い瞳。

なんというか、友里恵と並んでいると

マトリョーシカのお人形みたい。大きさが。



ともちゃん「どこ行っても人気者だねー」


愛紗は「どのあたりまで行くの?」


パティは「はい、小倉ー宮崎ー熊本くらいです。たまーに久留米ー博多。

「ゆふいんの森」の時」と、思い出すように。


左手のひとさしゆびを立てて。



ともちゃんは「明日、乗るよ。ゆふいんの森」



パティは「あ、それで由布院泊まりなの」



さかまゆちゃんは「そう」と、にこにこ。



パティ「いいなぁ、ゆふいんの森」



友里絵「来るとき乗ったよ」


由香「そうそう、飛び乗ったんで・・・」




友里絵「だって、かっこいーもん」



ともちゃん「かっこいいですね、あの列車。色も綺麗だし」


さかまゆちゃん「ホント。」





その頃・・・お兄ちゃんは

EF81-137で。24系25形、ブルー・トレイン編成を回送して。

そろそろ、熊本客車区の留置線に到着。


「はやぶさ」編成らしく、熊本区の車両。



いつもの貨物線とちょっと違うので、間違えないように・・・と。


入線するレール、そこの信号機を確認する。






「待7、進行!」


待機線、7番が進行である。


確認済みの番線である。




旅客線なので、清掃用に簡易ホームがついている。

乗り降りは楽。



流れるように、そのホームが近づいて。


ゆっくり、ゆっくり・・・・。



速度、20。



結構、押されると重い編成だ。


電気ブレーキ、そろそろ失効。

機械ブレーキを掛ける。


編成直通電磁弁で、1ノッチ。

機関車単弁は、開いたまま。

編成全体が、密着連結器なので

連結器ばねの間隙を開くように。


機関車と編成の間は、普通の自動連結器なので

間隙が大きい。

そこの間隙を無くすのが目的・・・。

編成にブレーキが掛かり、機関車が後ろに引かれるような感じになって

機関車単弁を掛け、停止。


停止位置、よし!



確認し、停止する。




「若干・・・早着かな」 そんなものだろうと思う。



ブレーキを非常位置にし、転動防止。



計器類確認。


ランプ類、異常なし。



鍵を抜き、携行品を持って、降りた。



この編成は留置のようだ。




機関区は隣なので・・・・少し歩いて。機関区に着く。



指令室に行き「35仕業、137列車日光、乗務中異状なし」と、終着点呼


機関区長は「ごくろうさん」と、にこにこ。


区長も、今朝から勤務である。


もうそろそろ、勤務終了だろう。





さあ、帰るかな・・・と、ホッとしたお兄ちゃん。


機関区長は「あ、日光ちゃん。」と、にこにこ。



お兄ちゃんは「何ですか?」



機関区長「特急組の予備、時々やってくれる?」









まゆまゆちゃんは、もう熊本駅に着いていて

車掌区で中間点呼を受けた。


あとは、帰り・・・人吉までは回送扱いである。

これも勤務時間になるので、大体、住んでいるところの

区に所属する。



帰りも乗務があればいいが、普通列車に乗務しないまゆまゆは

帰りの列車が少なかった。

それで、昇任試験を受ける事を薦められる。

そうすれば、普通列車の車掌も出来るからだ。



でも、恵の言うように

普通列車に乗るようになると、結構トラブルもあったりするから

まだまだ、19歳のまゆまゆとしては・・・ちょっと心配なところ。



ガイド=>ドライバーになろうとしている愛紗とちょっと似ている。




「お父さんの言うように、お嫁さんに行った方がいいのかな」なんて

思ったりもする、まゆまゆちゃんだった(^^)。


もうじき、20歳の誕生日。


同じように、20歳の板倉裕子は、もう車掌である。


「偉いなぁ、裕子さん」と・・・。思った。





「お兄ちゃん、来るかなー。」と、思いながら。


機関区へ電話を掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る